美少女クラスメイトに(誘われて→脅されて)、陰キャな俺が怪しい部活に(入った→入らされた)話

サバサバス

8 酷い目に遭ったんだが

放課後の部室、目の前にいるちょっと変わった美少女──椎名えりから俺は真剣な眼差しを向けられていた。

「……それでだな、俺達のオリエンテーリングのグループに入って欲しいんだ」

一通り説明が終わった後、椎名えりの表情を伺う。
しかし、今日も当然ながら彼女は無表情だった。

「依頼のためというのなら仕方ないわね」

椎名えりはやれやれと手を自分の肩くらいまで上げ首を横に振る。
その仕草にお前は欧米人か! というツッコミを入れたくなるがその気持ちはぐっと抑えて話を続ける。

「そう言ってくれて助かる。それでもう一人女子を探さないといけないんだ。あんたの知り合いで誰かいないか?」

その問いかけに彼女は当然のような顔である人物の名前を口にした。

「それなら安藤ひゆりを誘ったらどうかしら?」

そうか、普通に考えればそうだよな……盲点だった。

「ありがとう。安藤を誘ってみる」

◆◆◆

次の日の朝、俺は自分の机で目的の人物を待っていた。
彼女の名は安藤ひゆり、我が部活に依頼をしたクラスメイトだ。
現在彼女はクラスメイト五人と楽しく談笑しており、とても近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
そんなこと気にせずに話しかけろよ、と思うかもしれないがもし誤って近づいて話しかけてしまえば影で、さっきの人ってひゆりの知り合いなの? もしかして告白されたとか(笑)? とか言われたりして安藤ひゆりに迷惑をかけるし俺は心が痛い。
そうなってしまってはお互いが不幸になるだけだ。
特に俺が……。

なので話しかけるとしたら朝のホームルームが終わって彼女が一人になったとき。
そのときに彼女をオリエンテーリングのグループに誘うとしよう。

「よし、じゃあ朝のホームルームを始めるぞ! みんな席につけ!」

二年B組の担任教師が教室の引き戸を開けると同時に声を張る。
その声に従ってクラスメイト達は足早にそれぞれの席へとついた。
しばらく担任教師の朝ごはんはカップメンだったというどうでもいい話が続いた後、話はようやく宿泊学習の話題へと切り替わる。

「……そういうわけでオリエンテーリングと部屋のグループは決まったか? 期限は今日の帰りのホームルームまでだ。グループが決まったところはこのプリントにグループ毎でそれぞれメンバーの名前を記入していってくれ。このプリントは黒板に貼っておくから忘れずにな。それじゃあ以上解散! 次の授業の準備にかかれよ!」

担任教師の声で再び教室内がざわめき始める。
安藤ひゆりを誘うとしたらこのタイミングしかない。
そう思った俺は勢いよく席を立ち、安藤ひゆりの元へと急いだ。

「あ、安藤。ちょっといいか?」

普段運動していないせいか教室内を少し走っただけで若干息が乱れている。
端から見れば安藤さんの机に手をついてスーハーと深呼吸をするという通報されてもおかしくない体勢だがここは幸いにも学校内、さらに言えばクラスメイトなので俺の行動を怪しむ人は誰もいないはずだ……たぶん。

「ど、どうしたの!? そんなに慌てて」
「少し話があるんだ。廊下に出てくれないか?」
「うん、それはいいけど……」

これで安藤ひゆりを廊下に連れ出すことは成功した。
後はグループに誘うだけだ。

それから安藤ひゆりを連れて廊下までやって来た俺は彼女の方へと向き直る。

「いきなりで悪いんだが、安藤。オリエンテーリングのグループはもう決まってるか?」
「それならさっき友達に頼んで入れて貰ったところだけど……どうかしたの?」

誘うタイミングを見誤ったか……。
彼女がオリエンテーリングのグループを組むということも考慮して、もっと早く行動すべきだった。
だが過ぎてしまったことはもうどうにもならない。
それならせめて何事もなかったかのように穏便に済ませよう。

「いや……それならいいんだ。この話は忘れてくれ」
「一体なんのことなの? そう言われると逆に気になるよ」
「安藤は聞かない方が良いことだ」
「えぇ……そういえばさっきオリエンテーリングのグループについて聞いてきたけどそのこと?」
「まぁ……そうだが」
「確か早坂君は早見君と同じグループだったよね……あぁああ!!」

安藤ひゆりは突然大きな声を上げ、その場に崩れ落ちる。
その様子だと気づいてしまったらしい。
こうなってしまえば俺には面倒事が起こらないのを祈ることとフォローをすることしか出来ない……。

「まぁ気を落とすな。誰だってタイミングが悪いときはある」

面倒事を起こさないためにもまずはフォローだ。
人間、フォローされれば誰だって悲しい気持ちは和らぐ。
彼女もきっと……。

「もっと早く言ってくれれば……せっかくの早見君と同じグループになれるチャンスが……」

ダメだった。
その証拠に安藤ひゆりは座り込んだ状態のまま手のひらで顔を覆い只今現在進行形で後悔していますというようなポーズをとっている。

しかしこのポーズ、端から見れば俺が泣かせているような構図にならないか?
心なしか周りにいる人達の視線が痛いし俺を指してヒソヒソと会話している者もいる気がする。
ちょっと待ってくれ、傍観者諸君。
俺はただ宿泊学習のグループに誘っただけだ。
何もやましいことはしていない。
だからそんなゴミを見るような目で俺を見ないで欲しい。

「ちょっと! うちのひゆりに何してるの! 自分のやってることが恥ずかしくないの?」

はい、来ました面倒事。
目の前に現れた黒髪ショートでややつり目の女子生徒、言動から見るに安藤ひゆりの友人のようだ。
あんなにも面倒事にならないように気を付けたつもりだったが俺の努力は全くもって無駄に終わったらしい。
だが今はこんなことに思考を割いている場合ではない。
今思考を割くべきは俺目掛けて荒々しく拳を振ろうとする目の前の女子生徒だ。

「ちょっと梨花ちゃん、やめてよ! 私は大丈夫だから」
「ひゆりは黙ってて!」

何故か俺に敵意剥き出しの梨花ちゃんなる女子生徒。
安藤ひゆりよ、誤解を解いて早く俺を助けてくれ。

「早坂君は別に……」
「問答無用っ!」

だが安藤ひゆりの言葉に梨花ちゃんは聞く耳を持たない。
もう梨花ちゃんの暴走は俺が殴られるまで誰にも止められないようだ。
こうなれば俺が自力でなんとかするしかない。
まずは右足を思い切り踏み込む。

「一体何をする気なのよ……」

俺の突然の行動に戸惑う梨花ちゃんを気にせず、そのまま勢いよく左膝を床につける。
そして最後に頭、両手、両足全てを地面に着け一言。

「すみません!」

これこそジャパニーズ土下座。
あらゆる厳しい場面でもこれを使えば万事解決の伝家の宝刀だ。
静まり返る、周りの野次馬達。
中には俺を嘲笑っている者もいる。
だがそれがどうした? 笑いたければ笑うが良い。
プライドのために殴られるなんてまっぴらごめん。
それなら初めから恥と外聞を捨てた方がマシだ。

「あんた、いきなり何してんのよ! もういいからそれ止めて! ひゆりも早く行くよ!」
「あ、うん。ごめんね、早坂君」

俺の目論見通り梨花ちゃんは安藤ひゆりを連れ足早に俺のもとを去っていく。
これはいわゆる土下座する方よりされる方が恥ずかしいというあれだ。
とにかく俺は恥と外聞を引き換えに梨花ちゃんを撃退した。
彼女も既に高校生、ただの馬鹿ではない。
頭を冷やせばきっと安藤ひゆりの言葉も、俺が無罪だということも理解出来るはずだ。
そうなれば次対面したときには俺の方が謝られる立場になるだろう。

それとこれは土下座中に周りから聞こえてきた話だが梨花ちゃんなる女子生徒は昔空手をやっていたらしく全国大会にも出場経験があるそうだ。
もしそんな人物の拳が当たっていたらどうなっていたか……。
そう考えると恥を捨てて本当に良かったと思う。
決して今になって恥ずかしくなり自らの行動を正当化しているわけではない。

「そろそろ良いか……」

二人が完全に去ったことを視界の隅で確認した後、床に着けていた頭を上げゆっくりと立ち上がる。
それから制服をはたいて埃を落とし何事もなかったかのように自らのクラスへと入った。

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