前略、家に都市伝説の幽霊『アオイさん』が住み着きました。~アオイさんは人見知りでちょっぴり自由なお姉さん~

サバサバス

46 再び会えるそのときまで

学校の昼休み、圭太は空を見上げていた。見えるのは白い雲だけで当然ながら星は見えない。アオイさんがいなくなってからもうすぐで十ヶ月が経とうとしていた。

「おーい、圭太。今日は同好会行くか?」

昴の呼び掛けでそういえば最近は大学受験対策であまり同好会に行けてなかった、そろそろ顔を出さなければとそう思い『行く』と短く返事をする。

「そうか、なら今日は早く来いよ。今回はとっておきの話を用意してるんだ。じゃあ、また後でな」

昴が自身の席に戻ったのと同時に今度は桜がこちらに近づいてきた。

「今回もまた変なことをするつもりなんですか?」
「詳しくは聞いてないけど多分そうかな?」
「今までそれでよくやって来れましたよね。ある意味尊敬します」
「それはどうも……」
「別に褒めているわけじゃないですよ。とにかく少し前にあった学校の屋上でキャンプファイヤーみたいなあまり派手なことはしないでくださいね」
「あれはキャンプファイヤーじゃなくて一応お焚き上げの練習なんだけど……」
「そんなの他の人からみたらキャンプファイヤーと変わらないです。同好会で変なことをしないで下さい、私も怒られるんですから」

桜は念には念をと何度も釘を打つ。ちなみに彼女は一年前のあの一件以来オカルト研究同好会の部員となっていた。

あの一件──アオイさんがいなくなってからも色々と不思議なことが起こっていた。まず黒いモヤに引きずり込まれた桜の友人のことだが、後日桜に聞いた限りだといつの間にか全員がそれぞれの自宅にいたらしかった。というのもまるで初めからそんなことはなかったとでもいうように普通に生活していたそうなのだ。それだけでも不思議なのだが、それに加えてどういうわけか『アオイさん』という都市伝説そのものやアオイさんに関することが自分や櫻井桜以外の記憶から消えていた。本当にどういうわけか分からないが事実なのだから仕方ない。しかし桜が覚えているということはきっとアオイさんは実在したのだろう。それにもし例えアオイさんのことが全て幻覚だったとしても関係ない。彼女のことはずっと忘れないとそう彼女と約束をしたのだから。

「じゃあお願いしましたよ、あと今日の同好会は行かないので高坂君達によろしく伝えておいて下さい」

彼女がこの場から去るのと同時に昼休み終了のチャイムが教室内に鳴り響いた。

◆◆◆

放課後、委員会など色々な用事済ませてから部室に向かうとそこには既に昴と冬馬の二人が揃っていて、中でも昴は見ている側からしたら少し恐怖を感じてしまうほどの嬉しそうな表情を浮かべていた。

「ようやく来たな」

昴の笑顔になんとなく身構えていると彼は早く座れと圭太を椅子に座らせる。

「早速だがあのことは知ってるか?」
「あのことって何のこと?」

曖昧な昴の言葉が分からず、真面目に聞き返せば昴は嬉しそうに話を始める。

「実はここだけの話なんだけどよ……」
「明日、俺達のクラスに転校生が来るんだ」

しかし昴の声は冬馬の言葉によって全て掻き消された。昴の話を遮った冬馬はそれから『回りくどかったからな』と一言だけ呟く。それに対して昴は怒るかと思いきや、自分でもそう思ったのか気にせず話を続けた。

「まぁそういうことだ。今日偶々学校で見かけてよ。声かけてみたら転校生だったってわけだ」
「確かに今の時期に転校生は珍しいけど、それでどうしてそんなに嬉しそうなの?」

部室に入ってから気になっていたのはそこ、昴の嬉しそうな表情だった。確かに転校生という響きは少しワクワクはするが、昴のようにそこまで喜ぶほどのものでもない。だからこそ聞いたのだが昴はただ一言だけ呟いた。

「……そりゃ一目惚れしたからな」

どこか遠くを見ている昴の言葉で圭太は全てを察する。彼が嬉しそうだったのは要するにその転校生が明日自分達のクラスに転校してくることが単純に嬉しかったからなのだろう。まさかこれだけを知らせるために呼んだのかと昴の手元を見れば、彼は帰る準備を始めていた。

「とにかく俺は明日に備えて早めに帰る。後は二人で好きに活動してていいからな。それと鍵返すの忘れるなよ」

昴は最後にそれだけ言い残すと急いで部室を出ていった。昴がそれほど気に入った転校生とは一体どういう人物なのか、気になった圭太が冬馬に質問すると彼は『そうだな』と少し考える素振りを見せる。

「俺もチラッとしか見てないけど少し不思議な雰囲気があったかもな、それに年上っぽい感じもした。まぁ総合すると昴が好きそうな感じだな」
「確かに好きそうな感じだね」

不思議で年上っぽいということはきっとミステリアスで包容力があるということなのだろうと、なんとなく転校生の全体像を想像していると冬馬も先程の昴のように帰る準備を始めていた。

「じゃあ俺も帰るな、今日は妹から買い物を頼まれてるんだ」

冬馬はそれからそそくさと部室を出ていく。部室に残されたのは圭太ただ一人。そうなれば部室にもはや用事などなかった。荷物をまとめて部室の鍵を閉め、職員室に鍵を返す。職員室を出たところでふと周りが暗くなっていることに気づいた。もうこんな時間になっていたのかと窓から外を見ると、なんとなく夜空に目がいく。

「そういえばあのときはもっと綺麗だったっけな」

思い出されるのは去年の夏の夜空。そんなことを思い出していたからか圭太の足は自然と屋上へと向かっていた。

ペタペタと音を鳴らしながら屋上までの階段を上り、それから扉を開ける。扉を開けた瞬間こちらに向かって強い風が吹いた。

「……ちょっと寒いかも」

少しの肌寒さと共に扉から屋上に出るとそこにはこの学校の制服を着た女生徒がいた。あれが恐らく昴の言っていた転校生なのだろうが、彼女がこちらに背中を向けているせいで彼女の顔はよく見えない。それに何故この遅い時間に屋上にいるのかが分からなかった。不審に思い彼女の様子を窺っていると……。

「星を見に来たのかな?」

突然彼女にそう聞かれ、圭太は『そうだけど』と返事をする。すると彼女はふっと笑った。

「ごめんね、あまりにも変わってなかったからつい」

彼女の意味不明な言葉に疑問を抱いていると彼女はゆっくりとこちらを向く。

「久しぶりだね、。ただいま……」

そう言われた圭太は自然とこう返していた。

「おかえりなさい」

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