世界最強の男の娘

光井ヒロト

22話  動き




 朝早くに話があるため学院に来て欲しいという報せが届いたので、いつもより早めに学院に行く。他の教師に見つからないように気配を消して足音も魔法で消して、学院長室に向かう。

 中から何やら騒ぎ声が聞こえてくる。一つはグレイズのものだが、もう一つは知らない声だ。

「学院から既に一人の被害者が出ているのですよ。それに対し貴方はという方は。何の対策もせず、これは怠慢というものですよ、学院長。べーボース公爵閣下に報告させていただきますよ?」

「対策ならする」

「既に一人の被害者が出ていて対策ですか?遅すぎる決断ですなぁ、学院長」

「もう戻れ、ブンドル」

「っ!報告させていただきますから」

 ニヤニヤとした気色悪い笑みを浮かべながら学院長室から出ていく。べーボース公爵に報告されたとしても奴には学院に口を出す権限はないし、出したとしても悪事を報告すると言われれば奴は手を出すに出せない。

「申し訳ございません、レイ様。お見苦しい所をお見せしました」

「そうでもないさ」

 グレイズは俺が気配を消しても直ぐに気づいてくる。ここに来るまでの教師といい、あの教師といい気付いていなかったところを見ると、やはりグレイズは優秀ということだ。

 室内の中央にある椅子に座り、グレイズと向かい合う。先程の話の内容から大方は理解出来ている。

「申し訳ございません、朝早くに。実は厄介なことが起こりまして」

「大体把握している」

「流石にございます。昔、王都に『呪縛の庭園』という犯罪組織があったのですが、その組織がまた動き出したようなのです。四代前の騎士団長により潰されたようですが、報告では頭を潰しても直ぐに湧いてくるようです。昔の恨みで力を蓄えてから出てきたのか、それとも名前を取っただけの新しい組織なのかは定かでは無いのですが、裏にはべーボース公爵がいると思われます」

「調べてあるな?センス」

「勿論です。グレイズ殿の申した通り裏にはべーボース公爵がいます。昔に完璧に潰されていますので、今回の奴らは新参組織です。前にも何度か同じように名前を取っただけの組織が出てきて、潰されています。今回も同様でしょう」

「なるほど。手の空いている十戒を王都に招集して王族派と中立の貴族の護衛をしろ。七福神も呼んでおけ」

「御意に」

「学院も教師全員に警戒態勢を敷かせろ。警備員も増員しろ。そのうち学院に侵入しに来るだろうから」

「了解しました」

「べーボースの介入は気にするな。俺が止めておく」

「了解しました」

 こういう時は先ず初めに、警戒していますよとアピールをしておく。学院の警備をもってしても破られたなら、騎士団も動くことを考えるだろう。何より危惧することは国の重鎮の子息が攫われることだ。俺が陛下に何か言われてしまう。

 十戒と七福神が警戒しているので万が一はないとは思うが、ロイドにも警戒させておく。七福神が相手するのは大概が貴族だが、こういうこともすることで好感度が更に上がって良いことだ。

 さて、どう出るか。





 同日、王都のとある一角で黒ずくめの者たちが一堂に集まっている。五人の男が少し高い台の上で座っている。そしてもう少し高い所で三人の男が座っている。

「者共、静まれ」

 五人いる所の真ん中に座っている男が声を上げる。直ぐに静まり、周りの者たちは中心の男に目を向ける。

「目標は王女と公爵の娘と宰相の娘の三人。それ以外は捕まえ次第、帝国に送る。騎士団が出てくる前に終わらせてあっちに潜む」

「了解しました」

「解散だ」

 黒ずくめの者たちは小屋から出ていく。誰もいないことを確認すると、座っていた男たち八人で話し始める。

「閣下、直ぐに成功させますので」

「うむ、期待しているぞ。ワシもあのいけ好かない野郎を排除出来ることだしな」

「私も仲間を上手く騙せている。やはりアレはゴミの集まりだ。こっちに来て良かったよ」

「会長、あのガキは既にあっちに送られたのですか」

「うむ、あっちも男は要らんが、女なら大歓迎とのことだ」

「では、お前たち。期待しているぞ」

「「「「「お任せ下さい、閣下」」」」」

「うむ、上手い酒が飲めそうだ。付き合えよラン、ゾーリ」

「仕方がないですね、閣下」

「勿論、特上の酒をご用意させましょう」

「楽しみだな、グハハハハハ」

 一番上に座っていた中肉中背の男に、少し痩せた男、一番太っている男が笑いながら馬車で帰っていく。

 精々、楽しむことだな。








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