俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について

サバサバス

6.週末の訪問②

一階リビングの開けきった窓から若干日が傾いた空を見ながらペットボトルに入ったお茶を口に含む。時間は午後の四時、中々に良い時間を回っていた。

「ようやく掃除が終わりましたね。お疲れ様です」

パンパンと手を叩いた四葉はそれから満足そうに手の甲で額を拭う。

「本当に何か色々すまん」

元々俺が彼女に掃除を頼んだわけではなく彼女が勝手にやったことなのだが、なんとなく申し訳ない気持ちになっていた。

「いえ、良いんです。凛君が私の体質改善に協力してくれているのに私だけ何もしないのが気持ち悪かっただけなので」
「それは別に気にしなくて良いんだけどな、俺が勝手にやってることだし」
「だったらその言葉、そっくりそのままお返ししますよ」

それを言われては何も返すことが出来なくなる。休憩がてらテレビをつけるとふと数時間前の出来事が頭の中に浮かんだ。

「そういえばどうして俺の電話番号を知ってたんだ?」
「それは昨日クラスメイトの飯島君に聞きまして」
「孝太が? ちなみにどういう風に聞いたんだ」

なんだかんだで口の固い孝太が人の電話番号を勝手に教えるとは思えない、そう思って四葉に聞いたのだが……。

「普通に凛君の電話番号を教えて下さいって言っただけですよ。でもそのときは飯島君の体調が悪かったみたいでなんだか青い顔してましたけど」

孝太のことを心配しているのだろう四葉に対して俺はというとただ苦笑いをすることしか出来なかった。そのときの孝太の顔の色は多分彼の体調が悪かったわけではなく単純に四葉に対する苦手意識からきたもの。寧ろそれ以外でここ数年間病気一つしていない孝太の顔が青くなることなど考えられなかった。

「そうか、なんかすまん」
「何で凛君が謝るんですか?」
「なんとなくな、あまり気にしないでくれ。それよりもせっかくだし四葉が持ってるSNSのIDでも交換しておくか」
「SNSですか?」
「そうSNS」
「それって美味しいものですか?」
「えっ?」

完全にふざけているのかと思っていたが彼女は本当に分かっていないようで首を傾げて固まっていた。今のご時世にSNSを知らない高校生が存在するとは。驚いたらいいのか、それとも珍しがったらいいのか、どちらにせよ通話代がかからないという点で圧倒的にメリットがあるので登録させた方が良い。

「よし分かった。これから俺がよく使ってるやつを登録するから携帯を持ってきてくれ」
「はい、分かりました」

四葉は自らの携帯をリビングにあるテーブル上から持ってくると『どうぞ』と言って差し出してくる。受け取った後は彼女に使い方を説明しながら登録を進めた。


SNSの登録を終えた頃にはもう午後の五時になっていた。もうすぐ日が暮れるのでその前に四葉を帰したいのだが彼女はというと……。

「こ、これすごいですね! 画面の中でリアルタイムに会話が出来てます! 画期的です!」

初めてのSNSに盛り上がっていた。彼女が今見ているのは俺との個人チャット、試しに伝えたいことを文章にして送ってみる。

『そうか、それは良かった。でももうすぐ日が暮れるから帰った方が良いんじゃないか?』

するとやや時間が経った後に彼女からチャット内で返事がきた。

『大丈夫です。私の家はここから近いので』

顔を上げると彼女は並みの男が見たら一発でノックアウトされるような笑みを浮かべていて……。

『それでも夜道は危ないぞ?』

なんとなく四葉の笑顔を直視することが出来なくて言葉ではなく再び文章で言いたいことを伝えると再び四葉からチャットで返事がくる。

『本当に近いんですよ。凛君の家の二つ隣です』
「四葉、それマジか?」
『マジです』

思わず声に出して聞けば四葉から続けて文章が送られてくる。近くにいるのだからチャットをしなくてもいいとは思うのだが、彼女が嬉しそうに携帯を操作する姿を見ていると、どうしてだかそのことを指摘することが出来なかった。


それからどれくらいだろうか、いくらか四葉とやり取りをしていると本格的に日が傾いてきていた。彼女は荷物をまとめてこちらに頭下げる。

「じゃあそろそろ帰りますね、凛君」
「送っていく」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私の家すぐそこですから」

四葉としては俺に迷惑をかけたくなかったかそう言ったのだろうが、俺からしたらその考え方が心配だった。彼女はれっきとした女の子、もしかしたら以前までは彼女の長い前髪が不気味さを醸し出していたおかげで夜間に出歩いても大丈夫だったのかもしれないが、イメチェンした今となってはその不気味さのかけらは一つもない。寧ろ大丈夫ではない要素の方が多くあった。

「いやそれでも四葉は女の子だろ。送っていく」
「でも本当に……そうですね、今回は凛君のお言葉に甘えてもいいですか?」

そう言う四葉は少しだけ嬉しそうでそれに対して俺は恥ずかしさから『ああ』という一言と共に目を逸らすことしか出来なかった。

少しして彼女が帰る準備を終えたところで二人一緒に家を出る。

「凛君ってもしかして心配性なんですか?」
「いきなりどうした」
「いきなりどうしたって今現在進行形で私のこと送ってくれてるじゃないですか」
「それは俺じゃなくても誰でもそうする」
「誰でもですか……」

四葉は少し考えるように下を向く。何かまずいことを言ってしまったのかと思ったが、違うようで彼女はすぐに顔を上げた。

「誰でもは出来ないですよ。心配性じゃないなら凛君はきっと優しいんですね」

ふいに向けられた好意に一瞬勘違いしてしまいそうになるが、彼女には俺に対する恋愛感情などないことは分かっている。一応外見上は付き合っているということになっているものの、それはあくまで成り行きでそうなってしまっただけであり、そこに恋愛感情はないのだ。俺と彼女の関係は正確に言えば依頼人と請負うけおい人、それが一番ふさわしかった。

「月曜が楽しみだな」
「月曜日に何かあるんですか?」
「いや、四葉がイメチェンして初めての登校だろ?」
「そうですね、変な目で見られなければ良いのですが」
「それは確実ないと思うが、まぁ注目は集まるだろうな」
「それってやっぱり私の髪型がおかしいってことですか?」
「まぁそれは月曜日になってからのお楽しみということで」
「何ですかそれ。あ、着きましたよ」

四葉の声に彼女の視線の先へと顔を向けるとそこには白と茶色を基調とした全体的にモダンな雰囲気の一軒家があった。表札を見る限りここが彼女の家なのだろう。

「じゃあまたな」
「はい、また学校で」

お互い挨拶を交わし、四葉は家の中に入っていく。それを見届けた後は一人帰路に就いた。

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