俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について
50.祭りの終わり
「終わっちゃいましたね」
「そうだな、終わったな」
なんというか文化祭が終わることに一抹の寂しさのようなものを覚える。文化祭が始まる前まではただの学校行事の一つでただ単に授業がない日というだけの認識だった。だが今この時、寂しさを感じているということは俺がいつの間にかこの文化祭を楽しんでいたということなのだろう。それとももしかしたらこの四葉との特別な時間が終わってしまうことが寂しいのかもしれない。
「……それで凛君はどうでしたか?」
「どうって何が?」
「まさか今の話聞いていなかったんですか? 酷いです」
「悪い、ちょっと考え事しててな」
「考え事ってもしかして私のことだったり……なんてことないですよね。文化祭のことを考えていたんですか?」
「あ、ああ、そうだな」
そう、さっき考えていたのは文化祭が終わってしまうことに対するもので決して四葉のことを考えていたわけではない。そのはず、そのはずなのだが、この無性に込み上げてくる恥ずかしさは一体なんだろうか。下手したら告白したときより恥ずかしいかもしれない。
「その反応、もしかして本当に私のことを……」
「えーと、まぁそうかもしれない」
俺の言葉を聞いて少し俯いた四葉は夕日のせいか、恥ずかしさのせいか分からないが、顔に少し赤みを帯びているように見えた。もしかしたら今の俺の顔も彼女と同じように赤くなっているかもしれない。そう考えると彼女の顔を見れなくなる。
そうしてお互い無言の時間がしばらくの間続く。
「……それでどんなこと考えていたんですか?」
突然沈黙の時間を破った四葉に俺が目をやると、彼女はそれから逃れるように目を逸らす。てっきりもう別の話題にシフトチェンジするものだと思っていたが今の彼女の言葉を聞く限りそんなことはないらしい。
「まぁ普通にあれだ。ちょっと寂しくなっただけだ。俺にとってこの文化祭は特別だったからな」
早急に別の話題にシフトチェンジするため、素直に考えていたことを打ち明けると四葉からクスッと小さな笑い声がきこえてくる。
「何がおかしい」
相手を咎めるように少し強めに言葉を投げると四葉は『すみません』と謝罪した後に言葉を続けた。
「……でも凛君ってたまにそういう可愛いこと言いますよね。やっぱりツンデレですか」
「またそれか、俺にはそんな自覚ない」
「そうですか、無自覚でツンデレなんですか」
四葉はそれからさらに笑う。ひとしきり笑った後は目元の涙を手の甲で拭いながら俺にある提案を持ちかけてきた。
「凛君、このあと後夜祭がありますが、少し一緒に来てくれませんか?」
「一緒にってどこに行くつもりなんだ?」
「それはついてからのお楽しみです」
こうして四葉に連れられてきたのはかなり見覚えのある場所だった。まぁそれは図書室なのだが。
「こんなところに来て一体何を……」
四葉が無言で指差す方向を見ると、そこには多くの生徒が校庭で後夜祭の準備をする光景が広がっていた。ここは校舎二階、それも校庭側にあるので校庭がよく見えるのは当たり前といったら当たり前である。
そんな光景を指差した彼女はそれから俺の方を見て、軽く微笑んだ。
「ここからだと校庭全体の様子が見えるのできっと後夜祭の雰囲気も味わえますよ。ほら、校庭の真ん中に巨大な明かりがあります。きっとあれは近頃滅多にお目にかかれない伝説のキャンプファイヤーというやつですよ」
「まぁそのつもりだろうな。全くファイヤーはしてないけど」
恐らく校庭で準備しているのはキャンプファイヤー用とみられる巨大な赤色のLEDライトだろう。それにしてもよくあんなに大きいLEDライトがあったものだ、特注品だろうか。
「それは言っちゃ駄目なやつですよ。こういうのは雰囲気が大事なんです」
俺の余計な一言を咎めた四葉は再び図書室の窓から校庭を見る。そのまま視線を動かさず彼女は俺に一つだけ問いかけた。
「……本当に私で良かったんですか?」
そう言った四葉の表情はどこか寂しそうで、不安がっているようにも見えた。
もしかしたら彼女は怖いのかもしれない。今はそうでもないが彼女は少し前まで誰がどう見ても不幸だと言われるほどの不幸少女だった。いつ何が起こるのか分からない恐怖、今までそういうものと彼女は向き合って来たのだろう。だから彼女がこの先を不安に思うのもきっと仕方がないことなのだ。
「そんな顔するなよ……」
だがこれだけは言える。
結局はただの勘違いだったが、四葉がいなくなってしまうかもしれないと聞かされた時はかなり動揺した。
「俺はお前を選んだ。そしてその選択は全く、これっぽっちも間違ったと思ってない」
つまり俺は四葉が気になるというか、彼女に惹かれているわけで。彼女の身に何か起こったらそれなりに心配するわけで……。
「だからだな、俺と四葉は今も、それにきっとこれからもただの他人っていう関係にはならないと思ってる」
俺はこれからも四葉の側に居たい、居て欲しいと思っている。直接言葉に出すのが恥ずかしくて少し遠回しな言葉になってしまったが、それでも四葉には伝わったようで彼女の顔は急激に赤みを帯びていく。
「そ、それってつまりあれですか。私とこれからもずっと…………」
言葉の途中だったが四葉にはこの恥ずかしいやり取りが耐えられなかったらしく深く顔を俯かせる。そんな反応をされると遠回しとはいえ俺も恥ずかしい。込み上げてくる恥ずかしさを誤魔化すため窓の外を見ると、そこでは既に後夜祭が始まっており、多くの生徒達が集まっていた。
「えーと四葉、もう後夜祭始まってるけど行かなくて良いのか?」
別の話題を振ろうと咄嗟に俺が質問しても四葉からは返事がない。仕方がないと再び窓の外へと視線を向けると、隣から微かに声が聞こえた。
「……私もそうです。だからもう凛君が嫌だって言っても絶対に離れたりなんかしませんから」
普段なら恐怖を感じるところだが、今は不思議とその言葉がスッと心の中に入ってきた。きっとこれは彼女がずっと内に秘めていた本当の思いなのだろう。
「程々にしてくれよ」
「……嫌です」
そんな他愛ないやり取りをして再び窓の外に広がる後夜祭の光景を見る。
明かりに集まる生徒、それを少し遠くから眺めて会話をする生徒、夕日が沈み辺りが暗くなってから見るそれらの光景はどこか現実味がない。そんな光景に俺は無意識であることを呟いていた。
「今日がずっと続けば良いのにな」
「そうですね」
今思えば四葉とこうして何かをじっくり眺めることは初めてかもしれない。彼女と出会ってから始まった恋人以上、友達未満の関係。それらは時間をかけて、いつの間にか変わっていた。だからこれから先、この関係はもしかしたら変わってしまっているかもしれない。
だが俺は安直にもこう思うのだ。
どんなに他が変わっていても俺と彼女がなんだかんだ一緒にいることはきっと変わらないのだろうと──。
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