最後のラブレター ~現代版『椿姫』~

のんにゃん

バレエ『椿姫』


翌日の夜、修吾とマリはパリ・オペラ座劇場の桟敷席にいた。

バレエ『椿姫』を鑑賞するためだった。



この時期のバレエ鑑賞といえば、真っ先に思い付くのは
『くるみ割り人形』。


だが、修吾はマリにこう提案した。

「パリ・オペラ座の『椿姫』は、絶対に観ておいた方がいいバレエ作品だよ!
ショパンのピアノの名曲に、ジョン・ノイマイヤーが振付をした作品なんだけど、原作小説の『椿姫』のために書かれた曲ではないにもかかわらず、ストーリーに曲がピッタリ合っていて、本当に感動するから!」


マリはというと、それまでにあまりバレエを観たことがなかったので
「あなたに任せるわ」
と答え、観る演目は決定した。



この選択は大正解だった。


美しいショパンの名曲と悲恋のストーリーに心を打たれ、マリは思わず涙していた。


高級娼婦として派手で奔放な生活を送っていたマルグリットは、結核を患っていたが、純真な青年アルマンと出会い、真剣に愛し合うようになる。

2人はパリの喧騒を離れ、田舎の避暑地で静かな、しかし愛に満ちた生活を送り始める。


「…まるで、今の私たちみたい」

マリはふと思った。

「私たちが住んでいるのは、静かな田舎ではなくて、都会のど真ん中の五本木ヒルズだけど」



…マルグリットとアルマンの幸せな生活は、アルマンの父親の反対で、突然終わりを告げる。

マルグリットはアルマンを愛するがゆえに、彼の幸せを願った。
彼女は2人で暮らした家を離れ、娼婦の生活に戻っていき、やがて病気が悪化して亡くなってしまう。

マルグリットが亡くなった後、アルマンは彼女の遺した手記から全ての真相を知るが…

…もうマルグリットはこの世にはおらず、全ては遅かった。


「なぜ?
愛し合っていたのに、なぜ家や親のために別れを選ばなくてはならないの!?」

マリには、その状況が理解できなかった。

「家柄!?
『ご子息が娼婦と一緒に住んでいるなんて』
という世間の評判!?そんなの関係ないじゃない!?
どうして愛し合っている同士が、こんなに理不尽に引き裂かれなくてはならないの!?」

なぜか、涙が溢れて止まらない。


マリ自身、修吾の実家から見たら
「不釣り合いな出自の女性」
だろう。

でも、そんなものは2人の愛と努力があれば乗り越えられると、この時のマリは信じて疑わなかった。



マリは、隣に座っていた修吾に言った。
「私たち、幸せになりましょうね」

『椿姫』の原作小説の中で、マルグリットが田舎の別荘でアルマンに言ったのと同じ言葉だった。


修吾はマリを見つめると、強く頷いた。
「ずっと一緒にいようね」

彼のその気持ちにも、嘘は1つもなかった。

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