異世界を危機回避で生きていく。

白鷺(シラサギ)

試練

「シリウスがムツキに接触しました。」

「シリウスさんがムツキ君に?」

「はい。」

給仕服の男性は金髪の少女に報告する。

「それで、どこまで話したのですか?」

「禁忌No.10〈世界崩壊〉について。」

「そうですか。手間が省けました。ムツキ君には更に強大な力を手に入れて貰わなければなりませんから、世界崩壊を知ったのなら強くなってくれる事でしょう。」

金髪の少女はそう言うと、ガラスのテーブルに置かれたカップを手に取り、紅茶を啜る。

「ケルベロス。引き続きヨルノ姉弟を見守って頂戴。」

「承知しました。」

金髪の少女は給仕服の男が消えたことを確認すると、

「さて、まずは七魔人に勝てるか。この程度に負ける様では、この世界も終わりね。」

そう、呟いた。


シリウスの残りのスキル。多少はぐらかされたけど、残り25個の内、10個教えて貰った。

まず、転生時に得た〈加速〉と〈会得〉。どちらともランクはAらしい。他にランクBのスキルは〈未来視〉〈飛翔〉〈身体強化〉〈模写〉〈空間操作〉〈重力操作〉〈武器強化〉。そして、シリウスだけの固有スキル〈断罪〉。

あらゆる罪を罰するスキル。ムツキすら知る、七大罪を制御するために神が作ったとされる、対七大罪スキル。

「固有スキルは生まれた時に与えられると聞いたが?」

と、質問してみたら

「その通りです。本来固有スキルは、人がこの世に生を亨けた時に与えられます。ですが、規格外の化け物、例えば勇者様は、騎士王という固有スキルに覚醒しています。僕は規格外の化け物ではありませんが、〈会得〉がありますから、固有スキルすら会得できます。」

と返答された。

何が僕は規格外の化け物ではありませんが、だ。化け物だろ。

残り15個は教えて貰えなかったけど、多分〈鑑定〉を持っている。

何故だか分からないが、これがインウィさんが言っていた、

「同じスキルを持つ者は、何となくそのスキルを持っているのが分かる。」

というやつなのだろう。

まぁ、シリウスが敵でない限り、頼もしいだけだ。

「行くぞ。」

ムツキは、ゲイルとシリウスを連れて魔物の討伐に出発した。


「試練よ。ムツキ=ヨルノ。D級冒険者である貴方では決して制圧できない魔物。それを制圧してみなさい。」


討伐に出発して1時間、ムツキ達は分断されていた

数分前、森を歩いていた3人は、どこからともなく現れた霧に包まれ、霧が晴れた瞬間、ムツキが立っていた場所は開けた鉱山。

数歩しか歩いていないはずが、山1つない森から突如として、石の壁に包まれた鉱山に移動したのだ。

見渡してみると道は1つ。

目の前に立つ、飛竜の後ろに外へ続くと思われる道がある。

「どうなってんだ。」

そんな事を考えてる暇もなく飛竜は襲いかかってくる。

危機回避。難なく飛竜に突進を避けムツキは距離をとる。

「(勝てるか?)」

飛竜は通常種〈上位〉。あのハイオークと同じランクだ。

ただ、ランクが同じだから、強さが同じわけではない。飛竜は、ハイオークより強い。

飛竜は竜種であるが、知能が然程高くない。

だから、飛竜の攻撃は突進、もしくは炎のブレスのみだ。

避ける事は難しくないが、こちらが攻撃できなければ、ジリ貧だ。ましてや、格上相手に消耗戦を挑むなどと、無謀な事はしない。

「(飛竜の攻略法。)」

ムツキはインウィの教えを思い出す。

飛竜の攻略法は一つ。

「飛ばせない。」

飛竜は竜種の中では下位だが、純粋の竜種を除けば、唯一空を飛ぶ竜種だ。

最強種の火竜や水竜などとは違い、飛竜は体が小さく空を飛ぶ為の翼を狙いやすい。

ムツキは突進する飛竜を危機回避によって難なく避け、普段使う短剣よりも、一回り小さい剣を投擲し、見事飛竜の翼を貫く。

飛竜の叫び声が鉱山の中で反響する。

竜の翼には無数に神経が通っており、どこを攻撃しても致命傷となる、弱点なのだ。

人間で言えば、目を潰されたようなものだ。

無論、飛竜は痛みに耐え兼ね、飛ぶのやめる。

「(地面に落とすのは成功したが、これでもただ同じ土俵に立たしただけだ。)」

いくら飛べなくとも、今ムツキが対峙しているのは竜だ。真っ向で戦ってムツキが勝てるはずもなく。ムツキも素直に戦うつもりはない。

「!」

ムツキは今まで感じたことのない危機を察知する。

気づいた時にはもう遅かった。危機回避によって体が勝手に動き、避ける。

が、それよりも速くムツキを飲み込んだのは、飛竜による炎のブレスだ。

その直後、地面に短剣が落ち、石に金属が当たる音が鳴り響いた。


「ここはどこでしょうかね。」

シリウスはゲイルにそう聞く。

「俺にもわからねーよ。てか、この場所がどこであれ、考えるよりも先にムツキを探さねえと。」

「同感ですね。普通種(上位)の気配を感じます。早く探さないとまずいかも。」

ゲイルの言葉に同意するシリウスは、冷静に場の把握する。

「(1都市とまではいかないけど、町程度の広さか。普通の鉱山の大きさ知らないけど、かなり広い。ムツキさん。死なないでくださいね。)」

シリウスは心の底からそう願った。


「(腕が動かない。)」

その頃、ムツキは間一髪の所で、炎を避け一命を取り留めた。しかし、代償として右腕は皮膚がただれ、完全な火傷を負った。

「(生き残れたが、左腕だけで飛竜とは戦えない。)」

ムツキは考えるこの状況から逃げる方法を。

だが、結論は一瞬で出る。

逃げれない。

負傷を負った状況で逃げる方法は皆無。もはや、飛竜を倒す以外他はない。

「(やってやるよ。右腕くらいくれてやる。その変わり、お前の命を頂く。)」

ムツキは笑う。彼が今感じているのは、恐怖ではなかった。

自分が勝てると信じて、笑みを浮かべたのだ。そしてムツキは、左手で短剣を拾い上げ、飛竜に突進する。

近づいて来るムツキに飛竜も突進を始める。

「ッ!」

ムツキはわざと腕を食わせ、鮮血が地面に流れる。

次の瞬間、ムツキの腕が飛竜の歯に固定され、飛竜の顔を中心にムツキの体は1回転する。

その、ムツキは飛竜との激突によって生じた速度のまま、左手に持った短剣を飛竜の後頭部に突き刺し、勢いよく左に体を持っていく。

固定されていた右腕は、ムツキが体を左にやった事で千切れる。今までに感じたことのない激痛が走るが、ムツキは止まらない。

痛みに耐え兼ね、離しそうになった短剣を左手で確りと掴み、短剣を飛竜に突き刺したまま、ムツキは重力に身を任せた。

短剣の切れ味は凄まじく、力を入れずとも、ぶら下がっているだけで、飛竜の後頭部から尻尾にかけて一直線に斬れる。

地面に着地したムツキは、油断せずに再び飛竜の方を向く。

「(これで死なないか。)」

飛竜は黒色の鱗が赤く染まる程に出血している。にも関わらず、既に突進の体勢に入っている。

「(避けれるか。)」

そう思ったと同時に、飛竜は突進を始める。

ムツキは避けれた。しかし、ここで選んだのは、

敢えて突進を受ける。

勿論、直撃したら死ぬだろう。しかし、ムツキは自分が唯一使える、微弱な風魔法で突進の衝撃を緩和。タイミングを間違えれば死ぬ。

だが、成功させれば関係ない。

ムツキは飛竜の突進を受けたと同時に、飛竜の眉間に短剣を突き刺した。

これで飛竜は死んだ。

ムツキはそう思った。しかし、突進は止まらなかった。

飛竜は生きている。正確にはまだ死んでいない。少なくともムツキを壁にぶつけ、殺すことぐらいはできる。

「(まずい。壁にぶつかるまで後2秒もないどうするどうする。)」

そう考えていると、ムツキの体はまたしても危機回避によって勝手に動いたのだ。
短剣を軸に体を半回転させ片腕のみで逆立ちする。そして微弱な風魔法で体少し動かし、短剣を飛竜から抜いて、そのまま着地した。

次の瞬間、飛竜は壁に激突し、頭が半分潰れる。

「(2回。体が勝手に動いた。これが危機回避に本当の能力なのか。)」

ムツキは疑問に思いながらも、右腕を失ったが飛竜に勝利した。

転移から3分しか経っていないが、ムツキは10分以上戦っていたと思う程に疲弊していた。

そして、気づいた時に来る、腕が千切れた事による激痛。

声が出せない程の痛みが走る。

そこでムツキは意識を失った。

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