俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について

サバサバス

28.先輩の秘密①

週が開けた月曜日の放課後、四葉から委員会で遅くなるという連絡を受けて一人帰路に就いていた。前回のように図書室で待っていると申し出たのだが、彼女に却下されたのだ。彼女いわく、図書室に行ったらまた月城先輩とイチャイチャしますよねということらしい。

そういうわけで一人で帰宅していた時のことである。比較的学校の近くにある病院を通りかかった際、そこで普段から見慣れた人の姿が目に入った。

「……月城先輩?」

普段から見慣れた人というのは月城先輩のこと。彼女は手に花束を持っており、いつもは見せない真剣な面持ちで今から病院の中へ入ろうとしていた。
一体何をしているんだろうという疑問よりかは、ほとんど興味から俺も同じように彼女が入った病院の中へと足を運ぶ。

彼女は病院のエントランスに入って早々に面会受付へと向かう。そんな彼女のあとを付いていくと突然どこからか声をかけられた。

「すみません、こちら面会者専用の通路ですので一般の方はご遠慮願います」

声がした方を見るとそこには面会受付の職員がいた。どうやら普通には通れないらしいがどうしたものか。考えを巡らせていると一つの案が思い浮かぶ。

「俺さっきの人の連れなんです」
「もしかして月城さんの弟さんですか?」
「まぁそんなところです」
「それでしたらこちらの面会バッチをお付けください」

なんとか誤魔化せた。これで身分証の提示を求められたりしたら危なかっただろう。しかし今は安心している場合ではない。早く月城先輩のあとを追わなければ見失ってしまう。
ここまで付いてきて本当に良かったのかとも思ったが今更引き返すことなど出来なかった。

彼女に気づかれないように付かず離れずの距離を保ったままあとを付いていくこと数分、彼女はとある病室の前で立ち止まった。
月城総次郎、病室のプレートに書かれた名前を見る限り彼女の家族だろうか。彼女はすぐにその病室の扉へと手をかける。

「……お父さん、私やっぱりまだ無理みたい。また来るね」

だが月城先輩はいつまで経っても病室の中に入ることはなかった。それからしばらく病室の前で立ち止まってから、近くを通りかかった看護師に花束を渡すと急いで病室から離れていく。
普段の積極的な彼女からは想像も出来ないような消極的な行動が気になった俺は彼女がいなくなったあとすぐに花束を受け取った看護師を呼び止めた。

「すみません、ここの病室の人って……」
「もしかしてあの子の知り合いかな?」
「まぁそうですね」

知り合いと言ったら知り合いなので間違いではない。そんなことを考えていると看護師はおもむろに話を始めた。

「だとしたら驚いたでしょう? もう六年になるのかしら。昔からずっと病室の前までは来るんだけど病室には入らないで帰っちゃうのよ。会ってあげた方がお父さんも喜ぶと思うんだけどね」
「その……彼女のお父さんは重い病気か何かなんですか?」
「そういうわけじゃないんだけどね。まぁここからは私じゃなくてあの子から聞いた方がいいかな?」

ここから先は個人情報に繋がるから言えないということなのだろう。そういうことなら無理に聞くわけにもいかない。

「すみません、仕事中にいきなり呼び止めたりして」
「良いのよ。でももしあなたがあの子の彼氏さんでも無理には聞いちゃだめよ。あの様子だとまだ気にしているみたいだから」
「それってどういう……」
「そのままの意味よ」

不可解なことを言い残した看護師はそれから『ごめんなさい、そろそろ行くわね』と病室を離れていく。一方の俺は少しの間考えていた。一体月城先輩が気にしていることとはなんだろうか、どうして病室には入らないのか。直接彼女に聞きたいがデリケートな問題なので易々と聞くことは出来ない。聞かなかったことにするのがお互いにとって一番なのだろうが、どうしてだか俺にはそうすることが出来なかった。

◆◆◆

次の日、教室の自分の席で早速俺は孝太に話を聞いていた。友達が多い彼なら学校の噂に強いと思ってのことだ。

「……それで月城先輩について妙な噂とか聞いたことないか?」
「なんで急にまたそんなことを聞くんだよ」
「まぁちょっと知りたくなってな」
「何が知りたいのか分からないけどよ。月城先輩については二年生の間で変人って言われてることとか、月に三回くらいは告白されていることとか、そんな噂くらいしか知らないぞ?」

どれもこれも実際に聞いたことのあるような話だ。

「本当にそれだけなのか? 他にもあったらどんなことでもいいから教えて欲しいんだが」
「どんなことでもいいって言われてもな。そんなほいほい見つかるもんじゃ……いや、あと一つだけ聞いたことがあるな」

孝太はまるで遠い過去の記憶を探るようにして言葉を口にしていく。

「なんだっけな、確か昔は今のような変人じゃなかったとかそんな話をどこかで聞いた気がする」
「それは本当なのか?」
「ああ、確かな。俺には今もどこらへんが変人なのか分からないけどよ。少し前に誰かから聞いたぜ」

孝太の言っていたことが事実なら月城先輩は昔は変人じゃなかった。つまり男性恐怖症ではなかったということだ。そういえば彼女から男性恐怖症になった原因は一度も聞いたことがない。気づいてみればおかしな話だ。特別な事情がないならば普通は体質改善を協力してもらう際に男性恐怖症になった原因を話した方が色々と対処しやすい。にも関わらず話さなかったとなると彼女には何か原因を話せない特別な事情があるのだろう。

「なぁ孝太、変人じゃなかったのってどのくらい前なのかは知ってるか?」
「それは流石に知らないな。俺はただ誰かが話してるのを聞いただけだからな」
「そうか、だったら誰に聞けば分かりそうとかそういうのは分かるか?」
「まぁそれだったら一人だけ心当たりはある」

孝太はそれから携帯を弄り始める。しばらくの間指を動かし続け、あるところでピタリと指の動きを止めた。

「そうそう、この人だ。二年の桜花おうか櫻子さくらこ。確かこの先輩と月城先輩が幼なじみだって話を聞いた気がする」

そう言って自らの携帯の画面を見せてくる孝太にどうしてあまり関わりのない二年生の連絡先を知っているのか気になったが、自分も人のことは言えないので黙っておく。

「この先輩に聞けば分かるのか?」
「確実じゃないがたぶん分かると思う。もしかして桜花先輩に聞くつもりなのか?」
「そのつもりだが」
「そうか、まぁ頑張れよ」

なんとなく孝太の様子がおかしい気もしたがきっと俺の考えすぎだろう。今日の放課後は四葉に何も言っていないので無理だが、明日の放課後なら調整が出来る。その時間に話を聞きに行ってみるとしよう。そう予定を立てた時点で次の授業のチャイムがなった。

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