乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第13話 依頼 Ⅲ


「グギャ…………」

「ふぅ、これで十体目か」

「これ結構辛いかも」

「私は意外と大丈夫みたい」

「リーネ、あなた本気なの? 強がらなくても良いのよ」

「……! 強がってなんかないわよ!」

「二人ともここでは止めてくれ」

俺達はゴブリンを十体を狩り終わり、次の依頼である薬草の採取に移ろうとしていた。

「とりあえずゴブリンはこれで終わりだな。次は薬草採取だが薬草ってどんなやつ採取するんだっけ?」

「シロクサソウっていう白い花が特徴の薬草よ。私が知っているから、もし採取した薬草がシロクサソウか分からなかったら聞いてちょうだい」

リーネはソフィーと俺の会話を聞いていることが多いのだが今はいつになくリーネが張り切っている。

「頼りにしてるよ、リーネ」

「任せなさい!」

あまりにもリーネがやる気を出していて気になったので俺はソフィーに聞いてみることにした。

「なぁソフィー。リーネが何でこんなに張り切っているか分かるか?」

「あの娘、昔から森の中にいることが多かったからね。そのせいじゃないかしら?」

リーネって森の中にいることが多かったのか。何か想像つかないな。

「何してるの? 早く!」

リーネは既に先に行っていて、俺達二人が早くこっちに来るようにと大きく手を振っていた。

「分かったよ! 今行くよ!」

よしこれからは薬草採取だ。
薬草をバンバン採取してバンバン儲けようじゃないか。
その意気込みを胸に俺はリーネの後についていった。

◆◆◆◆◆◆

薬草を採取しまくるなんて行っていた過去の自分を殴り飛ばしたい。今は既に夕方である。
俺の隣では薬草が限界まで入った籠を背中に背負っているリーネとソフィーが世間話に花を咲かせていた。
一方、俺の方は籠も何も背負っていない。これは別にリーネとソフィーに俺の採取した薬草を押し付けている訳ではない。
ただ単に俺の採取した薬草が無いというだけだ。
なぜこんな事態になったか?
それは至極単純な理由で俺に薬草採取の才能がなかったからだ。
リーネは最初からまるで除草作業しているときのように薬草を採取していた。
ソフィーの方も最初こそ採取する薬草を間違っていたが一度間違えたことは間違えることなく後半の方ではリーネと変わらない速さで採取していた。
だが一方俺の場合、間違いに間違いを重ねてなぜか毒草ばかりを採取していた。
最初は間違えても仕方がないだろうと考えてあまり気にしなかったが時間が経つにつれて薬草を採取出来ていないという事実は焦りに変わった。
いくら採取しても毒草、毒草、毒草の連続。それが今の今まで続いてこの状況に至るというわけだ。

「カズヤ、リーネ、もう町に帰らない?」

「そうだな、もう夕方だし夜の森は危険なことが多いからな」

「私も賛成」

今日のところは帰るとしよう。
もう夕方だし、夜の森は危険だからな。
そうこれは戦略的撤退、何も恥じることなどない。

それから数分後、俺達は切りが良いところで薬草採取を止め町へと戻ることにした。
そして帰り際、俺達が門を潜ると町の活気が人々の熱気とともに俺達の元まで押し寄せてきていた。

「やっぱり町はすごいわね。門を潜る前と潜った後じゃまるで世界が違うみたいね」

「村と違って人が多いからかしら」

二人は町の活気に興奮している様子だった。
まぁそうなるのも無理はないと思う。
俺だって初めて見たときは驚いた。
それくらい圧倒されるものなのだ。

「ソフィー、リーネ。早く行かないとギルドが閉まるぞ」

「ギルドはまだ閉まらないわよ。でもそうね、あんまりここに長居しても仕方ないしギルドに行きましょう」

ソフィーのその言葉で俺達はギルドに依頼達成の報告に向かった。

◆◆◆◆◆◆

「いらっしゃいませ! ってカズヤ様じゃないですか。お昼ぶりです」

「おう」

手を上げてエリーの挨拶に答える。

「今回はどのようなご用件ですか?」

「今日受けた依頼の達成報告に来たんだよ」

「もう依頼を達成されたんですか。普通の新人なら依頼達成に二日はかかるんですがなかなかやりますね」

「まぁ明日から例の掃除の依頼もあるからな。早めに終わらせようと思って」

「普通は早く終わらせようと思ってもそう簡単には出来ないことですよ! すごいです! カズヤ様達を当ギルドで登録した私の鼻が高いですよ」

エリーは両手を腰に当て、自慢げに胸を張る。

「ちょっと聞きたいんだがこの依頼達成でいくらくらいになるんだ?」

「依頼の内容を確認してなかったんですか? そうですね、ゴブリンを十体討伐する依頼は三千コルク、薬草の方は一本につき百コルクですね」

「悪いな、こっちの確認不足だっていうのに」

「いえいえ、これも仕事の内ですので」

エリーはそう言って手を自分の胸の位置でブンブンと振る。

「報酬金は今準備しますので少しの間待っていて下さいね」

いったい一日でどのくらい稼げたのだろう?
依頼達成の全体の金額はゴブリンの討伐依頼達成で三千コルク、薬草が一本につき百コルクだから……籠いっぱいで六十本入ってそれが二籠あるから百二十本で一万二千コルク、しめて合計一万五千コルクといったところか。
今後のことも考えると三人でこの金額はなかなか厳しいな。
まぁ初日はこんなものなのかもな。それにランクが上がれば依頼達成で貰える報酬金も増えるだろう。今はひたすら耐えるのみ。

「エリーはこの辺で安い宿とか知らないか?」

とにかく今はお金を使わないことが大事。
ということで俺は今後のことも考え安い宿を紹介してもらうことにした。
ギルド職員ならきっと安くて良い宿を知っているだろうと踏んでの考えでもある。

「それなら、このギルドを出てすぐのところにギルド公認の宿がありますよ」

「どんなところなんだ?」

「まず何といっても安いというのが一番ですね。ギルドが少し援助しているからこその安さなので安いからといってサービスに問題があるわけではありません。それに食事も美味しいですし……あ、報酬金の準備が出来たみたいです。こちらが報酬金の一万五千コルクになります」

「これはどうも」

エリーから渡された報酬金の中身を確認する。
確認した後、報酬金を懐にしまい頷くことで話の続きを促した。

「それでですね、その宿はお風呂もついてましてね……」

俺がエリーの話を聞いていると受付の裏から野太い男の声が聞こえた。

「エリー! いつまでも話してんじゃねぇ。そういうのは後ろに人がいないときにしろ!」

その声が聞こえたと同時にエリーの体が一瞬ビクッと震える。
今声かけたのってもしかしてギルドの偉い人か?

「ガンゼフさん!? どうしてここに!」

「おい、俺がここにいちゃおかしいかよ」

「そんなことはないですけど」

「だろ? ってあんたら見ない顔だな。新入りか?」

エリーと厳ついおっさんの会話を見守っていると突然そのおっさんから話を振られた。

「今日このギルドで冒険者登録したカズヤだ。そしてこの二人がソフィーとリーネ」

二人がそのおっさんに会釈をする。

「おう、俺はガンゼフだ。ここではギルドマスターをしている。今日登録とは新入り中の新入りじゃないか。頑張れよ!」

──この人がここのギルドマスターか、確かに風格はあるな。

俺がそう思っているとエリーが得意気な顔で話に割り込んで来る。

「ガンゼフさん、カズヤ様達は確かに今日登録したばかりですがもう二つも依頼を達成しているんですよ。それに私が話していたのはオススメの宿がないかカズヤ様に聞かれたからです」

「そうだったのか、悪かったな。それにしても一日も経ってないのに二つ依頼達成とは先が楽しみだな」

ガンゼフはバンバンと俺の背中を強く叩く。

──痛い痛い! 俺が幽霊じゃなかったら体力削れてるんじゃないか?

「あ、すまん。強く叩きすぎたわ」

俺が痛がっているのを見てガンゼフは俺の背中を叩くのを止めた。

──厳つい見た目とは裏腹に案外気が使えるのか? いや背中を強く叩く時点で使えてないか。

「いや大丈夫だよ。これからも色々世話をかけるかも知れないけどよろしく、ガンゼフさん」

「出来れば面倒事は勘弁したいんだけどな。まぁお前達にはこれから期待してるからよ。頑張れよ!」

「ああ、出来るだけ面倒事を起こさないように頑張るよ」

「そっちの頑張れよじゃないんだけどな」

それから俺達三人はガンゼフとエリーの二人に軽く会釈をしてギルドを出た。
ギルドを出た後、俺は後ろを振り返り二人にこれからの行き先として宿を提案をする。

「ソフィー、リーネ。ひとまずエリーにオススメされた宿に行かないか?」

「そうね。さっき受付の人が言ってた風呂にも入りたいしね」

「私も問題ないわ」

それから俺達はエリーに勧められた宿に向かった。

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