乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第47話 ◆勇者 Ⅰ◆


SIDE 藤堂あかり

私の名前は藤堂あかり。
ひょんなことから異世界に来てしまいました。
初めの内は頭の中がごちゃごちゃで混乱していたけど二週間経った今は大分慣れてきたと思います。

「あかりちゃん、あかりちゃん」

「ん? 何? リンちゃん」

「さっきから食べようとしてるんだろうけど食べ物が全部下に落ちてるよ」

今私に話しかけてきたのは幼なじみの三森鈴音、通称リンちゃん。
私は今城内の食堂で食事をとっている途中だったんだけど考えごとをしていてどうやら食べることが出来てなかったみたい。
数年前まではリンちゃんに加えてもう一人いたんだけど……。
とにかく今は食べることに集中しないとね。

「おーい、風間! 聞いたか?」

「何をですか?」

「その顔だとあんまり知らないみたいだな」

私達の近くではクラスのリーダー的存在の風間君とクラスでムードメーカーの佐藤君が他の人にも聞こえるような大きな声で何事かを話しています。
何の話でしょうか?

「その話し方なんだか気になりますね」

「そうでしょう、そうでしょう……っとまぁそろそろ本題に」

「早く教えてくださいよ」

「分かったよ。実はな俺達そろそろ城の外に出れるかもしれないぜ」

城の外!? 今まで城の敷地内で暮らすように言われたのに急に何で……。

「それはどういうことなんですか?」

「俺達は魔王を倒すためにここに呼ばれた。まず魔王を倒すためには力をつけないと何も始まらないだろ? だけど俺達はまだ何もしていないわけだ。それでこの前兵士が勇者様達にもそろそろ始めてもらわないとなって話してるのを聞いちゃったんだよ。これは絶対、野外訓練か何かだぜ」

「確かにその可能性はありますね。けど別の可能性だってありますよ?」

「いや、それがな……その兵士の話に加えて兵士達がたくさんの防具とか武器をどこかに運んでるところを俺は見たんだよ」

「なるほど……その話を聞く限り野外かどうかはともかく訓練の可能性は高いですね」

「だろ? だからよ。もし訓練で組むことになったら一緒に組もうぜ」

「はい、考えておきます」

「頼むぜ!」

「はい」

二人は最後にそれだけ会話を交わしてそれぞれの部屋に戻っていきました。

そうか、これからは戦う日々が続くようになるのか……。

私は食事をとり続けながらそんなことを思いました。

◆◆◆◆◆◆

あれから数日が経ったある時……。

城のある一室に集められた私達に風間君と佐藤君が話していた訓練の件が伝えられました。
私は事前に聞いていたので驚きはしなかったけど知らなかった人達はとても驚いていたみたいです。
そして気になる訓練内容ですけど兵士達が同伴でこの城から近くの森のゴブリンを討伐するという簡単?な内容の訓練なので安心しました。
今回の訓練は好きにグループを組んで良いらしいので私はリンちゃんと組むとしましょう。

「リンちゃん! 一緒にグループ組もうよ!」

「あかりちゃん! 私も今あかりちゃんを探していたところだよ」

これで二人は決まりました。
一グループ四人なので後二人欲しいところだけど……。

「おーい! 藤堂!」

後ろから私を呼ぶ声が聞こえるので振り向くと風間君と佐藤君が手を振っていました。

「どうしたの?」

「ああ、そのなんだ。人数が足りないなら俺達と組まないかと思ってな」

確かに人数が足らなくて困っていたのでこの誘いはグッドタイミングですね。
断る理由はないでしょう。

「こっちも丁度人数が足らなくて困っていたから助かるよ」

「いや俺達も同じ状況だったからこっちとしても誘いを受けてくれて助かったよ」

そんなわけで私達のグループは私、リンちゃん、風間君、佐藤君の四人で組むことになりました。
丁度他の人達もグループが決まったみたいです。

「グループは決まったようですな。それでは明日の戦いに備えて英気を養って下され」

城お抱えの魔法使いでしょうか?
魔法使いがよく身につけていそうなローブを纏った老人のその言葉で今日のところは解散しました。
今日説明されて明日からなんて急すぎますが仕方のないことなのでしょう。
私達は勇者として召喚され、この二週間何一つ不自由のない暮らしをさせてもらったわけです。
勝手に召喚しておいてなんて思う人が中にはいるかもしれませんが私はこの二週間に受けた恩は返すべきだと思います。
それに魔王を倒さなければ戻れないわけですから少しでも強くなった方がいいでしょう。
とにかく今日は明日に備えて早く休むとしましょう。

「藤堂さん! ちょっといいかな?」

私が一緒に城内の自室に戻ろうとリンちゃんを呼びにいこうとしていたところ風間君に呼び止められました。
一体なんでしょうか?

「……?」

「藤堂さん、あなたのことは私が守りますので安心して下さい……ただそれだけです。ではまた明日」

「はい、また明日……」

一体なんだったのでしょうか?
まぁいいでしょう。
とりあえず訓練開始は明日です。
張り切っていきましょう!

◆◆◆◆◆◆

訓練の説明から一夜があけて次の朝……。

私達は城の裏門から目的地である森へと向かっています。
なぜ正面から出ないかというとなんでもまだ勇者を召喚したことを公にしたくないみたいです。
理由を聞いても答えてくれなかったので私達には言えない何かがあるのかもしれないです。

「そろそろ着きますので準備をお願いします」

先頭を歩いていた兵士がそう言うと私達の方へと体を向けました。

それにしても森というのはとても不気味な場所ですね。
入り口近くであるここから森の中を見ても少し奥はよく光が届いていないのか暗いです。
この森の中に入るには少し勇気がいるような気がします。

私がそんな考えをしている間にも他の人達は着々と準備を進めていました。
私も準備をしなければ。

「まだ武器を手にしていない勇者様はいらっしゃいますか? いないようなら……」

「すみません! 今取りに行きますので少し待って下さい!」

こうして武器を手にしたわけですけど使えるわけがないです。
ついこの間までただの高校生だったんですから。
普通の高校生は武器なんて振り回さないですからね。

まぁ文句ばかり言っていても仕方ありません。
私も他の人達と同じようにグループと合流して森の中に入るとしますか。
武器が使えるか使えないかはやってみないと分からないですからね。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品