最後のラブレター ~現代版『椿姫』~

のんにゃん

プレゼン

その日修吾は、女性起業家のためのセミナーでプレゼンをすることになっていた。

控室で関係者への挨拶を済ませ、ふと時計を見る。

まだスタンバイするまでには少し時間があったので、気分転換でもしようと、彼は会場の出入口へ向かった。


修吾はタバコを吸わない。
その代わり、コーヒーにはこだわりがある。

近くのカフェで「本日のおすすめブレンド」のコーヒーをテイクアウトし、会場の外のベンチに戻り、腰を下ろした。


「最近流行りの『起業女子』って、なんか苦手なんだよな…」

彼は思った。


「起業女子」とやらは、やたらギラギラしていて、とにかく人脈を作ることに必死で

「私、頑張ってます!!!!」

というアピールが暑苦しい。


女性らしい

「かわいらしさ」

が、微塵も感じられない。

そのくせ、「人脈を作る」ための手段は

「起業女子お茶会」

と相場が決まっている。

「俺の彼女にするなら、ああいう女は絶対にごめんだな」

熱いコーヒーを1口飲み、修吾は考えた。

「起業は『奥様・お嬢様の趣味』感覚でできるほど、甘くない。
それなのに、セレブぶってお茶会とか…なめんなよ」


彼自身、青年実業家としてそれなりに成功をおさめるまでは、毎日が戦いだったのだ。

優雅に「お茶会」なんて、とんでもない。

その程度の感覚で女社長気取りだなんて、とても信じられない。

だから今回のセミナー登壇は「起業女子」との人脈を作るためというよりは、彼の所属する大手SNS運営企業のためと思っていた。

ここで得られる「新たな人脈」に、修吾は全く期待していなかったのだ。


*


プレゼンは大成功だった。

鳴りやまない拍手の中、修吾はステージから降りた。

「いやー、素晴らしかったよ!
今後はインターネットで画像を介して繋がっていくタイプのSNSが、世の中の宣伝のメインになっていくはずだ」

若手の頃からずっと一緒にやってきた社長が、修吾をねぎらった。


その後は、バイキング形式で軽食を取りながらの懇親会。

細身でイケメンの修吾の前には、すぐに彼との名刺交換を希望する女性たちの行列ができた。


修吾にとっては、正直逃げ出したいような時間だったが

「これも仕事のため」

と割り切り、自らの「事業」について熱弁する女性たちの話に笑顔で耳を傾けていた。


その様子を、少し離れた場所から冷ややかに見ている女性がいた。


吉岡マリだった。

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