翼が無ければ鳥でない

櫻井広大

八月二日  Ⅴ

 おままごと、レゴブロックでお城づくりをしている間に壁の時計は午後四時を回っていた。
 そろそろ帰ろうかな、と独り言のようにして呟くと、かおりが外で遊ぼう、と誘うので友和は少しだけだよ、とそれに付き合うことにした。
 夕方に差し掛かる時刻といえども外は十分に明るく、暑かった。
 油断するにはまだ早く、かおりの母からいただいた麦茶一杯を二人とも飲み干してから近くの公園で遊んだ。それでもキャッチボールをして走り回ったあとには、すっかり背中や首筋、額から汗が吹き出し、鼻筋を伝って垂れてきた汗玉を舌先で舐めたかおりは、紗がかかったように西日に照らされた顔をうへっと歪ませた。
「なんか、しょっぱい………」
「そうだね、しょっぱいね」
「キャハハ!そのかお、おもしろい!」
「ん?この顔?」
 先ほどのかおりと同様に、うへっと不味いものを食べたように舌を出して、険しい顔を全面に表してみせた。
「もういっかいやって!」
「えー、もう一回?」再び、うへっ。大袈裟に舌を出す。
 キャハハ!キャハハ!飛んで跳ねて、忙しく笑うかおりにつられ、友和も思わず、ハハハと笑ってしまった。
 かわいいやつだな、全く。
「いくぞー!」
 ビュン、という掛け声と共にかおりを持ち上げると、「うわっ!」と驚いて足をばたつかせた。足場を探っているようで、友和の腕をべしべし叩き、しかし一層、嬌声を張り上げ笑顔になるのへ、いよいよ友和も楽しくなり、そのまま体を回転させてメリーゴーラウンドへようこそ!
 かおりを支える腕を上下に動かし、くるくるくるくる。
 マンションや住宅の影絵の奥に濃く広がる臙脂色の雲は、上空にいくほど本来の薄い灰色や青さを取り戻しているが、友和が見ている風景には、夕陽を背後に浴びて眩しいくらいに輝く、かおりの笑顔しか存在しなかった。

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