乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第26話 襲来 Ⅲ


「ブモォォォォ!!」

オークが天に顔を向けて吠える。
その瞬間、ものすごい圧力が俺を襲った。

「何だこれ、体が動かない!」

まるで首から下が自分のものじゃないような不思議な感覚に陥る。周りからはドサッと人の倒れる音も聞こえてくるが体を動かせないため見ることが出来ない。
どうやら今の咆哮には相手を硬直させる効果があるようだ。

「ブモォ!」

俺が対処法を考えている間にもオークは徐々に俺へと近づいてくる。

「何か対処法は……そういえば『解除』が使えるかもしれない」

しかしやっとのことで出した対処法も現状の解決にはまったく意味をなさずに無駄に終わる。
そんな状態だからか『それならいっそのこと攻撃を受けてみればいいんじゃないか』という考えが俺の中に浮かぶ。
俺には『物理攻撃無効』という素晴らしいスキルがある。例え攻撃を受けたとしても、ダメージが入らないに違いない。
それは対処法が見つからず開き直ったからできる究極の選択だった。
だって動けないのだから受けるしかない、至極当たり前のことである。
オークはそんな俺の心中に構わず目の前までくると自らが持っているこん棒を俺へと振り下ろした。

「……ぐあぁ!」

こん棒を振り下ろされてから一瞬遅れてくる痛み、どうやら『物理攻撃無効』は全く仕事をしなかったようである。
何故だ?普通なら物理攻撃を受け付けないはず。
オークに殴られた痛みに耐え、必死にオークを観察する。そしてある一つのことに気づいた。
それは俺がダメージを受けたのはあのオーラが原因ではないかということ。
周りをよく見るとそのオーラを纏っているオークはコイツだけだ。ならばこれはどんなオークでも出せるわけではない固有のスキルということになる。
気になった俺は相手のステータスを確認する。

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名前: オーク(変異種)
種族: オーク

Lv.47

HP : 3100/3100
MP : 0/0
ATK : 420
DEF : 230
MATK: 0
MDEF: 220
DEX : 40

スキル:『咆哮』、『棍棒術』

称号 : 『憎しみのその果てに』

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特にスキルにはこれといって特徴はない。気になるとすれば称号であろうか。
俺は称号の欄にある『憎しみのその果てに』という称号の説明が出てくるように念じる。

『憎しみのその果てに』・・・憎しみ、妬みといった負の感情が限界まで達したときに自動的に特殊効果が発動する。
特殊効果:自分の攻撃に一定の固定魔法ダメージを付与する。

どうやらこれが原因のようだ。つまり今のダメージはこん棒の物理ダメージではなく追加で与えられた魔法ダメージということになる。
しかし原因は分かったが現状は何も解決していない。原因が分かっても何も対処方法がないのだ。
『咆哮』で相手を行動不能にしてからの攻撃。避けようにも避けることが出来ない。まずはその部分をどう対処するかだが……。
俺が考えている間にも再びオークは雄叫びを上げる。

「くっ、またか」

再び行動不能になる。

「ブモッ!」

そしてこれまた再びオークはこん棒を俺に向けて振り下ろす。

「うぐっ!」

どうしても動けない。一体どうすれば……。
それから再び同じ事が繰り返される。繰り返される度に俺はダメージを蓄積していく。それはもう為す術がない状態だった。
だが四回目だっただろうか。HPがそろそろ六割を切ろうとしていたとき俺はあることに気づいた。
それは行動不能になるタイミングだ。今まで行動不能になったのは決まってオークの咆哮を聞いてからだった。
ということは咆哮を聞かなければ行動不能にならないということになる。俺は一か八か賭けてみることにした。
オークは再び雄叫びを上げようとする。
そのタイミングに合わせて俺は周りの音が何も聞こえないようにおもいっきり耳を塞いだ。
オークはしばらくして俺の元へと向かってくる。オークが近くにきたのに合わせて俺は耳に当てていた手を下ろした。

「賭けに勝ったみたいだな」

俺が手を下ろした瞬間、俺が動けることに驚いたオークの動きが止まった。

「驚いたか? 俺も驚いたよ。まさかこんなに簡単に防げるなんてな」

俺の言葉にオークは硬直状態から復帰すると再び雄叫びを上げようとする。

「目の前でやらせるかよ」

だが俺は前方にいるオークの元へと飛び込み、手に持ったナイフで相手のお腹を斬りつけた。

「ブモォォォォ!」

オークは痛みからか一本しかない腕をブンブンと闇雲に振り回す。それに対して俺は後方へと下がって対応した。

「動けるようになったのは良いが、これじゃまともに近づけないな」

俺の武器の刃渡りは十五センチと腕を振り回しているオークの相手をするには少々心もとない。
何か遠距離の攻撃方法があれば良いのだが…………!?
そういえば最近は武器を練習するために使ってなかったがこういうときに役立つのがあったじゃないか。
俺は手を前に突き出し標準を合わせる。そしてスキル『メテオ(笑)』をオークに放った。
突如、オークの頭上に大きな岩が出現する。それから重力に従い大きな岩は自由落下をした。落ちた衝撃で土煙が舞い上がる。

「久しぶりに使ったが、目立ちすぎるなこのスキル」

「な、なんだ? 今、岩が空から落ちてきたぞ!」

それと同時に今までオークの『咆哮』のよって気絶していた周りの人達が騒ぎ始めた。

「俺はあのガキが岩を出したように見えたぜ」

「アイツ、魔法が使えるのか!? だがあんな魔法見たことねぇな」

今はそんなことを気にしている場合ではないだろう。もうじき舞い上がった土煙が晴れる頃だ。あのオークがあの程度の攻撃で簡単に倒せるはずがない。
周りの人達はもう倒したと思っているようだが、それは浅はかな考えだ。あのオークならきっとこの土煙に紛れて……。
舞い上がった土煙が次第に晴れる。
その後、元々オークがいた場所を確認するがオークの姿はそこにはない。

「あ? あのオークはどこ行ったんだ?」

「確かに倒したのならそこに死体が残っているはずだけど」

「怯えて逃げたんじゃないか?」

周りの人達は口々に楽観的な推測をするが、倒されたとか逃げ出したというのは絶対にあり得ない。なぜならあのオークは俺に腕を切り落とされてなお、いや寧ろ殺意が強くなったのだから。

「なんだ? なんか辺りが暗くないか?」

「言われてみれば遮蔽物もないのにこんなに暗いなんておかしいわね」

そういうことかあのオークはやはり俺達をまだ諦めていないらしいな。

「おい、みんな! 上を見ろ!」

俺は精一杯声を張り上げて皆に危険を知らせる。

「うえ?」

そう言いながら周りの人達が上を見ると、そこには青い空はなく大きな人型の生き物が俺達の元へと降ってきている途中だった。

「あれは……オーク!?」

「早くこの場所から離れろ! ミンチにされるぞ!」

その声に人々は慌てながらも思い思いの場所へと逃げる。
皆が無事に避難できたら良かったのだが、あまりの出来事にパニックになったのかまだ冒険者を始めて日が浅いですという防具を身に付けた女性冒険者が落下の中心地点に座り込んでいた。

「だ、誰か…………助けて!」

女性冒険者は周りを確認しながら助けを求めるが助けようとする人は誰もいない。それもそうだろう、もうすぐオークがその地点に降ってくるのだ。
そんな場所に自らが好んで行く人がはたしているだろうか?否、誰もいないだろう……俺を除いては。

「今行くから待っとけ!」

俺はその一言だけを発して、その女性冒険者の元へと飛び込んだ。

「おい、ガキ! やめとけ、お前まで死ぬ気か!」

周りの冒険者が俺を引き止めるが、全て無視する。
今はそんなことよりも助けることの方が先だ。オークは後数秒もしないうちに降ってくるだろう。このままでは落下の範囲外に連れて帰ってくることは間に合いそうもない。

「受け止めるしかないか」

普通の人ならそんな発想は思いつきもしないだろう。
これは『物理攻撃無効』のスキルを持った俺だけが許される芸当だ。オークの『憎しみのその果てに』という称号の効果による多少のダメージが入るがこの際気にしていられない。
俺はオークの落下地点へと立ち、受け止める体勢を整える。

「こいやぁぁ!」

その言葉の後に凄まじい爆発音にも似た音が辺りに響いた。

「ぐっ!」

オークが低い地点になるにつれて増してきた落下による衝撃が全て俺に伝わるのを感じる。
気がつくと俺の足は足首の部分まで地面に埋まっていた。
あまりの衝撃に受け止めるのを放棄したくなる。だがそんなことも言っていられない。放棄すればもれなく俺の後ろにいる冒険者が押し潰されてしまうだろう。それでは助けにきた意味がない。

「どりゃぁぁ!」

両足でしっかりと踏ん張り、落下の勢いを徐々に徐々に殺し、最終的に受け止めることに成功した。
この衝撃を受け止められるとは我ながら驚きである。
この空からの攻撃は捨て身だったようで突っ込んできたオークの方はグシャッと潰れてしまっていた。
これで脅威は去ったわけだが俺の後ろにいた冒険者は大丈夫だろうか?
俺は受け止めたオークの死体をその辺に投げ捨て、後ろを振り向く。

「怪我とかは大丈夫か?」

「は、はい!」

「立てるか?」

「はい!」

なんだろう……やけにテンションが高い気がする。とりあえず怪我も何もなかったようなので良しとしよう。

「いつまでもここにいてもなんだし、少し離れるか」

「どこまでもお供します!」

「いや、今回だけでいいよ」

「助けてもらった方にそんな恩知らずなこと……」

「いやいや……」

それからこのやり取りはしばらく続いた。
彼女がどこまでもついていくと言って聞かなかったのだ。流石にそこまでついてこられるとこちらが困るので丁重にお断りしたが彼女の熱意というか情熱は相当なものだろう。

話は変わるが一先ず俺がいるオーク討伐のグループは無事目的を成し遂げた。

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