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俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について

サバサバス

44.体育館の控え室にて

『ミス&ミスターコンテスト』の開始は午後一時からになっている。そして今がちょうど開始時間の一時間前である昼の十二時、俺と四葉はいち早くコンテストの開催場所である体育館に備え付けられている控え室へと移動していた。

「四葉は緊張とかしないのか?」
「緊張ですか、そうですね。確かに緊張はしますが今はやる気の方が強いですかね。そんなことを言うなんて凛君は緊張してるんですか?」
「俺はそうだな……もしかしたら緊張してるのかもしれん」

震える手、多少の息苦しさ、そして強ばる体、どれをとっても緊張していないとは言えなかった。寧ろ緊張しすぎているといっても良いだろう。そんな状態の俺を見てか四葉は穏やかな目で俺へと密着してきた。

「大丈夫です。凛君は強い子ですよ。それにこうすればどうですか?」

四葉はそう言うとおもむろに背伸びをして俺の頭へと手を伸ばし、ゆっくりと手を前後に動かす。頭を撫でられることなんて子どもの時以来で少し恥ずかしいが、不思議と安心感に包まれているような、そんな感覚になっていた。

「少しは緊張が解けましたか?」
「それはそうだが流石に恥ずかしいな、これ」
「じゃあ今度は恥ずかしくならないように……」
「いや、もう大丈夫だ!」

このまま四葉のされるがままでいると一体何をされるのか分かったものじゃない。俺が慌てて否定すると彼女はそうですかと寂しそうに一言だけ呟いて元の立ち位置に戻る。
おそらく善意だったであろう彼女に少しだけ悪い気もしたが、こればっかりは勘弁して欲しかった。

そんなこんなで彼女といつものようにやり取りをしていたときである。コツコツというわざとらしい足音が後方から聞こえた。

「二人とも今日はよろしく」

それから突然声を掛けられ、後ろへと振り向くとそこには今回のミスターコンテストの参加者だろう笑みを浮かべた男がいた。

「俺は佐藤潤。みんなはサトジュンって呼んでるから二人にも良かったらそう呼んで欲しいかな」

大幅で距離を詰めてくる佐藤潤こと、サトジュンはコンテストに参加しているだけにかなり整った顔をしている。そんな彼だが一体俺達に何の用だろうか。わざわざ挨拶をしに来たというわけでもないだろう。

ふとした疑問の答えが判明したのはそれからすぐのことだった。

「ところでそこの君、俺と連絡先を交換しないか?」

彼が示したのは俺の隣でポカンと口を開けている四葉。つまりはそういうことらしい。彼が俺達に話しかけた目的は挨拶をするためなんかではなく、俺の隣にいる四葉と連絡先を交換することだったのだろう。

今まであまり表立った行動をしなかったのですっかり意識していなかったが彼女はかなりの美少女、そういった申し込みをされるのが当然で、寧ろ今までされていなかった方が不自然なくらいなのだ。だから今回の連絡先の交換もどうしてと疑問に思うことは何一つとしてない。全ては本来の彼女にとって当たり前の光景だと分かっている。そのはずなのだが俺はそれが見ていられなかった。

モヤモヤとした感情が胸の辺りでうごめいて落ち着かない。だからだろうか、気づくと俺は自分自身でも驚くような行動に出てしまっていた。

「……止めろよ」
「ちょっと俺達は取り込み中なんだ。少し静かにしててくれるかな?」
「連絡先聞くのを止めろって言ってるんだ!」

俺は四葉の彼氏だ。だがそれは表面上のことで実際俺に佐藤が連絡先を聞こうとするのを止める権利なんてない。それに彼はもしかしたらただ純粋に四葉と友達になりたくて連絡先を交換したいと言っているだけで、もしかしたら彼女もそれを望んでいるのかもしれない。しかしそれでも、例え表面上だけの彼氏だとしても俺は……。

「そんなことをさせる権利、君にはないだろ?」
「いやある、俺は四葉の彼氏だ!」

抑えきれなかった、我慢できなかった。
理由は説明できない。それでも俺の口は自然と動いていた。

「だから四葉は俺のだ! 部外者は引っ込んでろ!」

俺がそう言葉を発した時、佐藤は俺をまるで頭のおかしな人でも見るかのような目で見ていた。それから一拍おいてすぐに彼は後退りする。

「……分かった! 分かったからこれ以上俺に近づかないでくれ。……ったくなんなんだよ」

冷静になって考えてみると俺は相当痛々しいやつである。
彼がそそくさとどこかへと姿を消したのを確認した俺はなんとなく四葉の方が向けなくて頬を掻く。あんなことを言ってしまった手前、四葉に顔を向けるのが恥ずかしかった。

「……凛君」

四葉に声を掛けられて無視するわけにもいかず、渋々彼女の方へと顔を向ける。なんとなく彼女の表情が硬いように感じて、もしかしてさっきの俺の言葉がいけなかったのだろうかと先程の行動を後悔していると、突然彼女は今まできつく結んでいた唇をゆっくりと開いた。
彼女の恐る恐るといった様子に一体どんな言葉が飛び出して来るのだろうと内心恐怖を覚える。だが彼女は俺の予想に反して顔を赤らめた。

「……私が凛君のものじゃなくて、凛君が私のものなんです。そこのところよく覚えておいて下さい」

咄嗟に返す言葉が見つからず、短く簡潔に『そうか』と返せば彼女はさらに言葉を続ける。

「……でも嬉しかったです。例え嘘だとしても凛君があんなことを言ってくれるなんて私は幸せ者ですね」

そんなことを言う四葉の目には涙が浮かんでいた。その光景は傍から見たらまるで俺が泣かせてしまったようで居たたまれない気持ちになるが、その一方でいつまでも見ていられる表情でもあった。

一体いつまで彼女の表情を見ていたのだろうか。気づいた時には他のコンテスト参加者が続々と控え室に集まってきていた。ある人数が揃ったところで控え室の扉が三回ノックされ、ゆっくりと扉が開く。そこからはスタッフという文字が書かれた腕章をつけた男が現れた。

「皆さん、準備が出来ましたか? これから簡単にコンテストについての注意点を説明しますのでしっかり聞いてください。まず一点目ですが…………」

辺りを見渡せば誰も彼もが執事服、メイド服姿でそれも美男美女の集まりときた。自分と違いすぎて萎縮しそうになるが四葉が俺の手を握ってくれる。

「大丈夫です。私達なら優勝できますよ」

何の根拠も勝機も策略もないが彼女の言葉には不思議と人の緊張をほぐす効果が宿っていた。
入りすぎていた肩の力が抜け、手の震えが収まる。

「……以上が説明です。何か質問などはありますか? ないようでしたらもうしばらくここでお待ちください」

コンテストの説明が終わってスタッフが控え室から出ると外が急に騒がしくなり始める。時間的にもうそろそろコンテストが始まるのだろう。

「もう始まりますね」
「そうだな」
「まだ緊張してますか?」
「いいや大丈夫だ」

四葉と短いやり取りを続けていると体育館のステージの方から司会の声が聞こえてくる。

「それではこれからミス&ミスターコンテストを始めたいと思います! まずはミスコンから始めましょう! では参加者の人達カモーン!」

その声が聞こえたと同時に部屋にスタッフが入ってくる。おそらくミスコンの参加者を呼びに来たのだろう。

「じゃあ私は先にいきますね」

四葉は最後にそう言い残すと急ぎ足で控え室を出ていった。

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