最後のラブレター ~現代版『椿姫』~

のんにゃん

共通点

「すみません、なんだか気を使わせてしまって…」

関係者控え室の椅子に座ったマリは、修吾から紙コップに入った水を受け取りながら、申し訳なさそうに言った。

「急にお腹が痛くなってしまって。セミナーの間は夢中だったので、全然大丈夫だったのですが…」

「女性に『冷え』は大敵ですよね」

修吾は冷房の設定温度を見た。

「冷房、強かったですか?」

「いいえ、大丈夫です。薬も飲んだし…。
少し休んだら帰ります」

「よかったら、使ってください」

修吾はマリにブランケットを差し出した。


マリがブランケットを膝の上に広げている間、修吾は続けた。

「僕、ああいうの、ちょっと苦手でね…」

マリは少し驚いた。

「えっ?プレゼンが、ですか?」

「いや、懇親会」

「そうなんですか?名刺交換を希望される女性の方で、行列ができてましたよね」

「うん。…ああいうの、実は苦手で…」


意外だな、とマリは思った。


マリの知っている「モテる男」は、みんな
「女はたくさんいる中から選び放題!」
と、自慢していた。

修吾もあの懇親会でできた
「起業女子の行列」
の中から、あわよくば好みの女性を選んで…というタイプだと、当然のように思っていた。


だから思わず
「イメージと違いますね」
と言って笑ってしまった。


「えっ、なんで笑うんですか?何か変ですか?」

戸惑う修吾に、マリは答えた

「だって、絶対モテる人だと思ったんですもの」

「よく言われます(笑)
でも、『いかにもイケメン実業家狙い』って感じの女性って苦手なんです。
あとは起業女子によくいる、変にギラギラしたタイプの女性も」

「あら、私も起業女子だけど?
変にギラギラしている?」

「い、いや、してないですよ!」

「ふふふ」


「好きなもの」ではなく「苦手なもの」が同じだと分かった2人は、いつしかテーブルを挟んで座り、談笑していた。

マリの生理痛も、すっかり和らいでいた。



ふとマリが腕時計を見ると、懇親会終了の15分前となっていた。

「まあ、すっかり話し込んでしまいました。
そろそろ帰ります」

ブランケットを畳んで椅子に置き、立ち上がろうとした彼女に、修吾は名刺を差し出した。

「今日はありがとうございました。
photobook株式会社の佐藤修吾です。
また何かの機会があれば」

マリは受け取ると、自分の名刺を修吾に渡した。

「吉岡マリです。今日は本当に助かりました。ありがとうございました!」

「出口までお送りします」

修吾が控室のドアを開け、2人は外へ出た。


*

「あの人のお陰で、今日は助かった。
修吾さん、と仰ったわね」

帰りの電車の中で、マリは修吾の名刺を見た。

「見た目はいかにも『イケメン青年実業家』な人なのに、話してみたら全然違う人だったな…」


そんなことを考えていると、マリのスマホの通知が鳴った。


修吾からの、SNSの友達申請だった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品