最後のラブレター ~現代版『椿姫』~
出会い
吉岡マリ・28歳。
個人事業主として、いわゆる「プチ起業」をしていた。
仕事はまあまあ上手くいってはいたが、次第に
「もっと事業を大きくしたい」
と考えるようになり、その方法を模索している最中だった。
彼女が目をつけたのは、SNSだった。
マリ自身も周囲の人間たちも、みんなSNSをやっていたが、ほとんどの人はたまに食べ物やペットや子供の写真を載せ、あとは「見る専門」だった。
しかし、こんなに多くの人がSNSをやっている時代になって、これを事業のPRに生かさない手はないだろう。
そう思っていた矢先、まさに大手SNSでこの
「女性起業家セミナー」
の参加者募集を見つけ、申し込んだのだった。
セミナーの内容は、マリにとって参考になり、同時に刺激にもなるものだった。
しかし、周りに座っていた「女性起業家」の面々を見て、がっかりしたのも事実だった。
そこに集まっていた多くの女性起業家たちは、まるで「女子会」のように着飾り、ビジネスというよりは
「素敵な男性との出会い」
を探しに来たようにしか見えなかった。
その象徴的な光景が、さっきまで壇上でプレゼンをしていたイケメン青年実業家・修吾の前に懇親会でできた、名刺交換を希望する女性たちの長い行列だった。
マリも28歳で独身である。
確かに、壇上の修吾を見て
「理想的な男性だわ」
とは思った。
しかし同時に
「私のような女には、きっと彼は縁のない世界の人間なのだ」
とも思い、他の女性参加者たちのようにその名刺交換の列に加わろうとはしなかった。
彼女がそう思った理由は、それまでの経歴にあった。
マリの両親は、彼女が3歳のときに離婚。
彼女は決して裕福とは言えない環境で育った。
大学の学費のために奨学金を借りたが、それだけでは足りず、やむなくキャバクラなどの水商売をしていたこともあった。
苦学生だったのだ。
マリのその経歴に対し、世間の風当たりは強かった。
「奨学金という『借金』を安易に借りて大学へ行くなんて、何も考えていない!」
「働きながら学べばいいのに、無計画だ!」
「おまけに水商売だなんて、なんてふしだらな!」
数年前に交際していた彼氏にも、彼女のこの経歴を理由に別れを告げられた。
「私の経歴は、そんなにひどいんだ。『借金持ち』に『元水商売』。
だったら、私は男になんか頼らない。
ひとりで成功しなきゃ!」
マリはそれ以来、いつもそう思って生きてきた。
*
「…痛っ…!」
懇親会が始まっていくらもたたないうちに、マリは下腹部に痛みを覚えた。
セミナーの間は夢中で忘れていた生理痛が、突然襲ってきたのだった。
「どうしよう…痛み止めはカバンの中にあったはずだけど…」
とりあえず化粧室に入り、薬を探した。
薬はすぐに見付かったが、飲むための水がない。
化粧室を出て水を探そうとしていたマリに、誰かが声をかけた。
「大丈夫ですか?」
修吾だった。
個人事業主として、いわゆる「プチ起業」をしていた。
仕事はまあまあ上手くいってはいたが、次第に
「もっと事業を大きくしたい」
と考えるようになり、その方法を模索している最中だった。
彼女が目をつけたのは、SNSだった。
マリ自身も周囲の人間たちも、みんなSNSをやっていたが、ほとんどの人はたまに食べ物やペットや子供の写真を載せ、あとは「見る専門」だった。
しかし、こんなに多くの人がSNSをやっている時代になって、これを事業のPRに生かさない手はないだろう。
そう思っていた矢先、まさに大手SNSでこの
「女性起業家セミナー」
の参加者募集を見つけ、申し込んだのだった。
セミナーの内容は、マリにとって参考になり、同時に刺激にもなるものだった。
しかし、周りに座っていた「女性起業家」の面々を見て、がっかりしたのも事実だった。
そこに集まっていた多くの女性起業家たちは、まるで「女子会」のように着飾り、ビジネスというよりは
「素敵な男性との出会い」
を探しに来たようにしか見えなかった。
その象徴的な光景が、さっきまで壇上でプレゼンをしていたイケメン青年実業家・修吾の前に懇親会でできた、名刺交換を希望する女性たちの長い行列だった。
マリも28歳で独身である。
確かに、壇上の修吾を見て
「理想的な男性だわ」
とは思った。
しかし同時に
「私のような女には、きっと彼は縁のない世界の人間なのだ」
とも思い、他の女性参加者たちのようにその名刺交換の列に加わろうとはしなかった。
彼女がそう思った理由は、それまでの経歴にあった。
マリの両親は、彼女が3歳のときに離婚。
彼女は決して裕福とは言えない環境で育った。
大学の学費のために奨学金を借りたが、それだけでは足りず、やむなくキャバクラなどの水商売をしていたこともあった。
苦学生だったのだ。
マリのその経歴に対し、世間の風当たりは強かった。
「奨学金という『借金』を安易に借りて大学へ行くなんて、何も考えていない!」
「働きながら学べばいいのに、無計画だ!」
「おまけに水商売だなんて、なんてふしだらな!」
数年前に交際していた彼氏にも、彼女のこの経歴を理由に別れを告げられた。
「私の経歴は、そんなにひどいんだ。『借金持ち』に『元水商売』。
だったら、私は男になんか頼らない。
ひとりで成功しなきゃ!」
マリはそれ以来、いつもそう思って生きてきた。
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「…痛っ…!」
懇親会が始まっていくらもたたないうちに、マリは下腹部に痛みを覚えた。
セミナーの間は夢中で忘れていた生理痛が、突然襲ってきたのだった。
「どうしよう…痛み止めはカバンの中にあったはずだけど…」
とりあえず化粧室に入り、薬を探した。
薬はすぐに見付かったが、飲むための水がない。
化粧室を出て水を探そうとしていたマリに、誰かが声をかけた。
「大丈夫ですか?」
修吾だった。
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