最後のラブレター ~現代版『椿姫』~
夢のような時間
約束の時間の10分前。
マリは修吾との待ち合わせ場所である五本木ヒルズの入り口に到着した。
「よしっ、10分前到着!」
マリは起業する前、某有名アパレルメーカーに販売員として勤務していたことがあった。
研修がやたら厳しいことで業界内でも有名だったが、特に時間には厳しかった。
「5分前行動厳守」は当たり前だった。
時間に少しでも遅れると、そこにいるメンバー全員腕立て伏せ!
だから退職してからも、元スタッフの多くは時間をきちんと守ることが、そのまま習慣になっている。
マリも例外ではなかった。
しかし、
「マリさん!」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、黒のBMWから修吾が顔を覗かせていた。
修吾は、マリよりさらに早く到着していたのだった。
「あっ、どうも!」
マリはBMWに駆け寄ると、思わず修吾に深々とお辞儀をした。
少し慌てていた。
修吾は助手席のドアを開けると
「お店を予約してあるから、ご案内しますよ。
車酔いとか大丈夫?」
と声をかけた。
「はい、大丈夫です!」
マリはもう1つお辞儀をすると、助手席に乗り込んだ。
*
「ハハハハハ、そんなに慌てなくてもいいのに」
車を走らせながら、修吾は笑った。
マリは緊張しながら答えた。
「いえ、その、車で来るとは思ってなかったので。
それに…早いなって」
「うん、会社にも、いつも誰よりも早く出社しているんですよ」
「えっ!?そうなんですか!?」
「朝の誰もいない時間の方が、仕事がはかどるから。
それに時々、仕事前にジムに行くこともあるし」
「…そうなんですね」
仕事や商談が入っていないときは昼近くまで寝ていることもあるマリは、とてもそれを口には出せなかった。
(さすが、これだけの大企業で成功している方は、生活スタイルからして違うんだわ…)
彼女の生活がなんだかとてもだらしないように感じられて、恥ずかしくなった。
同時に
(この方のように生活したら、成功へ近付くのも夢ではないのかも…!)
と、少しだけ希望も持てた。
*
「さあ、着きましたよ」
修吾が車を停めたのは、都内の一等地にある料亭だった。
「ここは、接待や商談でよく来る店なんだ」
(うわぁ…こんなすごいお店によく来るなんて!)
マリは目を見開いた。
(彼は本当に、一流の人なのね…)
普通の女性だったら、ここでひたすら
「修吾のような男性のお嫁さんになりたい!」
と熱望するかも知れない。
だが、マリは違っていた。
彼に憧れを抱くと同時に
(私も、こんなお店に普通に行けるようになりたい…)
と、小さな「野心」が生まれた。
お店もさることながら、ここで出される料理も絶品だった。
刺身や寿司の鮮度が、当然のことながら回転寿司とは全く違った。
「トロだけに、舌の上でトロけそうですね!」
そんなオヤジギャグを言う気にさえなれないマリ。
修吾はというと、食べる前にスマホを取り出し、自社SNSの自分のアカウントに上げるための写真を撮影していた。
マリも修吾のSNSを何度となく見ていたが、さすがのSNS映え!と、いつも感心していた。
食事が終わると2人は車に乗り込み、天気が良かったので都内をドライブした。
マリが仕事で何度も足を運んでいるイベント会場の前も通った。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
いつしか2人は敬語を使うのをやめ、親しげに「修吾さん」「マリちゃん」と呼び合うようになっていた。
辺りが薄暗くなりかけた頃、修吾は車をマリの自宅へ向けて走らせながら、こう言った。
「マリちゃん、また、こうして会ってくれるかな?」
「ええ、もちろん喜んで!」
*
修吾とマリが交際を始めるまでに、それほど時間はかからなかった。
2人は度々都内でデートして、時にはマリが修吾のマンションに泊まることもあった。
大成功を掴んだものの愛だけが足りなかった修吾と、いつも自分に自信が持てなかったマリに、愛に溢れた幸せな時間が訪れた。
「こんな時間が、ずっと続いてほしい…」
2人はそう願っていた。
マリは修吾との待ち合わせ場所である五本木ヒルズの入り口に到着した。
「よしっ、10分前到着!」
マリは起業する前、某有名アパレルメーカーに販売員として勤務していたことがあった。
研修がやたら厳しいことで業界内でも有名だったが、特に時間には厳しかった。
「5分前行動厳守」は当たり前だった。
時間に少しでも遅れると、そこにいるメンバー全員腕立て伏せ!
だから退職してからも、元スタッフの多くは時間をきちんと守ることが、そのまま習慣になっている。
マリも例外ではなかった。
しかし、
「マリさん!」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、黒のBMWから修吾が顔を覗かせていた。
修吾は、マリよりさらに早く到着していたのだった。
「あっ、どうも!」
マリはBMWに駆け寄ると、思わず修吾に深々とお辞儀をした。
少し慌てていた。
修吾は助手席のドアを開けると
「お店を予約してあるから、ご案内しますよ。
車酔いとか大丈夫?」
と声をかけた。
「はい、大丈夫です!」
マリはもう1つお辞儀をすると、助手席に乗り込んだ。
*
「ハハハハハ、そんなに慌てなくてもいいのに」
車を走らせながら、修吾は笑った。
マリは緊張しながら答えた。
「いえ、その、車で来るとは思ってなかったので。
それに…早いなって」
「うん、会社にも、いつも誰よりも早く出社しているんですよ」
「えっ!?そうなんですか!?」
「朝の誰もいない時間の方が、仕事がはかどるから。
それに時々、仕事前にジムに行くこともあるし」
「…そうなんですね」
仕事や商談が入っていないときは昼近くまで寝ていることもあるマリは、とてもそれを口には出せなかった。
(さすが、これだけの大企業で成功している方は、生活スタイルからして違うんだわ…)
彼女の生活がなんだかとてもだらしないように感じられて、恥ずかしくなった。
同時に
(この方のように生活したら、成功へ近付くのも夢ではないのかも…!)
と、少しだけ希望も持てた。
*
「さあ、着きましたよ」
修吾が車を停めたのは、都内の一等地にある料亭だった。
「ここは、接待や商談でよく来る店なんだ」
(うわぁ…こんなすごいお店によく来るなんて!)
マリは目を見開いた。
(彼は本当に、一流の人なのね…)
普通の女性だったら、ここでひたすら
「修吾のような男性のお嫁さんになりたい!」
と熱望するかも知れない。
だが、マリは違っていた。
彼に憧れを抱くと同時に
(私も、こんなお店に普通に行けるようになりたい…)
と、小さな「野心」が生まれた。
お店もさることながら、ここで出される料理も絶品だった。
刺身や寿司の鮮度が、当然のことながら回転寿司とは全く違った。
「トロだけに、舌の上でトロけそうですね!」
そんなオヤジギャグを言う気にさえなれないマリ。
修吾はというと、食べる前にスマホを取り出し、自社SNSの自分のアカウントに上げるための写真を撮影していた。
マリも修吾のSNSを何度となく見ていたが、さすがのSNS映え!と、いつも感心していた。
食事が終わると2人は車に乗り込み、天気が良かったので都内をドライブした。
マリが仕事で何度も足を運んでいるイベント会場の前も通った。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
いつしか2人は敬語を使うのをやめ、親しげに「修吾さん」「マリちゃん」と呼び合うようになっていた。
辺りが薄暗くなりかけた頃、修吾は車をマリの自宅へ向けて走らせながら、こう言った。
「マリちゃん、また、こうして会ってくれるかな?」
「ええ、もちろん喜んで!」
*
修吾とマリが交際を始めるまでに、それほど時間はかからなかった。
2人は度々都内でデートして、時にはマリが修吾のマンションに泊まることもあった。
大成功を掴んだものの愛だけが足りなかった修吾と、いつも自分に自信が持てなかったマリに、愛に溢れた幸せな時間が訪れた。
「こんな時間が、ずっと続いてほしい…」
2人はそう願っていた。
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