外道戦士アベル

田所舎人

アベルと少女

「よいしょっと……随分と掛ったな」
 アベルは担いだ少女を最寄りの街の宿のベッドに寝かせた。
「とりあえず、様子を見るか」
 ダンジョンで黒剣を納めると少女はすぐに気を失った。頬をペチペチと叩いても起きず、手の施しようがないため、宿を取って寝かせることにしたのだ。
 アベルは少女が目覚めるまでの間に手持ちのアイテムを換金しようと思い立ち、換金できそうな店を探した。
 換金できる店こそすぐに見つかったが、アベルが獲得したアイテムは価値が高すぎてそれに見合うだけの現金が用意できないと言われ、アベルは激昂した。そのアベルの怒り様に店主が恐れて、店にある用意できる現金の範疇で対応する事と、都市まで運ぶための馬車を翌日の朝までに用意するという形で決着がついた。
 大量の金を手にして宿に戻ると少女はベッドで上体を起こしてキョロキョロとしているところだった。
「なんだ。起きたのか」
「あの……」
 少女は鈴が鳴るような小さな声を上げるも言葉は続かない。
「お前、名前は?」
「名前……私の名前ですか?」
 少女は怯えるように尋ね返す。
「そうだ」
 アベルはそんな少女に対していつもの姿勢を崩さず端的な物言いで少女に詰め寄る。
「アイリス……です」
「そうか。アイリスか」
 アベルはじろじろとアイリスの身体を嘗め回すように品定めをする。
 上等な服を着させればどこのお姫様かと見間違える程に綺麗な髪や肌をしており、物腰もまた少女然としている。下町で見かけるような擦れた感じが無く、初心さが見て取れる。
「あの……貴方様は?」
 おずおずとアイリスがアベルに問いかける。
「俺様か? 俺様はアベル。お前のご主人様だ」
「アベル様? が、ご主人様? ご主人様とは何でしょうか?」
 アベルの言葉がピンと来ず、アイリスは子供の様にアベルに問い返すも、アベルは当たり前のように答えた。
「俺様がダンジョンを攻略して、その報酬としてお前が現れた。だから、お前は俺が手に入れた報酬だから、俺様の所有物だ。つまり、お前は俺様の奴隷で、俺様はお前のご主人様という訳だ。分かったか?」
「私が奴隷……ですか?」
「ああ。何故かは知らんが、お前の身体に変わった奴隷紋が浮かんでいたからな。間違いない」
 アベルが黒剣を納めた時、アイリスの体表に珍しい奴隷紋が浮かんでいた。
 奴隷紋とは高価な奴隷に対して一般的に施される魔術の一種だ。よくある方法としては主人となる者の体液を触媒にしたインクを奴隷となる者に刻み込む方法がある。
 アベルはいつか自分専用の奴隷を持ちたいと夢見ていたことがあり、奴隷商人から聞きかじったことがあった。その時に見せてもらった奴隷紋に似た物がアイリスの体表に浮かんだことから間違いなくアイリスはアベルの奴隷になったのだと信じて疑わない。
「奴隷……とは何でしょうか?」
「なんだ知らないのか? 奴隷ってのはご主人様の命令に従うもんだ。だから、お前は俺様の命令を聞けばいい」
「……もしも命令を聞かなかったらどうなるんでしょうか?」
「さぁな。それは俺も知らん」
 奴隷紋によって罰の与え方は様々だ。多くの場合は痛みを与えるという形が多いとアベルは奴隷商から聞いたことはあるが、アイリスの体表に現れた奴隷紋がどういった物かはアベルに判別がつかない。
「下手したら死ぬかもな」
「え……」
 アベルは冗談を言ったつもりはなかった。実際にそういう奴隷紋を施す飼い主が居ないわけではないからだ。
「まぁ俺様の命令に従う内は何も無いんだ。気にするな」
 ガハハと笑うアベルと対象的に消沈するアイリス。
「……本当に私に、その奴隷紋というのがあるのでしょうか?」
「そうだな……本当に刻まれているか心配ならば命令を一つ出してみよう。『アイリス、服を一枚脱げ』」
 アベルが命令するとアイリスの体表に淡く奴隷紋らしきものが浮き上がり、時間の経過とともに色濃くなってくる。
「ん……なんだか、チクチクしてきました」
「ほれほれ、早く脱がないともっと痛くなるぞー」
 アベルはイヤらしい笑みを浮かべてアイリスを囃し立てる。
「え? え!?」
 アイリスは慌てて服に手を掛ける。そして、一瞬手を止める。脱げる服が一枚しか無く、脱げば丸裸になってしまうからだ。
「ほーれほれ、早く脱がないともっと痛くなるぞー」
 アベルの言葉に観念してアイリスは着ていたワンピースドレスを静かに脱いだ。
 長く眠り陽の光を浴びていない白い肌が露となり、恥ずかしさのせいか所々に朱が差し、反対に浮き上がった奴隷紋らしきものは何も無かったように消えた。
「あ……チクチクしなくなりました」
 脱いだワンピースを畳み、毛布で身を隠すアイリス。
「ほら、分かっただろ。俺様の命令で奴隷紋が浮かんで、命令を聞けば罰は無くなる。これでお前が俺様の所有物であり、奴隷だという事が証明されたのだ」
 アベルは満足そうにウンウンと唸る。
「では次の命令だ」
「え!?」
 アベルの言葉に困惑するアイリス。
 ゆっくりと迫るアベル。
「一緒に寝るぞ」

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