異世界を危機回避で生きていく。

白鷺(シラサギ)

七魔人

「ヨルムンガンドを易々と屠ったあの男。」

死霊魔法士はソウジに疑念を持っていた。

「確かに地上への顕現、ゾンビ化によって、ヨルムンガンドは弱体化に弱体化が重なり、伝説とは全く異なる。しかし、それでも尚、超越種の中でも中位の強さ。」

つまりソウジの強さは、最低でも超越種(中位)を単身で屠れる力を持つ。

「S級冒険者を甘く見ていたな。」

死霊魔法士は洞窟内をゆっくりと奥へ奥へと歩く。

「ねぇ。マモン様。」

死霊魔法士は洞窟の地面に転がる肉塊にそう語りかける。

「これから貴方をゾンビにして私の配下になって貰いますね。」

死霊魔法を発動させる、肉塊、血液、それら全て宙に浮かび、結合を始める。

「顔がありませんから、これにしますか。」

顔のないゾンビに顔を与える。それは人間の物でも、魔人の物でもない。

「貴方はこれから、私の知るマモンの姿になるにです。」

死霊魔法士が与えたのは双頭の烏。

「これこそ、キリスト教に伝わる悪魔〈マモン〉の姿。」

人間の肉体に烏の双頭。それは正に、地球における宗教の一つ。キリスト教に伝わる、〈マモン〉の姿である。

「行きましょう。さて、次は何を使おうか。」

死霊魔法士は地中に住う、配下の怪物を率いてその場を後にした。


「マモンが死んだようです。死体を回収できなかったので、復活はできません。」

序列第二席〈傲慢〉ルシファーは笑みを浮かべる。

「嬉しそうだね。ルシファー。」

序列第四席〈怠惰〉ベルフェゴールは頬杖をついて、ルシファーの顔を覗き込む。

「そんなのどうでも良いわ。私に食べさせた転移者って何だったの?あんな不味いのは何?」

序列第三席〈暴食〉ベルゼブブは不満そうに椅子にもたれ掛かる。

「申し上げます。私の調査によると、ルイス=ルーメンによって召喚され、ルイス=ルーメンによって支配された様です。」

序列第五席〈嫉妬〉レヴィアタンは資料を用いて説明する。

「理解したわ。あの屑に支配されてたのね。」

ベルゼブブは納得して嫌そうな顔をする。

「そろそろ本題に入って良いかな?」

ルシファーは困ったような顔をする。

「良さそうだね。さて、円卓を囲む七席に二席の空席ができた。」

1万年間空席である第一席、及び、マモンの死亡によって空いた第六席。

「第一席はあの方の気分次第なので、永久に空席として、第六席にはアスモデウスに入って貰います。よって第七席に座るのを誰にするか。です。」

ルシファーは淡々と進行する。序列は文字通り強さ順。第六席には順当にアスモデウスが座ることになる。

「はーい。」

「なんですか?ベルフェゴール。」

「七魔人じゃなくて六魔人にするのはどう?面倒。」

「相変わらず適当ですね。ですが、私も賛成ですかね。最低でもS級冒険者に対抗できる強さは欲しいので、実際四魔人でも良いのですよ。わかってますよね。二人とも。」

ルシファーは知っていた。序列第五席以下の3人はS級に手も足も出ないと。

現に、マモンはヒョウカに殺され、アスモデウスはアーサラに殺された。アスモデウスに関しては復活後、恐怖に戦闘不能になっている。

レヴィアタンは死ななかったにしろ、ベルゼブブの助けがなければ、今頃、フェル=マクリーによって殺されていただろう。

「そもそも。私達の目的は世界の均衡を保つ事。その一旦として、ルーメン家の滅亡が必須。S級冒険者との対峙は必然です。」

ルシファーはゆっくりと語り出す。

「我々がまだあの方直属の配下、〈三魔将〉だった頃。」

現在から10万年前。ルシファー、ベルゼブブ、ベルフェゴールは彼らがあの方という男の配下であった。

「貴方にはルシファーを。貴女にはベルゼブブを。貴方にはベルフェゴールの名を与えましょう。」

「ありがたき幸せ。」

その女性の様な顔立ちの男は、3人の返事に微笑んだ。

「(美しい。)」

3人にとって彼は自分達を生み出した親であり、自分達の象徴であり、「美」そのものである。

彼の一挙手一投足が「美」であり、美しい形容をしている3人が霞んで見えるほど、彼は美しかった。

「ルシファー。貴方に〈魔神〉と〈傲慢〉のスキルを与えます。」

ルシファー差し出された手の甲に、忠誠の意を込めてキスをした。

「2人にも。ベルゼブブには〈暴食〉を。ベルフェゴールには〈怠惰〉を与えます。」

2人も順に手の甲にキスをする。

「それでは3人共。これからよろしく頼みよ。」

男は3人に向けて、優しく微笑んだ。

「それから、私達はあの方の指示の元。魔力を創り、魔人を創り、人間を創った。」

魔神の力と三大罪の力により、3人協力してこの世界の基盤を作り上げた。

「しかし、私達が最初に生み出した人間、〈ルーメン家〉はルーメン帝国を造り、我々を脅かす存在となった。」

ルーメン帝国は建国から4万年。多大な犠牲を払い、無数の屍の山を築いた。

結果的にルーメン帝国は血の帝国と呼ばれるに至った。

現在のルーメン帝国の国力は強大であり、13人のS級冒険者を有し、更にはそのS級冒険者を超える軍事力を有している。

「S級冒険者と戦う必要はない。対抗できれば良い。」

七魔人の目的はルーメン家の滅亡。正確には〈ルイス=ルーメン〉の殺害。

障害としてS級冒険者と軍、騎士団がいるが、ルイスを殺すことだけであれば、どうとでもなる。

「そろそろ本格的にルーメン家を滅ぼそう。我々も〈厄災〉に備えなければならないからね。」

「じゃあさ。俺がS級冒険者を相手するよ。ルシファーが殺せば良い。」

「じゃあ私が軍を相手するわ。2人は留守番ね。」

死神が生まれた日から3日後の朝、ルーメン帝国の青空が夜空に変わった。

「君がアーサラ=ペンドラグ。君がヒョウカ=ヨルノかな。」

アーサラとヒョウカの目の前に、ベルフェゴールは不敵な笑みを浮かべて降り立った。

「あれ。あの2人はいないんだ。」

ベルゼブブは帝国軍基地の上空で、ある2人がいない事を確認して、そう呟いた。

「...」

ルシファーは堂々と城門を通って、城へと足を踏み入れた。

「冒険」の人気作品

コメント

コメントを書く