肩を壊したのでマイナースポーツで無双してみた(かった)

わたぬき

第1話 

ここから飛び降りたらどうなるんだろうか。当たりどこが悪ければ死ぬかな。でももう死んでもいいかな……
家のベランダからそんな事を考えていた。
──もう以前のように投げられる事はできないでしょう。
俺にとってそれは死刑宣告のようなものだった。幼い頃から野球をしていて実績も十分にあったと思う。中学の代表にだって選ばれた。何より俺は野球が好きだった。それがなくなったら一体俺に何が残るんだろうか? 「なーに黄昏てんのよ」
彼女は沢宮明美。家が隣でよくある幼なじみというやつだ。
「別に。死のうかなと思ってただけ」
「そんな軽いノリで言うのやめてくれる?」
「良いよなお前は人生楽しそうで」
明美は昔から運動神経抜群で何をやっても上手かった。そんな明美を少し羨ましく思っていた。
「爽がつまらなそうな顔しすぎなだけ。ていうかさっさと寝たら? 明日から高校始まるんだしさ」
「それもそうだな」
お前に叩き起こされるのも嫌だしなと言おうと思ったが面倒くさい事になりそうだからやめた。



「爽さー部活どうするの?」
高校への道すがら明美が聞いてきた。
「さぁな。多分やらないだろうな」
野球以外にやりたい事なんてないし……
「えーなんかやろうよー。あ、一緒に調理部とか入る?」
「それもいいかもな」
明美の冗談交じりの提案にどこが自嘲した笑みを零しながら歩いていた。
「おーやってるやってる、楽しみー」
これから3年間かよう開北高校の校庭では早速1年生を引き入れようと勧誘が行われていた。まぁ俺には関係ないけど。
明美は目を輝かせながらチラシを両手に抱えていた……貰いすぎだろ。
「爽ー同じクラスだった訳だしとりあえず教室行こ」
「ああ、今行く」
カンッカンッカンッ
「……ん、ピンポン球?」
明美を追いかけようと思ったその時何故かピンポン球が足元に転がってきた。
「あーすまない。君、こっちに投げてくれないか?」
そう言ってきたのは長い黒髪で凛とした目つきをしていていかにも生徒会長って感じの人だった。
言われた通り投げ返す。ピンポン球とはいえ久々に投げるという動作をしたから少しだけ心が踊った。
「ありがとう、君は1年生か。私は3年の白水桜だ。何かわからない事があったら聞いてくれ」
「俺は佐村爽です、よろしくお願いします」
久々に先輩という立場の人にあったので緊張してしまった。
「それと部活まだ決めてないなら是非うちの部に来てくれ。2階の空き教室でやっている」
「はぁ……わかりました」
そう言い残して白水先輩は階段を登って行った。
「美人な人だったねー、さっ私達も早く行こ」
どこか普段と違うような明美を追って教室に向かった。



初日な事もあり大した事もせずあっという間に下校時刻になった。さっさと帰ろうとカバンを持った時──
「ここに佐村爽君はいるかな?」
教室の入り口に白水先輩がいた。急な3年生の訪問に少し教室が騒つく。勘弁してほしい。
「何か用ですか?」
恥ずかしさから少し怒気が混じってしまった返事をしつつ白水先輩に近づく。
「いや何、部活を見てもらおうかと思ってね。君をスカウトしにきたんだ」
何を言っているんだこの人は……そもそも部活なんかやる気ないのに。
「あの俺卓球なんてやった事ないですよ、他を当たったらどうですか」
「いやいや私は卓球部活じゃないぞ。卓球は中学の授業でやったきりだ」
卓球部じゃない……? ピンポン球持っていたのに? ていうかこの人何者なんだ?
「実際に見てもらった方が早いだろう、よければそちらのお嬢さんもどうかな?」
次々に浮かんでくる疑問を他所に白水先輩は明美も勧誘していた。
「まぁ見るだけでいいから」
ここで粘っても時間の無駄か……見るだけ見て速攻で帰るか。



「ここだ。入ってくれ」
そう言われて入ったのはごく普通の空き教室だった。黒板等はあるものの体育館をそのまま小さくしたような部屋だった。
「それで、何やってる部活なんですか?」
「ああピンポン野球だ」
は?……今この人なんつった? ピンポン? 野球? そんなスポーツあったか?
「どうした? とぼけた顔して。聞いた事ある位はあるだろ?」
「いや、ないですけど」
そんな何で知らんの? みたいな顔されても困る。とりあえず言える事は──
「すみません帰ります。」
そんなくだらない事に付き合いたくはないという事だ。
「まぁ待て待て、君野球やってだだろ? 朝のボールあれは経験者のボールだ」
「いや本当に興味ないので」
「強情だな君は。野球部に入るつもりなら止めないが見たところ入るつもりないんだろう?」
なんでそこまで俺にこだわるんだ、この人は。野球やってた奴なんて他にもいるだろうに。
「ふむ、仕方ない。では勝負をしよう。君が勝ったらもう君に関わるのはやめよう。しかしもし私が勝ったらこの部活に入ってもらう。それでどうだ?」
「勝負の内容次第では……」
よくわからないけど野球つってたし俺が女に負けるとは思えない。
「私がピンポン球を投げるから君はそこにあるバットでピンポン球を前に飛ばせたら出来君の勝ち。それでどうだ?」
白水先輩が指を向けた先にはプラスチックバットが置かれていた。
それより当てたら勝ち? こっちに有利すぎないか? まぁいいか、さっさとやって帰ろう。
「ルールは野球と同じ。1打席勝負。では始めようか。そこのお嬢さんは審判を頼めるかな?」
「あ、はい。ソフトボールやってたので多分できます」
そういって明美はホームベースが置かれた後ろに座る。なんでこんなのがあるんだ。
「では1球目、行くぞ」
それに呼応してバットを構える。
──懐かしいなこの感覚
とりあえず初球は見逃すか。
パシッ
「ス、ストライクです」
ピンポン球だけあって相当速いな、でも当てられない速度じゃない。
「これでワンストライクだな。では次」
そう呟き白水先輩は右腕を振り上げる。
──ど真ん中! 貰った……!
カッ
「ファール……」
少しずれたか……硬式球の感覚でうってしまった。
「ほう当てたか。流石私の見込んだ人間なだけある。しかしこれでツーストライクだな」
そういって白水先輩は投球動作に入る。
そして白水先輩の手から離されたピンポン球は俺の顔面に一直線で飛んできた。
──は? 顔面!?
避けようと思った瞬間──
「えっ……」
ピンポン球は真ん中に構えたままの明美の手に収まっていた。
なんだ今の……スライダー!? まるで首を掻っ切られたようなそんなボールだった。
「ストライク、バッターアウト……」
明美がそうコールした。
この瞬間俺はこの訳の分からない部活に入ることになってしまった。

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