外道戦士アベル

田所舎人

アベルと占屋

  次にアベルが向かう先は占屋エリス。
 占屋とは冒険者だけでなく、兵士や騎士といった戦闘技術を磨く者ならば全員が利用する店だ。
 手相や面相、カード等といった様々な方法を用いて客を目利きする店だ。その結果で客の様々な能力を明らかにする。客が特に注目されるのがレベルと呼ばれる数値であり、その数値が高い程力が強く、体力が多く、身のこなしが機敏になる。
 レベルの基準は大まかに健康な成人男性で10、訓練を積んだ兵士で20、鍛錬を怠らない才覚ある騎士が30、という具合であり、このレベルの高さによって雇われた者ならば厚遇を受け、給金も弾み、人気も出る。
「邪魔するぞ」
 占い用の道具かどうかも変わらない雑貨が所狭しと並ぶ店内。
「あら、アベルじゃない。今日はどうしたの? また目利きして欲しいの?」
 アベルよりやや年上の落ち着きのある女性。占屋エリスの女店主エリスが出迎えた。
「お前を抱きに来た。と言いたいところだが、お前の言う通りだ。また出かけることになってな」
「ふーん。まぁいいわ、そこに掛けてちょうだい」
 アベルは促されるまま席に着き、いつもの流れで目利きをしてもらう。
「え!? この短期間でレベルが4つも上がってるわ!? 一体どうしたの!?」
 エリスの言葉にアベルは上機嫌に笑った。
「依頼でえらくしぶとい怪物を切り殺したからな。そのせいじゃないか?」
「ちょっと待って。前に見た時のレベルだって低いレベルじゃなかったわ。なのに、この短期間で4つもレベルが上がるなんて……」
「なら、エリスの目利きが間違ったってことか?」
 アベルがイヤらしい目付きでニヤニヤとエリスを見る。
「いえ、そんなはず……」
 これがごく普通の兵士ならば、この短期間でどのような訓練を行ってもレベル一つ上げるのも難しいだろう。しかし、冒険者という職業柄、命を賭した戦いに身を投じることで急成長をすることは稀にある。それでもレベル4つも上がるような難敵ならば命を賭した所で生きて帰る保証はない。なのにエリスの目の前の男は笑っている。
「それじゃあ、行ってくるぜ」
 アベルは金をその場に残し立ち去る。
「やっぱり近接戦闘の才を持っているからかしら……」
 近接戦闘の才。それは近接戦闘において武器の扱いや身の守り方、直感といった様々な行動をより良くすることができる才。
 才はウルスが武器を目利きして見せた武器鑑定の才。エリスのように客の能力を目利きする人鑑定の才。この世には様々な才が存在するが、アベルのそれは非常に珍しい物だった。その才一つで剣や槍、鈍器といった数多の近接武器を使いこなし、盾や鎧といった身を護る防具すらも器用に扱え、一つ一つの才として数えてみれば両の指では数えきれない程の才。
 エリスがアベルに一目置いているのは過剰ともいえる冒険心と行動力、そしてその行動力を支えるこの天賦の才、その結果が異常ともいえる成長速度。恐らく自分以外は知らないだろうとエリスは思っていた。でなければ、こんな人材を放ってはおかないだろう。もちろん、エリスはアベルの風聞は知っており、その大半が冗談のようでいて脚色が無い物もあることは知っている。しかし、エリスは他の客の相手をしているからこそ知っている。
 彼が客の誰よりも、偉い騎士様さえもゆうに超えている事を。

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