俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について

サバサバス

38.プレゼントは気持ちが大事②

俺は現在、月城先輩にとある複合商業施設の案内をしてもらっていた。目の前には様々な種類の雑貨、どれもお洒落でセンスが良い。やはり案内を先輩に頼んで正解だったようだ。

「ここはもう少し見る?」
「そうですね。もう少しだけ良いですか?」
「分かったわ」

四葉は一体どのようなものが好みなのだろうか。木製のスマホスタンド、テーブルに取り付けられるラックに可愛いデザインのブックカバー、どれを見てもピンとくるものはない。デザインはいいんだけどな。

俺って四葉のことをあまり知らないのかもな。雑貨を見ているとそんな事実を突き付けられているような気がして悔しくなる。
振り返ってみれば俺は彼女の過去、普段からしていること、好きな色でさえ何も知らない。かろうじて知っているのは彼女が無類のモンブラン好きであるということだけだ。

「俺って今まで四葉に向き合おうとしてこなかったんだな……」

向き合う覚悟をしたはずが実際は何もしていないという事実、自分が情けなく思えてくる。

「それは違うわ」

突然俺の背後から声が掛かる。相手はもちろん店員ではない。

「先輩、今の聞いてたんですか?」
「ごめんなさい、たまたま通りかかったら聞こえてしまって。今から言うことは私の個人的な見解だから気にしなくても良いわ。でも言うだけ言わせて、私から見てあなたはしっかり向き合っていると思うわよ」
「どういう意味ですか」
「言葉の通り、後輩君は祝さんに向き合っていると言っているのよ」

どうしてそういう考えに至ったのかは分からないが、どうも彼女は俺を高く評価し過ぎている気がする。

「先輩は俺のことを評価し過ぎてます。実際俺は四葉のことをほとんど知らないんです。これでも向き合っているって言えますか?」

俺の問いかけに先輩は優しい表情を浮かべた。今の俺にとっては優しすぎて罪悪感を覚えてしまう彼女の表情を直視することが出来ず、咄嗟に目を逸らすと彼女は言葉を続ける。

「何も知らないということと、向き合っていないということは必ずしもイコールではないわ。だって後輩君は今祝さんに全力で向き合っているじゃない。私が嫉妬しちゃうくらいにはね」
「……でも今まで俺は知ろうとしてこなかったんです」
「それは優しさよ。知らないでいて欲しいことを知らないでいてあげるという優しさ。全て知られているよりはそっちの方が安心出来ることもあるわ」

知らないでいてあげるという優しさ、捉え方によってはそういう考えも出来る。果たして俺はそんな考えを持って行動していたか。
答えは否だ、俺はそんな考えを持って行動出来るほど優しくはない。

「やっぱり先輩は俺のことを過大評価してます。だけどもしかしたら俺が気づいていないだけで実際はそうなのかもしれません」

だが今はそう思うことにしよう。きっと先輩は俺を励ましてくれているのだろう。ここで先輩の励ましを無駄にしたくはない。

「そうね、本当に優しい人は自分の優しさに気づかないのかもしれないわね」
「それ、からかってますか?」
「からかってないわよ」

先輩が言う言葉はいちいち恥ずかしい。熱くなった頬のクールダウンついでに俺は店の外へと出た。

◆◆◆

それから三十分ほど経った頃、俺は施設内のとある店でとあるものを見ていた。見ていたのは二つで一つの絵が完成するタイプのペアマグカップ。いや流石にこれは攻めすぎだろう。

「一体何をそんな真剣な表情で見ているの?」

マグカップを見ているとまたもや先輩から声を掛けられる。

「……いや何でもないです」
「なんで隠そうとするのよ」

月城先輩に不審な目を向けられるが今回については普通に恥ずかしいので知られたくない。出来ればそのまま追及を諦めて欲しかったが、俺の願い虚しく先輩は一瞬の隙を突いて俺の肩から顔を出した。

「なるほど後輩君も案外大胆よね」
「いや、これはたまたま見ていただけで。そう、丁度家にマグカップがないと思ってたんです」
「私マグカップなんて一言も言ってないわよ?」

やってしまった。確かに先輩はマグカップと一言も口にしていない。考えてみれば俺がいる位置から複数の商品が並べられた棚を見て特定の商品を一瞬で探し出すことなど出来るはずがない。俺がうっかり自分で言わない限りは。

「嵌めたんですか」
「罠に嵌めたつもりはないわよ。後輩君が勝手に話しただけで私は何もしていないわ」

先輩にそう言われると何も言い返せない。例えこれが彼女の意図していたことだとしても俺が自分で話さない限りバレることはないのだ。完全に一本取られた。

「でもいいんじゃないかしら? ペアのマグカップ、彼女は喜ぶと思うわよ」
「そうですか? 少しストレートすぎじゃ」
「プレゼントでストレートにならなくて、いつストレートになるのよ」
「それはそうですけど、俺にはハードルが少し高い気が……」
「前にも言ったと思うけどプレゼントは心が大事なのよ。ハードルが高いも低いも関係ないわ。後輩君がピンときたものを選べばいいじゃない」

俺がピンときたもの、一目見たとき他と違うという感覚は確かに感じた。これがピンとくるという感覚なんだとしたら……。
俺は商品棚からペアとなるマグカップを二つ手に取る。

「分かりました。四葉にはこのマグカップを送ろうと思います」
「そう、決まって良かったわね」
「はい、今日は色々とありがとうございました」

ようやくプレゼントが決まった安心感で俺はとあることを思い出す。

「そういえば先輩のプレゼントは……」

小さく呟いただけだったが先輩には聞こえていたようで、彼女は軽く首を横に振った。

「私のはもう良いわよ、後輩君が私にもプレゼントを送ったって祝さんが知ったら色々と不味いわ。それに私は色々と貰ったわよ」

四葉のプレゼントを選ぶ時間はそれなりに有意義だった。もしかして先輩も同じ気持ちだったのかと少し嬉しくなったのも束の間、彼女の口から残念な言葉が飛び出す。

「私は後輩君の写真が撮れただけで満足よ」
「……はぁそうですか」

呆れと共にため息が漏れる。俺はこの時、やはりこの先輩は変人なのだと改めて再認識した。

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