異能力者戦記〜Awakening of Power〜

つぶあん

第一話 日常

 
「……っべ〜遅刻遅刻!!」


そう言いながら学校までの坂道を足早に駆けて行く。


「新学期初日から遅刻とか…絶対先生に目ぇ付けられちまう……頼む!!間に合ってくれぇぇぇ!!!」


そんな願い虚しく重々しい音と共に閉まって行く校門。


「クッソぉぉぉぉぉ!!!!」


何故か周りにはまったく人が居ない。だが、ここなら十分能力を使えそうだ。
脚に意識を集中させ、能力を発動する。上半身の力が抜け、脚に力が入り坂を駆けていく。


「よし…これなら間に合う!!行っけぇぇ!!!!」


ガァンという音と共に校門が閉まり、間一髪の所で滑り込む。


「いやぁ〜あっぶねぇ〜なんとか間に合ったわぁ〜」


『ちょっと、そこの君』


校門前に立っていた教師が肩を叩き、俺に話しかけてくる。いかにも体育教師って感じのゴツい体系をしている。


『君、遅刻だよ。後で遅刻届けを職員室まで取りに来るように。』


「へ?どうしてっすか!?俺ちゃんとチャイム鳴るまでに入ったじゃないですか!!」


『いや、もうチャイム鳴ってるからね。』


「嘘ぉぉぉぉぉ!!!!?」


衝撃の真実を知り、そこで膝を折る。
そんな俺を横目にゴツい教師はそそくさと走り去って行った。
 朝礼が終わり、職員室へ遅刻届を取りに行く。


「1年B組の黒椰空馳くろやそらたでーす。遅刻届け取りに来ました〜」


だるそうな感じで職員室に入ると、担任教師の高橋先生の所に連れて行かれた。


『えーっと、黒椰空馳…君?遅刻届、貰いに来たのよね?』


「はい。」


『じゃあ、これに名前と遅刻理由書いてね。』


サラサラと名前と遅刻理由を書き、先生に提出する。 


『理由…寝坊って…こんな歳にもなって寝坊って…』


「はぃ…」


と苦笑いしながら返答する。
職員室から帰る途中、気が沈んでいる中、朝遅刻して来た時の光景を思い出す。


『うわぁ…なんだよアイツ…新学年早々遅刻かよ…だっせ…』


『アイツもう選抜終わったな…』


「……るせぇ……!」


ーーーーー教室ーーーーー


 「いやぁ〜新学期早々からやらかしてくれんじゃ〜ん空馳そらたさんよぉ〜〜ww」


教室に入ってくると真っ先に茶化してくるのは俺の中学からの友達の宮間唯斗みやまゆいとだ。


「よぉ、唯斗ぉ〜」


『なんだね?遅刻の空馳君?w』


「お前後で覚えとけよ!ったく…」


一瞬の静寂が訪れた後、教室に入ってきたときのとある単語を思い出す。


「そうだ!選抜!!」


『選抜がどうした?』


「なぁ、唯斗、選抜って何だ??」


アホを見るような目で唯斗が返す。


『はぁ…お前なんも聞いてないのな。選抜ってのは、養成学校に行く生徒が出られる大会みたいなもんで、上位入賞者にはDSCFデセフの部隊に1週間仮入隊出来るっていうイベントだ。てか、お前朝礼寝てたろ。』


「寝てねえし!ってゆーか俺遅刻してきたから聞いてねえよ。」


『そーいやそうだったなぁ〜遅刻の空馳君w。』


「そんな事より説明!…はもうしたか。悪りぃ……んで、上位に入ればDSCFデセフに仮入隊できるのか…隊とかって選べるのか?」


『知らね。まぁ、とにかくまずは上位入賞者に入るのが先決だろ?』


「どうせ選べるんだったら第5部隊にいる楓さんの所行きたかったんだけどなぁ〜」


『知り合いって、あの美人さんの?』


「ああ。…ってキモい顔すんなよ…」


楓さんというのは、四つ上の先輩で、俺が小さい
時によくしてくれた、不知火楓しらぬいかえでさんだ。何気に初恋の相手でもある。


『いいよなぁ……あんな美人さんが知り合いとか…
」 
「いやぁ…なんであん時一緒に風呂入らなかったのか
謎で謎で…っておぉい!」


『てめぇ……やはりお前は敵だぁ!!』


唯斗の身体から出る熱気が強くなるのを感じる。


「待て待て!未遂だ!み・す・い!!」


『コイツ…絶対入ったな…!』


そんな他愛のない話をしていると先生が入ってくる。


「はいはい!席に着いて!授業始めるぞー!」


こうして俺の新しい学校生活が始まる……


-ーーーー放課後ーーーーー


 『なぁ空馳ー』


「何だい唯斗君?」


『なんか朝からコロコロキャラ変わってないか…?じゃなくて!どうせ、「選抜出たいけど登録の仕方分からん!!」とか思ってたんじゃねーか?』


「お前もしかして俺の心読めたりする…?恐ろし…」


『んな訳。そんな事よりとっとと行くぞ〜俺も選抜に出る予定だからな。』


そうして俺達は選抜の登録をする為、職員室へ向かった。
「こんな紙書くだけでいいのか?」


『おう。そこの箱ん中入れとけよ〜』


登録用の紙を入れ終え、帰ろうと生徒玄関に行こうとした時、


『あっれぇ〜?朝遅刻して来た空馳君じゃぁ〜ないですかぁ〜』


そう言いながら唯斗よりウザ目に煽ったきたのはD組の天宮凪あまみやなぎだ。何故こんなに煽って来るのかと言えば、中学3年間同じクラスだったが、能力試験で毎度コテンパンにされまくっていたからだ。


「なんだよ天宮…恋人に会ったみたいにはしゃいでさあ…」


『どうせ君も選抜に出るんだろう?その顔を見ればす
ぐに分かるw』


小馬鹿にした調子で続ける。


『まぁ、どうせ僕と当たる前に負けるだろうけどねw日頃の素行も悪いしw』


「え?選抜って日頃の素行も評価対象!?」


『当たり前じゃないか。仮にもDSCFデセフに入隊するんだよ?君のような奴が入ったりでもしたら評判が落ちるじゃないかw僕は君と違って遅刻も無し、授業態度も良い。まぁ、雑魚なりに頑張りたまえww』


いつもの煽りが終わると満足したように帰って行く。


「…ったくなんだよ雑魚なりにって…いつも通りなんだが…妙に腹立つな…」


『おい空馳。毎度毎度、言われっぱなしでいいのか
よ!…ここいらでアイツにいっちょかましてやろう
ぜ!』


「そう…だな。やってやるかあ!」


それから選抜までの2ヶ月間、唯斗と共に特訓に励んだ。…といっても、やってたのは能力を使った模擬戦が大半だった。


ーーーーー近所の公園ーーーーー


『やっぱさぁ〜』


「なんだよ。急に」


『空馳…お前の能力地味じゃね?』


模擬戦の後で互いに息を切らしながら話す。


「何言ってんだよwそんなの今更じゃねぇかw」


俺の能力は力量移動ムーブメント。自分の体にかける力の割合を操る、というものだ。といっても普通の人にも、この力量移動ムーブメントは可能だ。踏ん張る時に足に力が入る、みたいな感じ。だが、俺の場合は普通の人よりもその力量移動ムーブメントが出来る。簡単に例えると、普通の人は体内にある「100」の力の内、「10」しか腕や足に移動させることができない。どれだけ訓練しても15〜20が限界だ。だが俺は「100」の力全てを腕や足に移動することが出来る。その代わり、力が抜けていった箇所は入る力も小さくなっていくし、力を動かすためには結構な気力を消費する為、乱用出来ない。
一方、唯斗の能力は大いなる蒼炎グランドフレイムだ。その名の通り身体から蒼い炎を出すことが出来る。体液にも大いなる蒼炎グランドフレイムが使える為、遠距離の攻撃も可能だ。しかし、炎を出す為には体内の熱エネルギーを使わなければならず、能力を使いすぎると低体温症で動けなくなってしまう。


「いいよなぁ…唯斗は…炎出せるんだもん…」


『いやいや、炎出せるつってもこれ俺の熱だから使いすぎると身体めっちゃ冷えるし…クソ寒いんだぞ…こっちは。…さて、身体もそろそろ暖まってきたし、もう1回いっとくか!』


「おう!」
















互いに拳を構える。


















先に動いたのは俺の方だった。力量移動ムーブメントを使い、上半身から足に30の力を持ってくる。勢い良く踏み込み、唯斗の懐に潜り込む。


『さっきと…変わんなぇ…なぁ!』


唯斗は大いなる蒼炎グランドフレイムを使い、俺との距離を離していく。


「このままじゃ……追いつか…ねぇ!」


さらに上半身から足に20の力を持ってくる。そして残った力の内30を右腕に移動させる。唯斗も俺の力量移動ムーブメント使用に気付いたのか、一旦距離を開け、先程よりも速いスピードで迫って来る。


「(加速なら俺の方が上だ…行ける!)」


唯斗の目の前でさらに踏み込み、渾身の一撃を叩き込む。しかし、俺の拳が唯斗に届くよりも早く、顔面への鈍い痛みが俺を襲った。


「うぐああぁぁッ!………な…んだ…今……の…一瞬……アイツの腕が……消えた……?」


突然の痛みに思考が追いつかない。考えようとしても脳がそれを阻む。


『お前が踏み込んで殴りに来る時に膝から炎を出して威力とスピードを上げたのさ。…ってか、大丈夫か?殴ってから言うのもあれだけど……』


少し申し訳なさそうな感じで唯斗が言う。


「あぁ…なんとかな……うぅッ!…まだ少し…クラクラするな……」


『まぁ、予選はこんなだだっ広いとこじゃねぇと思うし、奇襲ならさっきの動きも中々悪くなかった。後はもう少し頭使えよ。正面からのタイマンじゃ、お前の勝ち目は薄い。』


「頭…か……」


言われてみれば、今まで腕や足など、攻撃する所ばかり力を移動させてきたが、頭には移動させていないことに気付く。


「少しやってみっか……」


今までと同じく、全身の力の50を頭に移動させる。


























































































激しい砂嵐と不快なノイズが頭を襲う。












































「ああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!ぐッッッッ!!!!!ああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!」










































『お、おい……大丈夫か!?』












































唯斗の声を構成する一音一音がはっきりと分かる。
















































そして気付く。














































周りの草木や家、動物、無機物から有機物まで、モノがどう繋がり、どんな物質で、どのように構成されているかが全て視覚の情報として入ってくる。










































「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッ!!!!!!!!ぐあああああああああぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!!」












































処理し切れない程の情報が一気に脳に流れ込んで来る。
そして俺の意識は闇へと消える…

























































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