乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第35話 お金事情


「お、二人とも終わったか」

「待たせたわね」

俺は自分の報酬金を受け取った後、ソフィーとリーネの二人が報酬金を受けとるまでギルド内で待っていた。ちょうど今、二人と合流したところである。

「カズヤはどのくらいだったの?」

合流して早々にリーネが俺の受け取った報酬金の額を聞いてきた。

「そんなに知りたいか?」

「知りたい」

「正直私も気になっていたのよね」

そこにソフィーも参戦してくる。どうやら答えなければいけない空気が既に流れているようだ。

「そうだな、仲間だし聞かれても問題はないか」

「そうよ、言っちゃいなさいよ」

「早く」

俺の報酬金ってそんなに知りたいものなのか? まぁ俺も二人の報酬金が気になるし、そういうものなのか。

「これはちょっと他には言えないんだけど……」

俺は二人を近くに呼び耳元で小さく報酬金の額を囁いた。
もし俺が普通に話して周りに話が広がったりしたら色々と面倒なことになるからな。最低限の自己保身である。

「……!?七千万!?」

だが話した直後にソフィーが驚きからか俺の報酬金額を口に出してしまう。その七千万という言葉に周りの目が一気に俺達に集まった。
まずい、どうにかしなければ……。

「あ、あー確かに戦っているときは七千万体くらいいるかと思ったよな……アハハ」

自分は少し厳しいとは思うが、周りの人は多分誤魔化せただろう。

「なんだ、聞き間違えか」
「俺はてっきり報酬金の額かと思ったぜ。そりゃねぇよな」
「だな」

その証拠に周りの人達はこんな言葉を口に出していた。しっかりと誤魔化せたようで良かった。
そう思ったのも束の間……。

「何の話? 報酬金の話でしょ?」

まさかのリーネから追撃を受けた。完全に安心しきっていたときの追撃だ。このソフィーの攻撃とリーネの援護射撃コンボに上手い返しなど見つかるはずもなく、俺はしばらくの間何もすることが出来なかった。

「最後にフレンドリーファイアかよ……」

最後に辛うじてその言葉だけを発して、俺は床に膝をついた。
仲間だから大丈夫だろうと思っていたが話してはいけないのは実は仲間の方だったかもしれないと俺は今になって思うのだった。

◆◆◆◆◆◆

「よう、相棒。なにか困ったこととかないか?」

一人で依頼を選んでいるときに急に話しかけてきた俺を相棒呼ばわりするこの中年の男。最近知り合った冒険者というわけでもない。全く知らない赤の他人だ。
ちなみにギルドで報酬金を受け取った次の日の朝の出来事である。

「どちら様だ?」

「おいおいひどいな、あの戦いで一緒に戦った仲じゃないか」

あの戦いってもしかしてこの前の緊急依頼のことか? もしそれだとしたら覚えているわけがない。
あの人数で多くの魔物と戦っている状況で一人一人把握する方が困難だろう。

「いやあのとき会った人はあまり覚えてないんだ、悪いな。それで何の用なんだ?」

「何の用って、俺は相棒に困ったことがないか聞いただけだぜ?」

「俺に困ったことはないな。じゃあな」

俺はそう言って再び視線を依頼の掲示板に向けようとするが出来なかった。
何故なら、俺の肩がこの男の腕でガッシリと固定されていたからだ。

「なんだ?」

「頼む、お金を少し貸してくれ」

どうやらこれが本当の目的だったようだ。
もしかして、いやこれはもしかしなくても昨日の事が原因か。まさかこんなに早く直接的な被害がでるとは思わなかった。元の世界で例えると宝くじに当たった次の日に昔の友人から電話がかかってくるという感じだろうか。

「悪いがそれは出来ない」

俺は相手の頼みをバッサリと切り捨てる。

「そんな!? 頼むよ、それがないと生きていけないんだ!」

男にそこまで言わせる出来事ってなんだ? 今にも死にそうな顔で頼んでくるってことはよっぽどなことなのだろう。話だけは聞いてもいいか。
そう思った俺はとりあえず話だけは聞くことにした。

「そんなにお金が必要なのか?場合によっては貸してやらないこともないぞ」

「本当か!?」

「ああ、でも場合によってだからな。そこのところは忘れないでくれ」

「ああ、分かってるぜ」

それにしてもこの男、俺がお金を貸すって言った瞬間すごい勢いで食いついたな。まるで犬のようである。

「それで?」

「そうだなまずは何から話すか……」

「いや要点だけを話してくれ。聞きたいことがあったら俺から聞くから」

「お、そうか。要点だけ言うと俺はしばらくの間働けないんだよ」

「働けない?」

「ああ、俺は冒険者をやってるんだがあの戦いで左足をやっちまってな」

さっきから男の立ち方がおかしいのはそのせいか。こればっかりは仕方ないな。事情が事情なので今回だけは貸してやるか。
それにこの男にお金を貸すことによってギルド内の俺の株が上がるかもしれないからな。

「分かった。今回だけは貸すよ」

「ありがとう! 助かるよ! それと忘れてたが俺はアイクだ」

「おう、よろしくな。俺は……」

「カズヤだろ? 今色々と話題に上がってるぜ」

アイクが不穏な一言を漏らす。
話題に上がってる? 一体何のだ?
ここはさりげなくどんな話題になっているのか聞き出すか。

「そうだったのか。それでその話題ってどんなのなんだ?」

「ああ、前までは武器を粉々に破壊する力を持つ期待のルーキーって話題だったけど、今はやっぱりあれだな……」

「あれって?」

「ああ、うちのギルドマスターを倒したことだよ。いやーあのときは驚いたもんさ。なんせ倒したのがFランクのカズヤだって言うんだからな」

あの模擬戦が注目されることは分かってはいた、分かってはいたが実際に注目しているのを見るとなんとも言えない気分になるのは何故だろうか。とにかく俺は今はだいぶ有名人らしい。

「なるほどな。それでお金の方だけど必要最低限しか渡さないからな」

「分かってるって貸してくれるだけでもありがたいってもんよ」

それから俺はアイクに三日暮らせるだけのお金を渡した。

「恩に着るぜ!」

「いいよ、いいよ。それより早く仕事に復帰しろよな」

「それはもちろんだ」

「じゃあな、俺はこのまま依頼を見てるよ」

「本当にありがとな!」

その後も俺はいつまでもアイクに感謝され続けていた。
これでは依頼をまともに見れない。
そう思った俺は依頼掲示板にいつも貼り出されているゴブリンの討伐依頼を剥がし受付へと逃げた。

◆◆◆◆◆◆

「俺にも貸してくれ!」

アイクにお金を貸してから一日経った次の日のことである。
俺達三人が宿で食事をとっていると見知らぬ、男が急に話しかけてきた。

またか……。でももしかしたらお金ではないかもしれない。
まだお金とは言ってないからな。一応何か聞いておいた方がいいか。

「一応聞いておくけど何をだ?」

「何をってお金だけど」

ですよね。貸してくれって言ったらお金しかないよな。

「悪いがそれは出来ない」

「そこをなんとか」

「無理だ」

俺が強くそう言うと男は諦めたのかどこかへと行ってしまった。

「カズヤ、あなた昨日も貸してたわよね。それがいけなかったんじゃない?」

確かに昨日のことで俺がお金を貸す人だと思われた可能性はかなり高い。まぁこれもいずれおさまるだろう。次から気をつければいいだけだ……。


「悪いけどお金貸してもらえないか?」

そう思っていた時期が俺にもありました。食事後に町をぶらついてから、このやり取りは既に三回目だ。いい加減断るのも疲れてきた。これは本当におさまるのだろうか?

「ちょっとお金……」

「お金……」

「貸してくれないか……」

町の中を歩けば歩くほど冒険者っぽい人に声をかけられてはお金を貸してくれとせがまれる。

「いくらなんでも異常すぎるだろ」

こうなるんだったらお金なんていらない。ここまで真剣にお金がいらないと思ったことは生まれてこのかた初めてだ。
その後一通り町をぶらついた俺はどうすればこの状況がおさまるのかということを考えながらギルドへと向かった。

ギルドの入り口の扉を開ける。

──なんだか今日はギルドがすごい静かだな。

ギルド内がまるで誰もいないかのような静けさ。人がいないわけではない。皆、下を向いているのだ。

──どうしたんだ?

俺が一歩前へと出ると皆が一斉にこちらへと向いた。

──なんだ、なんだ?

それから一人また一人と俺の元へと近づいてくる。そして一言こう言われた。

「ちょっと貸してくれないか? お金」

気がつくと俺はギルドの外へと走り出していた。もう無理だ。これからしばらくこの生活が続くと思ったら耐えられなかった。

──しばらく宿に籠ろう。

それと同時にこうも思った。

──お金はもう貸さないと。

こうして俺はまた人の怖さを知ったのだった。

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