乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第40話 護衛依頼 Ⅴ
勇者、それは異界から召喚されし救世主。
勇者は魔王が現れる度に召喚され、その度に魔王を討ち滅ぼしたという。そんな存在が今、俺の目の前で楽しく談笑していた。
「お前ら! こっちに注目しろ!」
ガンゼフが勇者達に向かって声を張り上げる。それに対して勇者達は慌てた様子で声がした方向へと顔を向けた。
「お前ら今回の目的はなんだか分かるか?」
「レベル上げか?」
「魔物狩りじゃない?」
「修練に決まっている」
勇者達は律儀にガンゼフからの質問に答える。
「まぁお前らの言うことの半分は正解だ。今回の目的それは二つある。一つ目、それはダンジョンに向かうことだ! 今回、目的としているダンジョンだが町から出て少し行ったところにある初心者用のダンジョンだ。そこでお前達にはレベルを上げてもらう、つまりは強くなってもらうってわけだ。そして二つ目の理由、それはこの世界の厳しさってやつを知ってもらうことだ。まだお前らは世界の厳しさを知らないだろうからな、良い機会だろう。ここまでで何か質問はあるか?」
「はい、一つ質問があります」
手を上げた勇者、それはクラスの中心的存在、風間亮太である。
「ん? なんだ?」
「先ほどからあなたがどのような人なのか分かりません。よろしければお教え願えますか?」
「お、そういえば名乗るのを忘れていたな。俺の名前はガンゼフだ。このギルドのギルドマスターをしている立場だな」
「なるほどギルドマスターの方でしたか、失礼しました」
「忘れていたのは俺の方だしな、そう畏まるな。それで他に質問はないか?」
ガンゼフは一通り勇者達を見渡し、質問者がいないことを確認したようで次の話へと移る。
「いないみたいだから次にいくぞ。ダンジョンに挑むって言っても戦ったことがないお前達じゃ不安だろ?」
一部やる気に満ちている勇者もいるみたいだが大体の勇者達は一様に不安をあらわにしていた。
「まぁそこは心配するな。そうなると思ってな、あらかじめ護衛をつけてるんだよ。おい、依頼受けたやつは前に出てきてくれ」
俺達を含めた依頼を受けた冒険者が続々と前へ出る。前へと向かいながら護衛の人数を数えたところどうやら俺達を合わせて十三人いるようである。ということは三人、四人のぐらいのグループに一人の割合で護衛につくことになりそうだ。
俺が周りの冒険者を観察しているとガンゼフが俺へと近づいてきた。
「おい新入り、その外套はなんだ? そこの仲間二人がいるから分かったがパッと見て誰だか分からないぞ」
「ガンゼフさん、これは気にしないでくれ。それよりも説明が途中で切れてるけど良いのか?」
「おっといけねぇ……」
俺の言葉で自分のすべきことを思い出したのかガンゼフは慌てて俺のもとを離れ、自分の元いた場所へと急いで戻った。
「お前ら! 前に出たこいつらが護衛についてもらう冒険者達だ、仲良くやれよ!」
「「「はい!」」」
「それじゃあまず四人一組のグループを作ってくれ。ダンジョン内では作ったグループで行動することになるからな、相性も考えて選べよ」
「「「はい!」」」
「グループが出来たら、俺の独断と偏見でグループごとに護衛についてもらう冒険者を割り振っていくぞ。じゃあ開始してくれ!」
ガンゼフのその一言で勇者達は一斉に動き出す。
それにしてもこの光景を見ていると、なんだか元の世界の学校のことを思い出すな。ガンゼフが先生で、勇者達が生徒で、今はグループワークの班決めといったところか。
俺がどうでもいい思考をしている中でも勇者達は着々と四人一組のグループを作っていき、ガンゼフがそこに冒険者を割り振っていく。このままスムーズにいくかと思われたグループ決めだが、予想外というかある意味必然的なことが起こった。
「お、グループが出来たみたいだな……って一人余っているじゃないか」
そう、グループ決めを行うと必ずと言っていいほど出てしまう余りものである。四人という定員に溢れてしまった勇者、確か高崎千穂という名前だったと思う。その勇者は周りをキョロキョロと見渡して他に入れるグループを探そうとしているが見つかるはずもない。全体を見渡したところグループを作っているところは皆四人なのだ。全体人数を四で割ると一余るのである。
「困ったな。誰か入れてやれるグループはいないか?」
ガンゼフの言葉を受けてもなお、彼女をグループに入れようと名乗りをあげる者はいない。
てっきり風間亮太辺りが手を上げてグループに入れようと言うのかと思ったがそうでもないようだ。寧ろ顔を背けてグループに入れまいとしている。高崎さんに何か問題でもあるのだろうか。
そう思った俺は彼女のステータスを覗き見る。
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名前: チホ
種族: 人間
職業: 勇者
Lv.5
HP : 246/246
MP : 60/60
ATK : 64
DEF : 47
MATK: 32
MDEF: 28
DEX : 42
SP : 40
スキル:『弱体強化』
称号 : 『異世界の勇者』
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『弱体強化』・・・周りの全てを弱体化する代わりに弱体化させた分自らのステータスを一時的に底上げする。このスキルはスキル保有者が戦闘行為を行った際に適用される。
なるほどな、これは確かに誰も入れたがらないわけだ。
彼女をグループに入れただけで自分が弱体化してしまうんだからな。こんな強引なスキルなんて存在したんだな。
俺は再び彼女を見るが、俯いていて顔がよく見えない。その姿はまるで全てを諦めているような、この世界に絶望しているような、そんな風に見えた。
「まぁ強いんだけどな、スキル的に仲間は出来にくいよな……」
俺はガンゼフのもとまで行き耳元で一言囁く。
「どうしてもってグループが決まらないようだったら、俺がアイツと組むよ」
「本当か? でも二人だぞ? 良いのか?」
「ああ、良いよ。寧ろ守る対象が減って楽出来るからな」
「……ったく。お前は相変わらずお人好しだな。分かったよ」
「じゃあ決定だな」
これでグループの問題は解決したな。結果的に四人のグループが十一つと、俺と高崎さんのグループが出来たわけだ。
四人グループにそれぞれ一人ずつ護衛がついて、俺は高崎千穂と組むだろ……あと一人はどこに入るんだ?
俺がそう疑問に思っていると、ガンゼフが再び説明を始める。
「決まらないようだから余った一人はこのフードの怪しいやつと……そうだな残りの護衛でいいか」
随分と適当な判断だな。まぁ二人しかグループにいないのだから、そこに一人追加するのも当然か。
「じゃあ冒険者は各自指定されたグループのところに移動してくれ」
ガンゼフの声と共に冒険者達が移動を開始する。
「俺も高崎さんともう一人の冒険者のもとに行くとしますか」
俺がグループのメンバーのところへと向かうと、そこには高崎さんの他にもう一人、ちっこいやつがいた。ちっこいやつは俺の胸ほど高さしかなく、白色の髪をしていて…………これってもしかしなくても朝のアイツじゃないか。
そう、朝にお風呂場であったあの暴力的な幼女。その幼女本人が俺のグループメンバーの一人だった。
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