異世界を危機回避で生きていく。

白鷺(シラサギ)

冒険者試験

「そろそろ、冒険者として活動できるじゃろう。」

処刑の日から1週間。

老人に修行をつけて貰っていたムツキは、老人が言うには、E級よりは少し強い程度の強さになったらしい。

「ありがとうございました。インウィさん。」

ムツキはこの日、老人〈インウィ=ディア〉の家から立ち去る事を決めた。

インウィから教えられた事は、3つ。

1つ。冒険者になった時に仲間を必ず2人は作る事。

2つ。無理だと思った時は情けなくとも逃げる事。

3つ。絶対に武器を握り続ける事。

その3つの事を忘れずに、インウィが持たせてくれた、冒険道具を手に、冒険者ギルドに足を踏み入れた。

「冒険者登録をしたいのですが。」

ムツキが受付の女性にインウィから貰った申請書を出すと、受付の女性は冒険者試験の会場まで案内してくれた。

「今日が冒険者試験日と知って、申請したのですか?申請期日ギリギリに申請書を提出したのは、貴方と現S級冒険者〈氷帝〉ぐらいですよ。」

「いえ。知りませんでした。(今日を選んだのはこういう事か。流石はインウィさんだ。)」

ムツキは心の底からインウィに感謝しつつ、受付の女性について行くと、先程まで階段を降りていた筈が、突然拓けた場所に着く。

「ここが試験会場です。」

受付の女性はそう言うと、階段を上って、去っていた。

「君が最後の受験者だな。」

ムツキが案内人を失い、どこへ行けばとおろおろしていると、恐らく試験官だと思われる、身長2メートルを超えると思われる巨漢に声を掛けられる。

「はい。そうです。」

「あの氷帝の様な奴が他にもいるんだな。」

ムツキが返事をすると、巨漢も氷帝の事を呟く。

「早く行くぞ。すぐに試験を始める。」

ムツキは何も言わずに、巨漢について行った。

「諸君。俺は今回の試験官を務める、ディールだ。今回の受験者は40名の予定だったが、今日申請を出した物がいる為、計41名となった。この中から何人が冒険者になるか楽しみだ。皆、頑張るように。それでは試験を始める。」

ディールの説明が終わり、試験が始まった。

一次試験は体力測定。10キロメートルの距離を走るだけという、簡単な試験であった。

虐めから逃げていたムツキには、物足りない距離であった為、ムツキは難なく突破した。

二次試験は座学。魔物の習性と、食べる事のできる木の実についての筆記試験であった。

こちらも、インウィからの教えにより、難なく突破した。

三次試験は実技。実際に最弱種の魔物である、スライムとの戦闘を行う試験であった。

こちらは、少し苦戦したが上記の2つの試験を突破したムツキは倒す事ができた。

四次試験は協力。現在残っている20名の受験生から4名で結成する計5つのチームにくじ引きで分けられ、実はダンジョンであった試験会場の、指定された場所に辿り着く。という試験であった。

ムツキはくじ引きで決まった、同じチームの他3名と自己紹介をする。

「俺の名前は〈クレイ=ユーウィル〉だ。職業は大剣士。今回は前衛を務めるよ。」

クレイはまさに前衛という風貌である。歳こそ15くらいの見た目だが、背中に担ぐ大剣は、クレイの身長の、1.7倍程の2.5メートルぐらいだ。それを扱う程の筋力は相当なものだと思われる。

「私の名前は〈フィリア=エーリアス〉です。職業は僧侶。今回は後衛を務めさせて頂きます。」

フィリアは転移者であるムツキですら知る有名人である。聖教会次期最高位神官〈聖女〉それが彼女である。フィリアは噂によると切断された腕すら、繋ぎ治すことができるらしく、彼女がいる時点で試験を有利に進められるだろう。

「私の名前は〈シーフ〉。職業は弓士。後衛を務める。」

シーフは見たところエルフである。顔を隠している事から何か事情がある事がわかる。彼女が持つ弓は、恐らくエルフの里でのみ作られる、霊弓れいきゅうだと思われ、霊弓を扱えるという事は、相当な弓士である。

そして、

「僕の名前は〈ムツキ=ヨルノ〉です。職業は短剣士。中衛を務めます。」

自己紹介を終えた4名は早速、指定の場所を目指して進み始めた。

途中、スライムやゴブリン等の最弱種が現れたが、難なく討伐しそろそろ指定の場所に到着すると思われた。

しかし、様子がおかしい。

人が1人もいない。

指定の場所を目の前に4名は足を止めた。

指定の場所はこのダンジョンの安全地帯なのだが、その安全地帯の扉の前に立っているのだ。

通常種(上位)である〈ハイオーク〉が。

動けない。もし一歩でも動けばその音でハイオークが気付くかも知れないのだ。動ける筈がない。そう理解してた、ムツキ達の後に来たチームは、僕達を囮にした。

静かだったダンジョンに小石が落ちる音が鳴る。

ムツキ達が振り返るとそこには、小石をムツキ達のいる位置に投げたと思われる、遅く来たチームがいた。

彼らはハイオークがムツキ達目掛けて、大きな岩を投げようと、振りかぶったの確認すると同時に、逃亡した。

「(嵌められた。)」

ムツキがそう思ったと同時に、肉が潰れる音がダンジョンに反響する。

ハイオークが振りかぶり、投げた岩は真っ直ぐ逃亡したチームを潰した。

ハイオークは怒号と共に、隠れていたムツキ達の方を向いた。

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