外道戦士アベル

田所舎人

アベルと武具屋

道具屋を出たアベルが次に向かう先は武具屋ウルス。
 この街に武具屋の数多いが、ここの看板娘の女の子が可愛いのでアベルは贔屓にしている。
「よぉ。ウルスちゃん、今日も元気にやってるかい?」
「あら、アベルさんですか。こんにちわ」
 少し弱弱しい調子の声で答える髪に艶の無い少女。彼女がウルスだ。儚い印象を与え、病弱なことが伺える。
「元気そうだな」
「ええ、今日は調子がいいんです」
「それは良かった。たまには外に出て陽の光でも浴びると良いぞ。なんなら、これから俺様と一緒に食事でもどうだ?」
「フフ、ごめんなさい。まだ店番をしなくてはいけないの。それに食事はお母さんとする約束があるので」
「そうか、なら仕方ないな。約束と言えば、俺様もイリスちゃんから頼まれていたことがあったんだった。コイツだ」
 アベルがメモを取り出し手渡す。
「これ、イリスちゃんからですか?」
「ああ。アイテムが入荷したから報せてくれとさ」
「そうだったんですか。それでわざわざココへ?」
「ウルスちゃんの顔が見たかったから、物のついでだ。気にするな」
「わざわざすみません」
「本当に気にするな。ウルスちゃんの顔を見に来るついでに武器の新調の更についでだ。武器、見せてもらうぞ」
「あれ? 確か数日前にも買われましたよね?」
「ああ、そいつはダメになったんだ」
 アベルは腰から下げたそれを外して卓上に置き、ウルスがそれを抜く。
「……どんな戦い方をすればこんな傷み方をするのでしょうか?」
「しぶとい怪物が相手でな。本気で切りつけたらこうなっちまったんだ」
 アベルは頑丈さを重視した剣を選んだつもりだったが、それでも耐えられなかった。
「アベルさんが選ぶ剣は安い鋳造品だから折れるんじゃないでしょうか?」
「そうは言うが、俺様が使う剣はどれも折れるからな。下手に高い剣を折ってしまっては破産してしまう」
 アベルは身体能力こそ高く戦闘技術も決して低い物ではないが、性格的に力で押し切る戦い方をするため叩き切る長剣を好み、現にそれで負けたことはないが、武器がそれに耐えられないのだった。
「いつまでも剣が折れる危険を背負っていてはいつか命を落としかねませんよ? 待っていてください。今、良い物を見繕いますから」
 ウルスはそう言って線の細い体を起こすように立ち上がり、店頭に並ぶ商品を見定める。
「おいおい、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
 そう優しく微笑み返すウルスはあたりを付けたように剣を一本選んでは卓上に置き、それを何度か繰り返して五本の剣が並べられた。
「店内にある剣の中で頑丈さに秀でた物を見繕いました」
「もしかして、わざわざ目利きをしたのか?」
 目利きとは一般的にアイテムの性能を正確に判断する能力の事だ。
「今日は調子も良いですし、アベルさんがわざわざご足労頂いてるわけですから」
 アベルには道具や装備の性能は誰でも分かるレベルでしか判断できない。しかし、目利き持ちが目利きした品というのはそれだけで箔が付く。
「価格も据え置きで構いません」
 据え置きとはつまり、目利きしてもらった手数料を乗せないという事だ。
「いいのか?」
「はい。アベルさんにはいつも贔屓にしてもらっていますから」
「なら、ウルスちゃんの優しさに甘えるとしよう」
 並べられた剣は長剣三本と小剣二本。どちらの武器もアベルは人並み以上に使う事ができる。
 普段ならばアベルが買うのは長剣一本だが、今回はダンジョンということもあり、短剣も一本買う事を考えていた。
 まずは長剣。
 一本目の長剣は普通の鋼製のロングソード。駆け出しから玄人まで幅広く使われる武器だ。
 二本目の長剣は光属性を帯びたロングソード。闇属性の敵に致命傷を与える武器で聖騎士が好んで使う武器だ。
 三本目の長剣は普通の鋼製のクレイモア。特徴はロングソードよりも長く、重く、破壊力があり、ある程度の力を備えた者でなければ武器に振り回されるため使う者を選ぶ武器だ。
 次に小剣。
 一本目の小剣は普通の鋼製のレイピア。刀身が比較的細いため軽量であり、街中での警邏や護衛の際の携帯武器として使用されることが多く、狭い屋内や洞窟等で重宝する。
 二本目の小剣が水属性を帯びたブロードソード。レイピアと比較すると重いが、頑丈であり、火属性の敵に致命傷を与えることができる。
「この五本はどれも頑丈なんだな?」
「はい。ただ、頑丈とはいっても同じ武器の中ではですけど」
「なら、こいつとこいつだな」
 アベルが選んだのは鋼製のクレイモアと水属性のブロードソードだった。
 ダンジョンは基本的には狭いが、ダンジョンボスと呼ばれる一際強い魔物は巨躯であることが多く、並みの剣では仕留めることに苦労する。そのためクレイモアのような武器をアベルは欲しがった。
 代金を支払い、クレイモアを背に、ブロードソードを腰に下げる。
「ひょっとして戦争でもあるんですか?」
 冒険者の中には金策のため傭兵として仕事をする者もいる。そして、そういった者は主武器としての長剣と止め刺しのための小剣の組み合わせを好むものが多い。
「ああ、これは戦争ではない。これから俺様はダンジョンを攻略しに行くのだ」
「ダンジョン、ですか?」
 ウルスは目をパチクリとさせる。
「ひょっとするとまだ誰も手を付けていない金銀財宝が眠っているに違いないからな」
「あるといいですね」
「ああ。その時は改めて一緒に食事でもどうだ?」
「えーっと、そうですね。お父さんに聞いてみます」
「こらこらウルスちゃん。いつまでもご両親に頼っていてはダメだ。ウルスちゃんが行きたいかどうかが大事なのだ」
「えーっと、それじゃあ体調が良ければ」
 儚げに微笑む。
「では約束だぞ」
「はい」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品