美少女クラスメイトに(誘われて→脅されて)、陰キャな俺が怪しい部活に(入った→入らされた)話

サバサバス

19 オリエンテーリングが思ったよりも波乱に満ちていたんだが

オリエンテーリング中のこと、椎名えりから発せられた衝撃的な発言に俺を含めたここにいる全員から驚きの声があがる。
まぁいきなりのことだったからな。
というか俺が一番驚いた。

「そうなのかい? 椎名さん」

真っ先に驚きから復帰したのは早見優人。
彼は今にも信じられないと言い出しそうな顔で椎名えりに質問する。というか実際に言っていた。

「そうよ」

それに対して彼女は無表情で肯定の言葉を返した。

「そうか……いや本当にさっきは悪いことをしたね。早坂君もすまない」

早見優人は申し訳なさそうな顔で椎名えりと俺に謝罪の言葉を述べる。
彼の顔には申し訳なさの他に悔しさも浮かんでおり椎名えりことを本気で好いていたということが窺えた。
そんな彼の言葉にふと自分も関係者だということを思い出す。

「いやいや、これは違う!」
「違う?」
「俺とあいつはそんな関係じゃない!」
「一体どういうことだい?」

俺の言葉に過剰といっていいほど反応する早見優人。
彼の気持ちも分からなくはないがそれを聞きたいのは寧ろこちらである。
しかし彼に聞いても仕方ない。
俺は体を椎名えりの方へと向け、彼女の目をまっすぐに見てから口を開く。

「で、どうなんだ?」
「そうね……これは冗談よ。驚かせてしまったのなら謝るわ」

椎名えりはその言葉と同時に俺の視線から逃れるように目を伏せる。
何かやましいことでもあるのかその後も一向に俺と視線を合わせようとしない。

「そ、そうか。冗談なんだね。まさかそんなことあるわけないと思っていたけど、いや驚いたよ」

早見優人はホッとした様子で軽く笑みを浮かべる。
彼が若干俺をディスってることにはこの際目をつぶってやろう。それよりも……。

「何故こんなことをした?」

聞きたいのは動機。
いくら先の行動が読めない椎名えりでも理由なく許嫁とは言わないはず。

「さぁ何でかしらね?」

しかし今回も椎名えりはそう茶化して誤魔化してしまう。
いつもそうだ、彼女はいつも俺をからかっては俺の反応見て楽しんでいる。
一体俺に何の恨みがあるのかは知らないがこう毎回やられるとどうしても不満が溜まる。
だからだろうか、無意識のうちに俺は声を荒げていた。

「いい加減にしろよ!」

俺の声は自分でもビックリするほど大きく響き渡る。
頭に血が上っていたせいか、それは相手を威圧するような感じの悪い声になってしまっていた。
違う、俺が言いたかったのはそうではない。
俺はただ彼女に一言注意をしたかっただけで決して威圧したかったわけではない。
しかし咄嗟に訂正して謝罪しようとするも口がまるで自分のものではないかのように動かない。

「もう良いわよ……」

俺がそうこうしているうちにも椎名えりは一言だけ残して一人先へと走って行ってしまう。
その際彼女は他にも何か言っていたような気がしたが俺には聞き取ることが出来なかった。
静まりかえる他の者達、誰から見ても分かるようにこのグループ内にあった高校生らしい和気あいあいとした空気は跡形もなく消え失せていた。

「椎名さん! みんな悪いけどここで待っててくれ。俺は椎名さんを追いかける」
「俺も行く、優人」
「分かった、一緒に来てくれ。もししばらくしても戻らないようだったらみんなは先に建物の方に戻って良いからね」

早見優人と彼の取り巻きの一人は先に行ってしまった椎名えりを追いかけるため彼女と同じ方向へと走り出す。
そんな急展開の中、俺は何もすることが出来ずただその場に立ち尽くしていた。

「早坂君!」

突然呼ばれ、呼ばれた方向に顔を向けるとそこにはどこか申し訳なさそうな顔をした相坂優がいた。

「その、私が余計なことを言ったせいでこんなことになって……ごめんなさい!」

彼女はまるで自分が全ての原因だという風に謝罪の言葉を口にする。
確かに彼女の質問がなければこんなことにはならなかったのかもしれない。
だがそれでも最終的な原因は俺だ。
俺が全てを壊した。その事実は変わらない。

「いや、俺こそすまない」
「……それならこれで私達はお相子あいこですね。では余計なお世話かもしれないですが一つだけ言わせて下さい」

突然真剣な表情になる相坂優。
彼女はそれから一言だけ俺に告げた。

「早く仲直りした方が良いです」

彼女の言葉が誰のことを指しているのかはすぐに分かった。
しかしそれが出来ていれば今頃こうしてはいない。

「なんて言えば良いのか分からないんだ」
「簡単でいいんです。例え簡単な言葉でも相手に対する気持ちがしっかり込もっていればそれは相手にも伝わるものですから」
「そういうものか?」
「そういうものです」

相坂優は最後にそう言って笑みを浮かべる。
その笑顔で少しだけ俺の心は落ち着きを取り戻した。

◆◆◆

あの後一向に戻って来ない三人にどうしようもなくなった俺達はオリエンテーリングを中断し宿泊施設へと帰ってきていた。
それから一時間、他のグループが続々とオリエンテーリングから戻る中、俺は姿を消した椎名えりを探していた。

「一体どこにいるんだ?」

そろそろ戻って来ていてもおかしくない頃だが椎名えりの姿はどこにも見当たらない。
しばらく探しても見つからない彼女に一旦自分の部屋へと戻ろうとしたそのとき。
誰かが俺の肩を掴んだ。
もしやと思ったが肩の掴み方をみるに相手は自分より背の低い、それもかなり俺と身長に差がある人物だ。
俺の知り合いでそんなに背の低い人物は一人しかいない。

「何か用事か? 安藤」
「ええ、私が肩に触っただけで分かるなんてなんかキモいよ」

椎名えりのことで色々負担がかかっている俺の心を的確に抉る一言に思わずウッと声が出そうになる。
彼女は俺の心でも破壊しに来たのだろうか。
そう思ってしまうほど彼女の言葉は威力が高かった。

「まぁそんなことはどうでもよくて、オリエンテーリングの早見君はどうだったかを聞きたいんだよ」
「どうだったってどういうことだ?」
「もう、私のことなにか言ってたかってことだよ! で、どうだったの?」
「ああ、それは見事に何も触れてなかった」
「そうか、やっぱりか。聞きたかったのはそれだけだよ。ありがとうね、早坂君」

なんだこの違和感は。
なにか軽いというか。
今から告白をする人の言葉にはふさわしくないというか。
とにかく気持ち悪い感じがする。
これから告白する人っていうのは皆こういう感じなんだろうか?

「なあ……」
「何?」
「あ、いや……夜は頑張れよ」
「任せてよ!」

俺がそんな違和感を覚えたせいか彼女の浮かべた笑みが俺には胡散臭く見えた。

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