乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第11話 依頼 Ⅰ


エリーの説明を受けた後、俺達は依頼が貼り出されている掲示板を見ていた。

「やっぱりこの時間帯は良い依頼が見つからないな」

掲示板は一日に一回朝に更新されていく。
そして依頼を受けるには掲示板に張られている依頼を受付まで持っていく必要がある。なので俺達が見ている昼の時間帯はあまり良い依頼が貼られていないらしい。
良い依頼は朝の時点で無くなってしまうそうだ。そんな時間帯になぜ依頼を探しているか?
理由は単純明快だ。それはお金が一コルクも無いからだ。
ちなみにコルクとはこの世界のお金の通貨で一コルクが一円に相当する。
覚えやすいお金だなとコルクを知ったときは思ったものだ。そんな感じで俺達は今日の食費、寝床を得るため依頼を探していた。

「何か簡単で楽でお金が稼げる依頼ないかな」

「そんなのあるわけないじゃない。現実見なさいよ、現実を」

どうやら思っていたことがそのまま口から漏れていたみたいでソフィーにツッコまれる。

「そうは言っても夢見ちゃうでしょ」

そんな都合の良いことがあるわけないのは分かっている。それでも夢を見てしまうのが男というものだ。
だが夢は夢でここは現実だ。一攫千金を狙うのではなくコツコツと頑張るとしよう。
そう思いゴブリンを十体討伐する依頼を手に取ろうとしたそのとき……。

「あったよ。簡単で楽でお金が稼げる依頼」

リーネはそんなことを口にして数ある依頼の下の方に埋もれていた依頼を指差していた。

「ん? 何だって?」

俺はすかさずゴブリン討伐の依頼に伸びかけていた腕を引っ込めリーネが指差した依頼へと手を伸ばす。
依頼の中身を見ているとこんなことが書かれていた。

『家のお掃除求む! 初心者大歓迎! 仕事は一から教えます。   報酬:十五万コルク  ※アットホームな職場です。』

なんだこの大学生のするアルバイトみたいな依頼。それにアットホームな職場って限りなくブラック臭がするんだが。

「この依頼良さそうじゃない」

横から依頼を覗いていたソフィーがこの依頼に肯定的な反応を示す。

「いやでも何だろう、この嫌な感じ」

「何がダメなのよ。さっきは簡単で楽でお金が稼げる依頼がしたいって言ってたじゃない」

「それにこの依頼はFランク」

どうやらリーネまでソフィーの側についたようだ。
二対一で俺が二人に勝てる訳もなく俺達は結局この依頼を受けることになった。

「確かに報酬金は高いけれども何だか不安なんだよな」

俺は不安になりながらもその依頼をエリーの下に持っていく。

「こんにちは!」

「あの依頼を受けに来たんだけど、今大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。あ、カズヤ様。さっそく依頼を受けられるのですね。どんな依頼を受けるんですか?」

「それがこれなんだけど」

そう言って俺は例の依頼をエリーに見せた。

「これは!? そうですか、よりにもよってこれを」

エリーは哀れみを含んだような目で俺を見る。

「え? この依頼は何か訳ありなのか? 依頼者が怪しいとか、報酬金が支払われないとか」

「いえ、依頼者の身元はしっかりしてますし、報酬金の一部も前もって貰っていますのでそこは心配ありません。心配があるとすれば……」

そこでエリーは不自然に言葉を切る。この先を言うべきか否かを迷っているようだった。

「あるとすれば?」

この先の言葉が気になった俺はエリーにこの先の言葉を言うように促す。

「そうですね。心配があるとすれば……出るということくらいでしょうか」

「出るって何が?」

「出るって言ったらあれしかないですよ。様々な怪奇現象を引き起こすあれです」

「もしかして幽霊のことか?」

「はい、この依頼を受けた人達はみんな一日で帰って来るんですよ。何でも笑い声が聞こえるとか、物が勝手に動いたりだとかで」

「え、それだけか?」

「それだけとは何ですか、怖いじゃないですか。気味悪がって誰も受けないんですよ」

この依頼を受けられる俺達はラッキーかもしれない。確かに普通の人は幽霊が出る依頼を進んで受けようとは思わないだろう。
だが俺の種族を考えてみて欲しい。俺の種族は幽霊というやつだ。つまり幽霊の俺が幽霊の出るというこの依頼を受ければ、ただの掃除と何ら変わらない。
問題なのはリーネとソフィーだがこの二人は俺で幽霊には慣れていることだろう。
そうこれはただの掃除だ。掃除をして十万コルクが貰える、何て楽で稼げる職業なのだろう冒険者は。

「この依頼の詳細は分かった。この依頼受けるよ! むしろ受けさせて下さい」

俺はエリーに対して頭を下げる。

「顔を上げて下さい、カズヤ様。私達からしてもこれはありがたい話です。こちらこそ受けて下さってありがとうございます」

エリーは俺に対抗してか俺よりも深く頭を下げる。

「いやいやこちらこそ」

俺も負けていられないとエリーよりも深く頭を下げる。

「いやいや私達こそ」

エリーはさらに……。

「いやいや……」

俺も……。

「何やってるのよ、あなた達」

ソフィーはいつの間にか受付まで来ていてこの若干謎な状況に呆れているようだった。

「あ、ソフィーか。これはだな…………何やってたんだっけ?」

「カズヤ様は依頼を受けに来たのですよ」

いつの間にか通常モードに戻っていたエリーが状況を説明する。

「あーそうだった、依頼だ依頼」

「それで何であんな状態になるのよ」

ごもっともだ。俺でもよく分からない。

「それは一旦置いておいて、依頼受けて来たよ」

「はぁ全く、それで依頼の方はどうなの?」

ソフィーはやれやれとため息を吐きながらも俺の受けた依頼について聞いてくる。

「無事受けられたよ。ただ……」

「ただ?」

「この依頼幽霊が出るらしい」

「…………カズヤ、このゴブリン十体討伐って依頼がいいんじゃないかしら?」

ソフィーの手には先程俺が受けようとしたゴブリン討伐の依頼が握られていた。

「もしかして幽霊苦手?」

もしかしてと思った俺はソフィーにそう問いかける。

「…………」

ソフィーは急に口を閉じ、目を逸らした。

「ソフィーは昔から幽霊が苦手だよ」

リーネが依頼の紙を持ってこちらにやって来る。

「そうなのか?」

リーネの話を聞いた俺はソフィーに確認をとった。

「そうよ……悪い?」

「いや悪くはないけども……」

そこでふと疑問に思ったことをソフィーの耳元で囁いた。

「何で俺は大丈夫何だ?」

そう俺は幽霊だ。この依頼に出てくるのと種族的には同じだ。

「だってあなた幽霊って感じしないじゃない」

まぁ幽霊らしくないのは認めるが。

「最初に会ったときも大丈夫だったような」

「あのときは状況が状況だったでしょ。幽霊に怯えている余裕なんてなかったわ」

確かにあの状況で幽霊に怯えているのもおかしいか。
それにあのときは幽霊に怯えている余裕なんてないと言っていた。つまり今は幽霊に怯えていられる程の余裕が出来たということだ。これは良いことなんじゃないかと思う。

「分かった。この依頼は止めるか」

そう言ってこの依頼を取り止めようとするが……。

「待って、その依頼受けても大丈夫よ」

さっきまで弱気だったソフィーが慌てて依頼を取り止めようとする俺を止める。

「でも良いのか?」

「良くはないけど、私は二人に迷惑をかけたくないの……それに……」

そこでソフィーは急に顔を赤くして目を逸らした。

「いざとなったらあなたが助けてくれるでしょ……」

急にそんなことを言われたら照れてしまう。でもそうか俺を信じてくれているのか。

「任せろ! 二人は俺が守ってやる!」

俺は少し照れながらもソフィーを安心させるように言葉を返す。

「私は大丈夫だから」

だがリーネの反応は冷たかった。そうそれはまるで冷凍食品のように。

「は、はい」

リーネの言葉を受けた俺はそう返すしかなかった。

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