私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~

霧内杳

2-1.初めての……夜?

「チー」

覆い被さった京屋部長が私を見下ろしてくる。

どこかのドラマに出てきそうなおしゃれな部屋の、広いベッドの上。
シュルッとネクタイを緩める彼を、間抜けにもぼーっと見ていた。

「……好きだ」

熱い吐息が耳にかかり、ぶるりと身体が震える。
おそるおそる見上げると、レンズの向こうの熱を孕んだ瞳と目があった。
そっと京屋部長の手が私の頬に触れ、唇が重なる。

――えっと。

なんでこんなことになってるんだっけ……?



食事のあと、一緒のタクシーに乗った。
送ってくれるのだろうと思ったけれど。
タクシーが走りだしたのは、私のアパートと反対方向だった。

「泊まるだろ」

「は?」

いや、さっき付き合うって返事はしましたが、ただそれだけで。
しかもいきなり、ですか?

「いえ、今日は帰りますので。
運転手さん、……!」

いきなり、遮るようにその唇で口を塞がれた。

「なにするんじゃー!」

――バッシーン!

狭い車内に、私が頬を叩いた痛そうな音が響く。

「いってーな」

いや、痛いならそんな顔して?
叩かれた頬を押さえて、愉しそうにニヤニヤ笑わないで?

「じゃじゃ馬を乗りこなすのも燃えるんだけど」

ニヤリ、と京屋部長が右の口端だけを上げて笑い、身の危険を感じる。
なんか私、早まったことをしたんじゃないだろうか。


「今日は俺んちにお泊まり。
明日はデート。
それで決まり」

なんで決まりなんだろう?
私の都合は無視か。

「明日は掃除とか洗濯とかしなきゃいけないんですが」

「日曜にすればいいだろ。
……あ、いや、日曜もデートだから、平日にすればいい」

ちょっと待て。
日曜もデートってなに?
そもそも平日は誰かさんのせいで忙しくて、帰ってからなにもする気になれないもんだから掃除洗濯が溜まってるんだってーの。

「いや、帰りますので、もうこのまま近くの駅に降ろしてください、運転手さん」

京屋部長になにか言うだけ無駄なので、運転手さんに話を振った、が。

「残念ながら都市高に乗っていますので無理ですね」

「うっ」

天は我を見放したのか……。
それにしても京屋部長のお宅って、どこなんだろう?

「なら、京屋部長を降ろしたら、私の家に回ってください。
だったら問題ないですよね?」

「いーけどお前、タクシー代払えるの?」

「うっ」

メーターはどんどん回り続けている。
この金額にプラスアルファのタクシー代はお財布に厳しい……。
けれどこのままでは……。

「な、なら。
都市高降りて最寄りの駅で降ろしてください」

「もう終電、ねーんじゃない?」

「うっ」

あんな時間からフレンチのフルコースを食べれば、当然遅くなる。
すでに日付は変わっていた。

「だいたい、こんな遅い時間にチーをひとり歩きとかさせられるわけないだろ。
襲われたら困る」

どの口がそれを言う。
お前がいまから、襲う気満々のくせに。

「じゃ、じゃあ。
近くのネカフェ!
ネカフェに降ろしてください」

「あー、残念だねー。
あの辺りにネカフェなんて一軒も、ない」

「えーっ」

「そもそも、ネカフェでチーがひとりで夜明かしとか危険なこと、許可できるわけがない」

困っている私と反対に、京屋部長は酷く愉しそうだ。
しかも運転手さんまでバカップルの戯れと思っているのか、くすくすと笑っている。

「諦めてうちに泊まれ」

「うっ。
……な、なにもしないですよね?」

「んー?」

あの顔は絶対に、なにかする気だ。
ううっ、身の危険だよー。

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