異世界を危機回避で生きていく。

白鷺(シラサギ)

偽装

「飛竜が出るとは。」

シリウス達はムツキと戦っていた飛竜とは別の飛竜と遭遇する。

「ゲイルさん。飛竜の突進に耐えれますか?」

「無理だな。」

「わかりました。今から見る魔法は他言無用でお願いします。勿論ムツキさんにも。」

シリウスのお願いにゲイルは無言で首を縦に振り、承諾する。

黒重力コクジュウリョク

シリウスが保有するスキルの1つ。

〈重力操作〉と共に会得したスキル〈重力点〉。その場の重力を操作するのではなく、重力の中心となる歪みを生み出すスキル。

その重力点と重力操作を同時に発動させ作られる、〈黒重力〉という魔法。高密度の重力の圧縮により、それは黒の球として目視を可能とする。即ち、擬似的な〈ブラックホール〉である。

黒重力が生み出された直後、飛竜はその歪みに吸い込まれ、跡形もなく消滅する。文字通り“一瞬”で。

「行きましょう。」

シリウスは何事もなかったように歩き出す。

ゲイルは戦慄しただろう。何故なら、今シリウスが行った、飛竜を一瞬で倒すという行為。

A級冒険者が飛竜と対した場合、彼らですら討伐に数十秒はかかる。そして、飛竜一瞬で倒す人間は、S級にしか存在しない。

つまりは、

「(S級と同等の強さ。)」

シリウスは既にS級へと至っていた。

ムツキは最高でもA級上位と予想していたが、間違いであった。

しかし、ムツキが間違えるのも無理はない。何故なら、彼が〈偽装〉を持っているからだ。
彼の偽装はランクはS。同等のランクの鑑定でなければ看破できないのだ。
彼がムツキの鑑定から偽装したスキルは4つ。それは、魔法強化系のスキル。あれらのスキルはランクDの四属性と、ムツキは見れなかったが、ランクBの〈白魔法強化〉と〈黒魔法強化〉の二属性を会得した時点で、ランクCの〈魔法強化〉に統合されていた。
偽装した理由は主に2つ。1つはムツキに全属性を扱える事を隠すため。もう一つはムツキに魔法士であると思わせるため。

彼はステータスを偽装し、ムツキに完全に魔法士であると思わせた。

攻撃値6800(最大値9999)
魔力値8900(最大値9999)
俊敏値5280(最大値9999)
防御値6000(最大値9999)
体力値7400(最大値9999)

ムツキの鑑定にはこう映っていた。
しかし、本来のステータスは、

攻撃値9999(最大値9999)
魔力値8870(最大値9999)
俊敏値8200(最大値9999)
防御値9040(最大値9999)
体力値8550(最大値9999)

能力値オール8000以上かつ、能力値の一部が9999。それが、S級冒険者になる者のステータス基準。その基準を超えるステータスであった。

シリウスの本来の職業は〈魔剣士〉である。

ステータスの項目には幾つか語弊があるのだが、攻撃値とは即ち物理攻撃力のことであり、魔力値とは魔法攻撃力のことである。

ムツキの違和感はここにあった。シリウスのスキルを教えて貰った際に、魔法士であるシリウスが、ランクBの〈身体強化〉を持っている事を違和感を覚えていた。

ただ、それは違和感に留まっていた。理由は、その事実に偽装を付与したからである。

思考の偽装。Sランクのスキルはそれすらも可能とする。

「(ムツキさんが、僕の嘘に気づいた時。それが貴方が化け物になった時です。なので、こんな所でつまらない死に方はやめてくださいね。)」

シリウスはそう思いながら、血の匂いに気づく。

「ゲイルさん。」

「見つけたのか?」

「はい。ムツキさんの血の匂いです。急ぎましょう。」

シリウスはそう言い、走り出す。

一本道を抜けて、鉱山の中の広い採掘場にに出る。

「ムツキさん!」

「ムツキ!」

2人は血の海に倒れるムツキを発見し駆け寄る。

「腕が千切れている。」

シリウスは血の匂いから、ムツキの腕が喰われた事に気づき。

壁の近くで倒れている飛竜の腹を素手で突き破り、胃の中に入っていた腕を取り出す。
幸い噛み砕かれてはいなかったので、腕を縫合することは可能だ。

しかし状況は最悪だ。

「血が予想以上に流れている。」

輸血はない、ムツキはA型。シリウスもゲイルもO型だ。

「(仕方ない。)」

スキルを使う〈治癒特化〉ランクはS。白魔法の中の治癒魔法に限定した強化スキル。

腕が千切れようが、バラバラになろうが生きていれば治せる。そしてそれは、流れた血液すらも。

次の瞬間、ムツキは白い光に包まれた。

ムツキは薄れた真相意識の中に、母親に包まれるような温もりを感じた。


「おはよう。ムツキ。」

「おはよう。なんで俺の傷が治ってるんだ?」

「シリウスが治した。お前が意識をなくして3日経ったが、ずっとお前の横で看病してたんだぞ。」

ムツキの横たわるベッドの隣で、椅子に座りながら眠る、中性的な顔の少年。眠る姿はさながら、昔読んだ絵本に登場する茨姫のようであった。

「(可愛い。)」

ムツキは一瞬そう思うが、

「(いやいや。男だぞ。)」

と、正気に戻る。

それにしても、とムツキは思考を始める。

「(千切れた腕を治すほどの治癒魔法を扱えるのか。)」

治癒魔法士としての能力。聖女と同等のレベルである。

ただ今はそんな事、関係ない。ムツキは眠る自分を救ってくれたシリウスに、

「ありがとうな。」

そう、優しく穏やかな声で言った。

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