乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第22話 異変
依頼を受けて、達成してを繰り返して早二週間。俺達は今日もいつもと同じように依頼を受けようとしていた。
「今日もゴブリンの依頼と後何か残っている良い依頼はないかなっと」
「そんなのあるはずないじゃない! 良い依頼を受けたいなら朝早くにあの依頼争奪戦に参加してくれば?」
あれか、一度生で争奪戦を見たものからすると参加するのは相当な覚悟が必要になる。
「いや、それは遠慮しておくよ」
「はぁだからいつまで経ってもゴブリンとか薬草採取ばっかりなんじゃないかしら」
まったくその通りである。
「なら、ソフィーかリーネが争奪戦に参加すれば良いんじゃないのか?」
「あなた本気でかよわい乙女にそんなことさせるつもりなの?」
確かに見た目だけで見れば十代半ばのただの少女にしか見えない。ただ……。
「いや、二人ともレベル的にはそこら辺の冒険者よりも高いんだからかよわくはないだろ!」
そう、この二人はこう見えても40レベル台なのだ。どこにかよわいという要素があろうか。
「そこは置いておいて私達は乙女なのよ。ねぇリーネ」
「そう私達は乙女なの」
二人はよれよれと地面に座り込む。
そこまでしてしたくない争奪戦を俺にさせようとしたのか。恐ろしい少女達だ。
「争奪戦には誰も参加したくないということなので大人しく余っている依頼を受けますか」
「そうね。それしか選択肢が無いものね」
「依頼を受けるなら薬草採取は欠かせない」
薬草採取か……少し苦手なんだよな。森のゴブリン討伐の依頼と薬草採取の依頼、それに加えて薬草採取では俺は役に立たないのでフォレストボアの討伐の依頼も受けておこう。
よし、今日はこんなところかな。
「今日はいつもの依頼にフォレストボアの討伐依頼を受けようと思っているんだが……」
「「フォレストボア!」」
俺が今日受ける依頼の確認をしようとしたとき、正確にはフォレストボアと俺が言ったとき二人はグイっと顔を俺に近づけた。
どうしたんだ? 何か問題でもあるのか。
「フォレストボアの討伐依頼って何かまずかったか?」
「何言ってるのよ! 不味い訳がないじゃない! むしろ美味しいわよ!」
「ん? 美味しい?」
「フォレストボアの肉は臭みがなく、脂身が多くて絶品」
肉って……そういうことか。てっきり依頼に問題があるのかと思ったが彼女達はフォレストボアの肉に興奮していただけのようだ。
「それじゃフォレストボアの討伐依頼は賛成ってことで良いのか?」
「「もちろん!」よ!」
前から思ってはいたが彼女達は食べ物のことになると息がピッタリだな。
「じゃあこれで決定だな。依頼を受付で受けてくるよ」
「頼んだわよ」
「お願い」
俺は三つの依頼を手に受付に向かう。
「カズヤ様、こんにちは! 今日はどんな依頼を受けるのですか?」
「そうだな、いつものやつとフォレストボアっていう魔物の討伐依頼かな」
「フォレストボアですか! カズヤ様は良いところに目をつけましたね。フォレストボアは肉が美味しいで有名なんですよ」
誰も彼もがフォレストボアと聞くと肉のことになるのか。それほど美味しい肉となると食べるのが楽しみだ。
「それはさっきソフィーとリーネからも言われたよ。そこまで言われたら一度食べてみたくなるな」
「ぜひ、食べてみてください。あ、もしフォレストボアの肉が余ったらで良いのですが少しギルドに卸してもらえませんか?」
「別に良いけど何でだ?」
「フォレストボアの肉は供給の割には需要が高いですからね。肉はいつでも不足状態なんですよ」
なるほど、在庫を確保ってことか。
「分かったよ。出来るだけ多くの肉を狩ってくるよ」
「ありがとうございます。もちろん肉は高く買い取りますので安心してくださいね」
「そこのところは頼むよ」
「それでは受付の依頼用紙をこちらに」
俺は手に持った三枚の依頼用紙をエリーに渡した。
「ありがとうございます。受注処理をしますので少々お待ち下さい」
エリーが受注処理をするため、受付の奥に向かおうとしたそのときギルドの入り口の方からバタンと勢いよくドアが開けられる音が聞こえてきた。
「大変だ! 仲間がやられた!」
その声に俺達も含めてギルドにいた人達が一斉に入り口の方を見る。
一体どうしたんだ?
「どうしたんですか? その怪我は!? ジョゼフ様は確か森の調査をしていたはずですが」
エリーは受付の奥に向かおうとしていたがその声に反応して入り口近くの男の元へと向かった。
「そうなんだが大変なんだ! 普段森の深いところにいる魔物達が森の浅いところまで降りてきているんだよ!」
「……!? それは本当ですか?」
「ああ、事実だ。俺達が組んでいたパーティーもみんなその魔物達にやられたんだ」
「少しお待ち下さい。今ギルドマスターを呼んできます」
エリーは慌ててギルドマスターを呼びに行こうとするが、ジョゼフがそれに待ったをかける。
「少し待ってくれ、本題はそこじゃないんだ! 俺が仲間達を見捨ててまでギルドに知らせに来たのはもっと他に伝えることがあったからだ!」
「他に伝えることですか?」
「ああ、そうだ。さっき森の深いところにいた魔物達が森の浅いところにまで降りてきたって言ったよな。その影響で元々森の浅いところにいた魔物達が森の外にまで出てるんだ! このままじゃこの町に被害が出るのも時間の問題だ! だから早く城門を閉じてくれるようにギルドマスターに言って欲しい!」
これは本格的にまずいんじゃないか。この町は周囲を広い森にぐるっと囲まれている。そんなところに魔物の群れが四方から押し寄せてきたらこの町は壊滅してしまう。これは早急に手を打たないといけないだろう。
「分かりました! 大至急ギルドマスターを呼んできます!」
エリーが再びギルドマスターを呼びに行こうとする。
「いや、その必要はねぇよ」
その声とともに受付の横の扉からはこの冒険者ギルドのギルドマスター、ガンゼフが姿を現した。
「ガンゼフさん! もしかして今の話聞こえてましたか?」
「聞こえるもなにもこんなに騒がしくしてりゃ誰でも聞こえるだろ」
「それもそうですね……」
「とにかく今はそんなことよりも問題の方が先だろ。おい、そこの……えーっと」
「ジョゼフ様ですか?」
「そうそう、ジョゼフだ! お前の話していることは本当に事実なんだな?」
「ガンゼフさん、さっきも言いましたがこれは事実ですよ」
「お前を信じていない訳ではないが、このことは今からギルド専属の調査員に確認をさせる。判断は調査員が戻ってきてからだな。心配するな、あまり時間はかけさせない」
「そう言ってくれて助かります」
「おうよ、俺はこれでも城があるこの町のギルドマスターだからな。この町と城は俺が守ってやるよ」
ガンゼフは力強く自分の胸板をバシンと叩く。それからガンゼフはギルド内にいる人達に向かって大声で叫んだ。
「おい! ギルド内にいるお前ら! 今多くの魔物達がこの町に向かってきている! まだそれが事実だとは断定出来ないがほとんど確実だろう。お前らには今からしっかり準備しておいて欲しい!準備が終わったやつはギルドで待機しておけ、以上!」
ガンゼフのその声でギルド内にいる冒険者達は忙しなく動き出す。
「それでジョゼフ、お前は魔物がどれくらいの数がいるのか知っているのか?」
「そうですね……俺の見た感じじゃ軽く三千体はいると思いますよ」
「そうか軽く三千はいるのか、さっきギルド内にいたやつは大体五十人くらいだったから緊急の依頼で外に出ているやつを呼び戻したとしても全部で八十人はいくかいかないかだな」
こちらの戦える人数が八十に対して相手側が三千。最低でも一人三十体くらいは倒さないといけない。これは厳しい戦いになりそうだ。
「……って新入り、まだここにいたのか。お前らも準備しておけ。今回は例えFランクだとしても戦ってもらうからな」
一向に動き出さない俺達三人を見てガンゼフが早く準備をするようにと俺達を促す。
「ガンゼフさん、俺達は依頼を受ける前だったからとっくに準備は終わってるよ」
「おうそうか、それは悪かったな。だったらしばらくここで待機を頼む」
ガンゼフは俺達にそう告げるとジョゼフの方に向き直り、再び押し寄せてきている魔物達の詳細情報を確認し始めた。
「ソフィー、リーネ!」
一方の俺達はステータスやスキルの確認といった最終的な確認を三人で行うのだった。
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