前略、家に都市伝説の幽霊『アオイさん』が住み着きました。~アオイさんは人見知りでちょっぴり自由なお姉さん~

サバサバス

2 夜の学校調査①

昼休み、それから午後の授業もあっという間に過ぎ、現在は放課後。圭太達は教室で駄弁っていた。

「なぁ圭太も知ってるよな?」
「知ってるって?」

いきなりのことで何のことだか分からず昴の質問の意味を聞き返す。今までの雑談の流れと全く関係ない質問、返事が出来ないのは当然と言えば当然であった。

「昴、お前はもっと分かりやすく話を振れよ。いきなり過ぎて俺でも分からないぞ」
「ああ、それは悪かったな」

冬馬の苦言に珍しく素直な反応を示す昴はそれから下を向く。そんな昴を圭太は不思議そうに、冬馬に至っては何か気持ち悪いものを見るような目で見ていた。それほどまでに今の昴はおかしかった。具体的に言うと今の彼はどこか素直で、まるで彼の体の中に何か別のものが入りこんでいるような、そんな印象だった。

「俺が聞いたのはアオイさんのことだよ」

今まで見たことないくらいに真面目な顔つきの昴。それだけ彼は今真剣に話をしているということなのだろう。

「何だ、アオイさんのことか。それならこの学校にいるやつは誰でも知ってるんじゃないのか? なぁ圭太?」
「う、うんそうだね」

圭太と冬馬の返事に昴はさらに質問を続ける。

「じゃあ最近この学校でアオイさんが出たって噂も知ってるか?」

それならと圭太は今日の休憩時間に耳にした話を昴に話す。冬馬もどうやらこの噂については知っているようで一度だけ縦に首を振った。そんな二人の反応を見た昴は一度大きく頷くと、それからあることを宣言する。

「そこでなんだがよ、俺達でアオイさんを探してみないか? それで真実を確かめるんだよ。面白そうだろ?」

そう来たか、圭太は率直にそう思った。昴の性格上、何かしらのことは提案してくるだろうと踏んでいたが、まさかアオイさんを探しに行こうと提案するまでは予想できなかった。昴がホラーやオカルトなどの類いが大好物なことを考えれば、この提案は必然だったのかもしれないが、それでも突拍子もないことなのには変わりなかった。

「馬鹿馬鹿しい、そんなの一人でやればいいだろ。俺は忙しいんだ」
「もしかして怖いのか? それなら強制はしないが」

昴の挑発に圭太は深くため息を吐く。というのも昴に挑発されて冬馬が黙っているはずはないからだ。寧ろ挑発に乗っかること間違いなしだろう。
今のため息はこれからの展開が予想出来たからこそのものだった。

「そんなわけないだろ! ああ、良いよ。だったら一緒に探してやるよ!」
「無理しなくてもいいぞ?」
「無理なんてしてない! お前こそ一人で探すのが怖いから俺達を連れていこうとしてるんだろ!」
「そう見えるか?」
「ああ見えるよ!」

圭太の予想通り、冬馬は昴の挑発に乗った。そうなれば圭太には選択肢があってないようなものだ。昔からこういうときにはいつも多数決で、誰が決めたわけでもないが三人のうち二人の意見が一致すると自然と残りの一人もその意見に従うという流れになっていた。
つまり今の状況で考えると圭太も既にアオイさんを探す一員になっていた。

「よしじゃあこれで決定だな。時間は今日の夜九時、集合場所は学校の校門前だ。それじゃあ各自一度家に帰って準備を進めてくれ!」

とにかく決まってしまったものは仕方ない。
いつも二人の後をついていくだけの圭太にはついていく他にどうすることも出来なかった。

「昴、遅れるなよ!」
「じゃあまた夜に」

まずは準備が必要だ。
懐中電灯に、スマートフォンのモバイルバッテリー、それからもしものときの食料。別にアオイさんの都市伝説を信じている圭太ではなかったが万が一という言葉もある。

それから圭太達三人は準備のため一度帰路についた。
帰路についたのは夕方の五時、四月だと既に日が落ち初めている時間だった。

◆◆◆

夜の九時五分、暗闇の中圭太は学校の校門前までやって来ていた。彼の背中には小さめのリュックが装備されており、三人の中で一番やる気があるように見える。もっとも実際に一番やる気があるのは圭太の前にいる昴なのだが。

「よしこれで全員揃ったな。それじゃあ出発するか!」

昴は力強く宣言すると校門から向かって左側に歩き始めた。てっきり校門をよじ登るものだと思っていた圭太は昴の行動に疑問を呈する。

「昴、どこ行くの? そっちは校舎じゃないけど……」

圭太の言葉に反応しないどころか、そのまま歩き続ける昴。しばらくして圭太に便乗する形で冬馬も文句を言い始める。

「おい聞いてるのか、昴。まさかこの期に及んで怖くなったとかそういうわけじゃないだろ?」
「違う、こっちに抜け道があるんだよ」

冬馬の言葉でようやく反応した昴はそのまま数メートル先を指差す。
彼が指差した場所はフェンスの壁、そこには確かに人ひとりが通れるくらいの穴があった。

「こんなところに抜け穴が……」
「まさかお前が開けたのか?」

冬馬が咎めるような目で昴を見るが、その視線を向けられた昴はすぐに否定する。

「ちげぇよ。開いてるのをたまたま見つけたんだ」
「たまたま見つけたってこんな目立たない場所をか?」

冬馬の言う通りこの場所はあまり目立たないところにある。元々この学校の一部はちょっとした雑木林に面している。この場所はそんな雑木林に面している部分のフェンスに開いた穴だった。普通だったらまず来ない。

「まぁたまたまここら辺に来る機会があってな」

言葉を濁す昴に冬馬は何か思うところがあったようで突然昴に詰め寄る。

「そういえば昴、授業中たまにいないときあったよな。まさかここから抜け出してたのか?」
「まぁそういう日もあったかもな。じゃあ俺は先に行くからな」

冬馬の言葉を受けた昴は白黒判断つかない返答を残して一人先にフェンスに出来た穴を潜り抜ける。

「おい、話はまだ終わってないぞ!」

続けて冬馬もフェンスに出来た穴を潜り抜ける。

「ちょっと待ってよ!」

最後に圭太が潜り抜けるとそこには既に穴を通った昴と冬馬が待っていた。昴は圭太に手を差し伸べる。

「これからが本番だ」

圭太を起こす昴の顔は今ここにいる誰よりも輝いた笑顔をしていた。

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