俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について

サバサバス

17.彼女の覚醒

「あの四葉さん」
「はい、何ですか?」
「流石にこの状況は目立ち過ぎる気がするのですが」
「そうですか? ただ凛君の膝の上に座っているだけですけど。もしかして嫌ですか?」

現在は色々あって昼休み、俺の席では……もとい俺の膝の上には四葉がいた。おかしい、この状況はとてもおかしかった。

「……嫌ではないけれども」
「だったら良いですよね」

何も良くはない。確かに美少女が膝の上に乗っている状況は嫌なわけではない。だが嬉しいというわけでもなかった。寧ろ困惑していたという方が正しいだろう。

「今日は本当にどうしたんだ? 朝から色々おかしいけど。主に距離感が」

四葉は朝からどこかおかしかった。いつもなら適切なはずの距離感が今日は密着することが多かったり、授業間の休み時間になる度俺の席へと遊びに来たりと本当にいつもと彼女ではなかった。

「どうもしてないですよ。ただ気づいただけです」

聞いたらいけないような気もしたが、聞かずにはいられなかった。

「何にだ?」

恐る恐る、相手の顔色を伺いながら聞くと四葉はチラッとこちらを見てから静かに口を開く。

「凛君がかなりの鈍感さんだってことですよ」

鈍感、朝も月城先輩に言われたことだが本人である俺にとってはあまりピンと来るものではなかった。言ってしまえば他人事のような感じである。

「そんなに俺って鈍感か?」
「はい、それはもう凛君の全身の感覚が鈍っているんじゃないかって思うくらいには」
「俺としてはそうは思わないんだけどな」
「そう思わないからこそ鈍感なんですよ。今のトレンドは色々な物事に敏感な男の子です。鈍感な男の子なんてこの時代モテないですよ」

四葉ははっきりとそう言い切りながらも体重を俺へ預けてくるという発言とはちぐはぐな行動をする。信頼して全てを委ねてくるのは嬉しいが、女の子としてもう少し男を警戒した方がいいんじゃないかと思わなくもなかった。これが顔見知りである俺だから良かったものの見ず知らずの他人だったらこの状況は何をされてもおかしくないのだ。

「大丈夫ですよ。凛君以外の人にはこんなことしませんから」

考えていたことが見透かされていて咄嗟に驚きの声を上げると彼女は続けて小さな声で呟く。

「私、凛君と違って鈍感じゃないですからそれくらいは分かります」

もはやエスパーだろと思ったが口に出すことはしなかった。そんなことを言ったら四葉が『そうかもしれないですね、試しに凛君が今考えていることを当ててみても良いですか?』なんてことを言って俺の考えていることを悉く当ててきそうな気がした。

「……ところでこれ本当にどうにかならないか? そろそろ周りからの視線が厳しいんだが」

周りを見ればクラスメイトはもちろん、時々教室の前を通る生徒までもが珍しげにこちらを見ていた。まぁそうだろう、俺だってこんな光景が近くで繰り広げられていたらついつい見てしまう。

「周りの視線は気にしないで下さい。どうしても気になるときは精神統一すれば視線が気にならなくなりますよ」

四葉はまるで悟りを開いた僧侶のようにそんなことを言ってくる。

「それに私はこの方が良いです。凛君の膝は暖かいですし」

続けて彼女は思わずどんな理由だよと突っ込みを入れたくなるような理由を言ってきた。もしかして突っ込み待ちなのかと、そんなことを一瞬思ったが彼女が何かを待っているような様子は見受けられないのでそれはないだろう。

「ということはこの状態はどうにもならない、ここから動く気はないと、そういうことなんだな」
「端的に言えばそうです。少なくともお昼休みが終わるまではずっとこのままがいいです」

そう言って更に体を俺の方に預けてくる四葉を俺はただ黙って眺めていることしか出来なかった。

◆◆◆

放課後、俺は四葉の目を掻い潜り、人目が少ない校舎四階にいた。孝太と一緒に。

「なんで校舎の四階なんだよ。別に教室でもいいだろ」
「それはちょっとな」
「……まぁいいや、で今回は何の用なんだ?」
「ああ、今回は……っていうか今回も四葉のことなんだけど」
「ああ」
「なんか今日の朝から様子おかしくないか?」

真剣に質問したつもりなのだが……。

「もう帰っていいか?」

孝太はその質問を聞いた瞬間から呆れた表情へと変わっていた。どうやら彼には何か気づくことがあったらしい。

「もう分かったのか?」
「分かったもなにもただ祝さんはお前の気を引きたいんだろ? それくらい察してやれよ」
「はぁ……」
「なんだその気の抜けた返事は。お前はもっと祝さんのことを考えてやれ、彼女だろ?」

彼女、確かに今俺と四葉はそういう関係になっている。だがそれは色々と落ち着くまでの話で正式に彼氏彼女の関係というわけではないのだ。しかしまぁ今日の四葉の行動はいくら俺が彼女に気に入られているからといっても度が過ぎている。
もしかしたら四葉は俺のことが……、今の状況ではそんな考えが頭をよぎっても何らおかしいことはなかった。

「とにかく祝さんをがっかりさせるなよ。元々祝さんが彼女なんてお前には勿体ないくらいだからな。そんなことしてたらすぐ違う男のところに行くぞ」

四葉が他の男のところに行く。考えたことはなかったが考えると少々複雑な気分になる。なんでそうなったのかは俺にも分からなかった。

「まぁ色々考えてみるわ。今日はサンキュー、孝太」
「お礼の言葉はいい、それよりもなんか喉が乾いたな」
「分かった、何が飲みたい?」
「お、気が利いてるな。じゃあ普通にお茶で頼む」
「あいよ」

無理やり呼びつけたお詫びにと校舎一階にある自動販売機へ孝太を連れて向かう。その道中、窓の外の景色を見ながら俺はあることを考えていた。

それは四葉のことについて、正確には彼女との関係性について。というのも彼女との関係は未だによく分からない。彼女がどう思っているのかはもちろん、俺自身彼女をどう思っているのかも正直よく分かっていない。彼女の言動からして嫌われていないとは思うが、それも俺の想像の中での話。一応体質改善に協力する側とされる側という関係で今までやっては来たが、今日の四葉を見る限りいつまでも今のままの関係でいるというのは無理があるだろう。

そろそろ関係そのものをはっきりさせた方が良いのかもしれない。関係がはっきりすればきっともう四葉に振り回されないで済むのだから。

「おい、どこに行くつもりだよ? そっちは特別棟だぞ」
「悪い」
「しっかりしろよ、ボーッとして考え事か?」
「ん? ああ」
「どうせ彼女のことでも考えてたんだろ」
「なんで分かるんだよ」
「そりゃあさっきまで相談受けてたからな、普通に考えて」

もっともなことを言う孝太に何も言えなくなる。しかしなんだかんだ言っても孝太の勘は鋭いのだ。もし俺も彼のように勘が鋭かったら、そんな無い物ねだりをしながら俺は再び自動販売機を目指して歩き出した。

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