乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第25話 ◆少女奮闘◆
SIDE リーネ
目の前には一つ目の巨人、サイクロプスがいた。
サイクロプスは顔を歪めてまるで笑っているように見える。それも無理もない。私達のグループではもう半数近くの人達が戦闘不能になっている。
今は私とソフィーを含めて五人しか戦えるものはいない。そんな状況の中どう戦うのか、カズヤだったらどうするのか……私にはわからない。
この絶望的な状況に自分の手を強く握りしめる。
「何ボケッと突っ立っているのよ。しっかりしなさい!」
考えるあまりボケッとしていたらしくソフィーに渇を入れられる。
「私、どうしたら良いのかわからなくて……」
「だったらあなたはあなたの思う最善を尽くしなさい。心配しなくても大丈夫よ、私がついてるから」
私の思う最善……。私はいったいどうしたいのだろう。
サイクロプスを倒したい?
目的はそうだが、倒すこと自体がしたいのではない。
だったら強くなりたいとか?
それも今は違う気がする。
「私は……」
今は昔のように毎日が楽しい。カズヤがいて、ソフィーがいて私がいる。そんな毎日を失いたくない。そうか、私は仲間を失いたくないんだ。
私はしっかりとソフィーの目を見て自分の思いの丈を告げる。
「私はみんなを守れるようになりたい。でも今はそんなこと頑張っても出来ない。だったら私はせめてみんなが逃げる時間を稼ぐ」
私の言葉にソフィーは頷き優しく微笑む。
「仕方ないわね。私も付き合ってあげるわ。回復はいた方が便利でしょ?」
「でもそれだとソフィーが……」
「そんなことは気にしないの、昔も今もいつも一緒でしょ?」
「今は関係ない……」
「とにかく私は戦闘不能になっている人達を回復させてくるからその間惹き付けるのをお願いね」
「ちょっと……」
ソフィーはそれだけ言うと、負傷者のもとへと行ってしまった。
出来ればソフィーを危険に晒したくないが言っても無駄だろう。一先ずこれでやることが明確になった気がする。
私はまっすぐと目の前のサイクロプスを見据える。
「あなたの相手は私……」
サイクロプスは遊びがいがありそうなオモチャを見つけたときのような目で私を見る。
「ギョエェェ!」
相手に恐怖を与えるためかゆっくりと私に向かってきた。
「油断しているようだけど私は本気で行かせてもらう」
足の裏に力を込めて地面を蹴る。地面を蹴った反動で前へと進み、一瞬にしてサイクロプスの目の前へと移動した。そしてそのまま相手のお腹辺りに拳の一撃をお見舞いする。
「……!」
だが脂肪が厚いためか殴った衝撃はほとんど脂肪に吸収されてしまった。
「ギョガァァス!」
一瞬の動揺がいけなかったのか、サイクロプスの振るった腕が自分の腹部へと直撃する。
「ぐはっ!」
サイクロプスの重い反撃を受けてそのまま後方へと殴り飛ばされた。
「ギョエギョエギョエ!」
サイクロプスはこの様子を楽しそうに眺めていた。
一撃をもらっただけでこの威力とは反則にも程がある。骨も数本は折れているだろう。このままでは満足に体を動かすことが出来ないままなぶり殺しされてしまう。
どうするべきか考えろ。
考えている間にもサイクロプスは一歩一歩私に近づいてくる。
「大丈夫? リーネ?」
ここからの打開策を探していると後ろから負傷者の治療に行っていたはずのソフィーが声をかけてきた。
「ソフィー!」
「全く仕方ないわね」
突如、ソフィーの両手が緑色に光り出し私の体全体へとその光が移っていく。どうやら私の傷を癒してくれたらしい。
「ありがとう、ソフィー。助かった」
ソフィーにお礼を言った後、前を見るとサイクロプスが近くまで迫ってきていたのでソフィーを連れて後ろへと下がった。
「で、これからどうするの? 見ていた限りだと勝てないんでしょ?」
「そうだけど……」
今の私の力じゃどう頑張っても勝てない。それなら尻尾を巻いて逃げる? ダメだ、後ろにはまだ完全に回復しきっていない負傷した冒険者達とソフィーが残されている。
「でも……戦うしかない」
「それだったら、私がサポートするわ。二人ならもしかしたらでしょ?」
「……確かに一回やってみる価値はある」
私は再び前にいるサイクロプスへと目を向ける。サイクロプスは余裕があるのか私達の会話が終わるのを待っていたようだ。
「相手は随分と余裕そうね」
「でもそこに隙がある」
私はそれだけ言い残し、再び足で地面を蹴ってサイクロプスのもとへと向かった。
「ギョエギョエギョエ!」
サイクロプスは私の先程と同じ行動に顔を歪ませて待ち構える。
「さっきと同じ事をするはずがないでしょ!」
サイクロプスの目の前へと移動すると、そのまま足と足の隙間に滑り込んでサイクロプスの背後へと回る。
「おりゃぁ!」
そしてサイクロプスの足元に一発打撃を入れた。
私は初めにサイクロプスの目を潰して、視界を奪おうと考えた。だがサイクロプスは一つ目の巨人というだけあって、かなり体格が大きい。攻撃しようとするとどうしても空中に跳ばなければならない。それだと隙が生まれて先程と同じ過ちを犯してしまうだろう。なのでまずは全体重を支えている足元を狙ってバランスを崩そうというわけだ。
「ギョエェ!」
サイクロプスの足元が僅かだがぐらつく。
これならいけるかもしれない。例え倒せなくても、かなりの時間を稼げるだろう。
やっとのことで反応したサイクロプスが私ごと地面を叩き潰そうと腕を振り下ろすが既に私はそこにいない。
足元に一撃入れたあとすぐにその場を離脱したのだ。まさにヒットアンドアウェイである。
サイクロプスの攻撃を避けて、足元に打撃を加えるという行為をしばらく繰り返す。
殴る度にサイクロプスの足元のぐらつきは徐々に大きくなっていき、最後には地面へと倒れた。
「ギョエェェェェェ!」
「今がチャンス」
その光景にチャンスとみた私はすかさずサイクロプスが倒れた場所へと向かう。
「これで目を潰せば楽になる……!?」
腕を振りかぶりサイクロプスの目へと打撃を加えようとするが……出来なかった。その瞬間にサイクロプスに足を捕まれたのだ。
「リーネ! わた…………」
ソフィーの声は次のサイクロプスの鳴き声で全てかきけされてしまう。
「ギョエェ!」
「まさか罠だったの?」
私の疑問に答えるように一瞬顔を歪ませたサイクロプスに足を掴まれたままブンブンと振り回された。
「キャァァァァ!」
しばらくサイクロプスに振り回された後、最後に地面へと叩きつけられた。
「ぐはっ!」
私の肺から空気が全て抜けていくような感覚に陥る。もう足の感覚がない。息苦しい……。もう立ち上がることすら出来ない。
「リーネ!」
ソフィーが泣きながら私の元へと駆け寄ってくる。
「……だめ、来ちゃだめ!」
だめだ、このままソフィーが来てしまったらソフィーも同じ目にあってしまう。
「やだ、やだよ……」
だがソフィーは私の言葉を聞こうとしない。
「だめ……」
私の隣ではその様子をサイクロプスが楽しそうに見ていた。
多分次の獲物にするのだろう。だがそうはさせない。
私は最後の力を振り絞って腕の力だけでサイクロプスに近づく。
「ソフィーは絶対私が守る……!」
私に残された最後の希望……。
サイクロプスの元に腕の力だけでたどり着き、うつ伏せのまま腕を振りかぶり今出せる精一杯の力で殴る。何度も何度も殴り続ける。
だがサイクロプスはまったくダメージを負っておらず私に一度だけ目線を向けると興味を失ったのかそのまま腕で叩き潰そうとする。
ソフィーごめんなさい。せめてあなただけは守るって決めたのにまた私は……。
私の目には涙が浮かんでいた。
「どうすれば、どうすればいいの……」
もう既にサイクロプスの腕は目の前まで迫ってきていた。
「私は誰も守れないの……?」
地面の土を強く握りしめ、最後のときを待つ……。
だがいつまで待っても最後のときは訪れない。そこで恐る恐るサイクロプスの方を見ると……。
「おい、リーネ大丈夫か?」
そこにはサイクロプスではなく、よく見知った男がサイクロプスの攻撃を受け止めていた。
「なんで……?」
「そんなの決まっているだろう。仲間のピンチだからだ」
その男、カズヤはニッと私に笑いかけた。
目の前には一つ目の巨人、サイクロプスがいた。
サイクロプスは顔を歪めてまるで笑っているように見える。それも無理もない。私達のグループではもう半数近くの人達が戦闘不能になっている。
今は私とソフィーを含めて五人しか戦えるものはいない。そんな状況の中どう戦うのか、カズヤだったらどうするのか……私にはわからない。
この絶望的な状況に自分の手を強く握りしめる。
「何ボケッと突っ立っているのよ。しっかりしなさい!」
考えるあまりボケッとしていたらしくソフィーに渇を入れられる。
「私、どうしたら良いのかわからなくて……」
「だったらあなたはあなたの思う最善を尽くしなさい。心配しなくても大丈夫よ、私がついてるから」
私の思う最善……。私はいったいどうしたいのだろう。
サイクロプスを倒したい?
目的はそうだが、倒すこと自体がしたいのではない。
だったら強くなりたいとか?
それも今は違う気がする。
「私は……」
今は昔のように毎日が楽しい。カズヤがいて、ソフィーがいて私がいる。そんな毎日を失いたくない。そうか、私は仲間を失いたくないんだ。
私はしっかりとソフィーの目を見て自分の思いの丈を告げる。
「私はみんなを守れるようになりたい。でも今はそんなこと頑張っても出来ない。だったら私はせめてみんなが逃げる時間を稼ぐ」
私の言葉にソフィーは頷き優しく微笑む。
「仕方ないわね。私も付き合ってあげるわ。回復はいた方が便利でしょ?」
「でもそれだとソフィーが……」
「そんなことは気にしないの、昔も今もいつも一緒でしょ?」
「今は関係ない……」
「とにかく私は戦闘不能になっている人達を回復させてくるからその間惹き付けるのをお願いね」
「ちょっと……」
ソフィーはそれだけ言うと、負傷者のもとへと行ってしまった。
出来ればソフィーを危険に晒したくないが言っても無駄だろう。一先ずこれでやることが明確になった気がする。
私はまっすぐと目の前のサイクロプスを見据える。
「あなたの相手は私……」
サイクロプスは遊びがいがありそうなオモチャを見つけたときのような目で私を見る。
「ギョエェェ!」
相手に恐怖を与えるためかゆっくりと私に向かってきた。
「油断しているようだけど私は本気で行かせてもらう」
足の裏に力を込めて地面を蹴る。地面を蹴った反動で前へと進み、一瞬にしてサイクロプスの目の前へと移動した。そしてそのまま相手のお腹辺りに拳の一撃をお見舞いする。
「……!」
だが脂肪が厚いためか殴った衝撃はほとんど脂肪に吸収されてしまった。
「ギョガァァス!」
一瞬の動揺がいけなかったのか、サイクロプスの振るった腕が自分の腹部へと直撃する。
「ぐはっ!」
サイクロプスの重い反撃を受けてそのまま後方へと殴り飛ばされた。
「ギョエギョエギョエ!」
サイクロプスはこの様子を楽しそうに眺めていた。
一撃をもらっただけでこの威力とは反則にも程がある。骨も数本は折れているだろう。このままでは満足に体を動かすことが出来ないままなぶり殺しされてしまう。
どうするべきか考えろ。
考えている間にもサイクロプスは一歩一歩私に近づいてくる。
「大丈夫? リーネ?」
ここからの打開策を探していると後ろから負傷者の治療に行っていたはずのソフィーが声をかけてきた。
「ソフィー!」
「全く仕方ないわね」
突如、ソフィーの両手が緑色に光り出し私の体全体へとその光が移っていく。どうやら私の傷を癒してくれたらしい。
「ありがとう、ソフィー。助かった」
ソフィーにお礼を言った後、前を見るとサイクロプスが近くまで迫ってきていたのでソフィーを連れて後ろへと下がった。
「で、これからどうするの? 見ていた限りだと勝てないんでしょ?」
「そうだけど……」
今の私の力じゃどう頑張っても勝てない。それなら尻尾を巻いて逃げる? ダメだ、後ろにはまだ完全に回復しきっていない負傷した冒険者達とソフィーが残されている。
「でも……戦うしかない」
「それだったら、私がサポートするわ。二人ならもしかしたらでしょ?」
「……確かに一回やってみる価値はある」
私は再び前にいるサイクロプスへと目を向ける。サイクロプスは余裕があるのか私達の会話が終わるのを待っていたようだ。
「相手は随分と余裕そうね」
「でもそこに隙がある」
私はそれだけ言い残し、再び足で地面を蹴ってサイクロプスのもとへと向かった。
「ギョエギョエギョエ!」
サイクロプスは私の先程と同じ行動に顔を歪ませて待ち構える。
「さっきと同じ事をするはずがないでしょ!」
サイクロプスの目の前へと移動すると、そのまま足と足の隙間に滑り込んでサイクロプスの背後へと回る。
「おりゃぁ!」
そしてサイクロプスの足元に一発打撃を入れた。
私は初めにサイクロプスの目を潰して、視界を奪おうと考えた。だがサイクロプスは一つ目の巨人というだけあって、かなり体格が大きい。攻撃しようとするとどうしても空中に跳ばなければならない。それだと隙が生まれて先程と同じ過ちを犯してしまうだろう。なのでまずは全体重を支えている足元を狙ってバランスを崩そうというわけだ。
「ギョエェ!」
サイクロプスの足元が僅かだがぐらつく。
これならいけるかもしれない。例え倒せなくても、かなりの時間を稼げるだろう。
やっとのことで反応したサイクロプスが私ごと地面を叩き潰そうと腕を振り下ろすが既に私はそこにいない。
足元に一撃入れたあとすぐにその場を離脱したのだ。まさにヒットアンドアウェイである。
サイクロプスの攻撃を避けて、足元に打撃を加えるという行為をしばらく繰り返す。
殴る度にサイクロプスの足元のぐらつきは徐々に大きくなっていき、最後には地面へと倒れた。
「ギョエェェェェェ!」
「今がチャンス」
その光景にチャンスとみた私はすかさずサイクロプスが倒れた場所へと向かう。
「これで目を潰せば楽になる……!?」
腕を振りかぶりサイクロプスの目へと打撃を加えようとするが……出来なかった。その瞬間にサイクロプスに足を捕まれたのだ。
「リーネ! わた…………」
ソフィーの声は次のサイクロプスの鳴き声で全てかきけされてしまう。
「ギョエェ!」
「まさか罠だったの?」
私の疑問に答えるように一瞬顔を歪ませたサイクロプスに足を掴まれたままブンブンと振り回された。
「キャァァァァ!」
しばらくサイクロプスに振り回された後、最後に地面へと叩きつけられた。
「ぐはっ!」
私の肺から空気が全て抜けていくような感覚に陥る。もう足の感覚がない。息苦しい……。もう立ち上がることすら出来ない。
「リーネ!」
ソフィーが泣きながら私の元へと駆け寄ってくる。
「……だめ、来ちゃだめ!」
だめだ、このままソフィーが来てしまったらソフィーも同じ目にあってしまう。
「やだ、やだよ……」
だがソフィーは私の言葉を聞こうとしない。
「だめ……」
私の隣ではその様子をサイクロプスが楽しそうに見ていた。
多分次の獲物にするのだろう。だがそうはさせない。
私は最後の力を振り絞って腕の力だけでサイクロプスに近づく。
「ソフィーは絶対私が守る……!」
私に残された最後の希望……。
サイクロプスの元に腕の力だけでたどり着き、うつ伏せのまま腕を振りかぶり今出せる精一杯の力で殴る。何度も何度も殴り続ける。
だがサイクロプスはまったくダメージを負っておらず私に一度だけ目線を向けると興味を失ったのかそのまま腕で叩き潰そうとする。
ソフィーごめんなさい。せめてあなただけは守るって決めたのにまた私は……。
私の目には涙が浮かんでいた。
「どうすれば、どうすればいいの……」
もう既にサイクロプスの腕は目の前まで迫ってきていた。
「私は誰も守れないの……?」
地面の土を強く握りしめ、最後のときを待つ……。
だがいつまで待っても最後のときは訪れない。そこで恐る恐るサイクロプスの方を見ると……。
「おい、リーネ大丈夫か?」
そこにはサイクロプスではなく、よく見知った男がサイクロプスの攻撃を受け止めていた。
「なんで……?」
「そんなの決まっているだろう。仲間のピンチだからだ」
その男、カズヤはニッと私に笑いかけた。
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