世界最強の男の娘
17話 視察〜後編〜
視察四日目。
今日と明日で視察は終わりだ。たった三日しか経っていないのだが、感覚では三日以上に感じている。陛下たち大人陣は何もないのだが、王子殿下とガイズは何を言っても冴えない返答しか返ってこず、手を焼いている。また、王女殿下はそこまでではないがローズとアメリスは仲良くなろうと必死にアプローチしてくるので、こちらの対応も手を焼いている。
「本日の午前は領都内で自由にして頂こうと思っております。道に迷えば自警団や衛兵に気軽にお声を掛けてください」
「うむ、ではアリス、行こうか」
「えぇ、あなた」
陛下は王妃のアリス様とデートだろう。同様にブーストン公爵夫妻とドンマナス侯爵夫妻も夫婦だけの時間にするらしい。オードス王子殿下はガイズと一緒で、アイリス王女殿下たちは女子三人組で行動するようだ。女性の買い物に男性が付き合うのは大変なことだからな。
ローズとアメリスに一緒に行こうと誘われたが、断った。何故かって?絶対疲れるからに決まっている。女性へ女性だけで行くのが一番良いのだ。残念そうにしていたが諦めてもらう。そうしてそれぞれで自由に過ごしたのであった。
昼は屋敷内で飯を食べることにする。そして、昼からはファッションショーがあるのでそれに行く予定だ。特等席を用意してもらい、見やすいように席を誘導する。
「この場で服を見せ合いますの?」
「左様にございます、王妃様。ここで服に興味を持ってもらい、買いたいと思えば購入してもらい、金を回すのですよ」
「ふむ、確かに効率は良いな。自分から興味を持てば金を出すだろうからな」
「これも王都に取り入れてみたいですな、陛下」
「面白そうだな、ワークス」
王都の服はほとんどが似たようなものだがら、客が飽きてしまうかもな。その点ここでは、様々な形、色、値段で楽しんでもらえている。
「ローズ、あの服とても可愛らしいですわね」
「えぇ、本当に。欲しいですわね」
「ならばローズ、後で買ってやろう」
「他にも欲しいものがあれば、遠慮なく言っていいのだぞ、アメリス」
「「ありがとうございます、お父様」」
「では、準備させておきますね」
「ありがとう、伯爵」
大成功だな。まさか即断で買うと決めるとは思わなかったのだが、踏ん切りが良いのは良いことだ。こちらも儲かるというものだし。女子三人組は合計、十三種類もの服を買うことにしたそうだ。二十五種類あるうちの半分もだ。騎士たちが持っているのが大変そうだった。
夕食を食べ終わり、風呂に入ってベットに入る。今日ももう終わりだ。だが、俺にはすることがある。この屋敷内に一室だけ、魔力と神力を加えてつくった特別な部屋がある。この部屋に入ることが出来るのは俺や。だけで、近寄ることが出来るのは今はロイドとミリースしかいない。他の悪魔と天使たちは近寄ることも出来ないそうだ。
俺はこの部屋に入り、座禅を組む。邪心を消して、心の中と頭の中を真っ白にする。そこには部屋と同様に魔力と神力で造った刀剣と扇子が置かれてある。銘は神魔刀アークハザードと神魔扇サルネリアス。刃は潰されていて人を斬ることは出来ないようになっているが、物理を斬れなくても精神生命体や魔法は斬ることが出来る。
その刀剣と扇子を使って剣扇舞を舞う。完全我流で身体の動くままに舞う。演目はそうだな、『異界』だな。最初にそれを見たロイドは、感激のあまり涙を流していた。
遠くから視線を感じる。この視線は宰相閣下だろう。近くには誰もいないが、直ぐにロイドが来れるようになっている。宰相閣下がこの部屋に入ることは出来ないだろうから、近寄ればロイドが止めに来るだろう。
なんという動きだ。滑らかで美しく、このままずっと見続けてしまうくらいに引き込まれる。揺れる白髪も美しく、艶やかである。
「近寄りすぎてはいけませんよ、宰相閣下」
「ロイド殿、あれは…?」
「見事な舞ですな、いつ見ても。レイ様はああして訓練をしているのですよ」
「訓練…なのか?」
「えぇ。神力と魔力を混ぜ合わせるようにして動いています。あの部屋には特殊な力、と言いましても神力なのですが、神力で常人は近寄れないのですよ」
「何者なのだろうか、彼は…?」
「それは本人と……神のみぞ知るというものでしょうな」
「そうか……っは、それでは私はこれで失礼する」
「ごゆっくりお休みください」
神が降りられたような動きだ。尊すぎて胸が熱くなる。一体、彼は……?
五日目。
今日で最終日だ。午前は闘技場で高ランク冒険者たちが魔物と闘うという娯楽のようなものだ。同時に賭けも開催されてよりいっそう楽しめる。
陛下たちをVIP席に案内して、少し待ってもらう。魔物は少し気合を入れたのか、Bランク以上の魔物が多く、Aランクも数体いる。VIP席はヒーリング効果が付与されている部屋なので、魔物の血を見て気分が悪くなることは中々ないだろうと思う。
今日はSランクの冒険者もいるので熱い闘いになりそうだな。
「ここには、こういう娯楽もあるのだな。これは飽きそうにないな。ずっと居られそうだ。人が多く集まるのも無理はない」
「そう言ってもらい、感激にございます。楽しんでいってください」
「よし、ワークス、クール、もう一度勝負だぞ」
「陛下には負けませんな」
「ですな、ワークス殿。今回はワークス殿に負けませんぞ」
「ふふふ、尋常に勝負、ですな」
「儂もおるぞい!」
一昨日の競馬でもそうだったがまた勝負をしている。盛り上がりすぎて、陛下は立って応援していた。それをアリス王妃は微笑んで見ている。あれだけ羽目を外してはしゃぐのは、久しぶりに見るのだろう。まぁ、賭けの結果は宰相閣下と公爵閣下の順位が変わっただけで、陛下は最下位だったのだが。
昼は屋敷でとって、午後からは自由に過ごしてもらう。明日の朝に帰るので最後の行動だ。アイリス王女殿下とガイズでデートに行けば良いのに、女子三人組で固まっている。大人の女性陣も三人で回るそうだ。陛下たちは屋敷に残る。俺に話があるそうだ。
「陛下、お話とは?」
「うむ、先ずは此度の視察、とても楽しませてもらったぞ」
「ありがとうございます」
「お主に色々忠告をと思ってな…」
「忠告ですか?」
「うむ、お主が不老不死であることを既に四人知っておる。儂らは口が固いが、問題はべーボースの奴だ。裏があるのは分かっておるのだが、証拠を残さん。十戒とも手を組んでいるそうだ」
「ほぉ」
「ブラック伯爵よ、十戒とは最近国内で活動している陰だ。誰が操っているかは分からず、分かっているのは名前と冠している言葉だけなのだ。だが、十戒だけを警戒していてはいけない。七福神という義賊も出てきている。資産家である商人や貴族から宝物金品を奪って、金に変え、村などに配り歩いている組織だ。こちらは構成員も分からず、神出鬼没で目を付けられれば逃げられないと専らの噂だ。だが、資産を奪われたものは全員悪事が見つかり捕らえられている。そこから、七福神にめを付けられれば悪事があるということで貴族や商人たちは怯えている」
「王都ではそのようなことが…」
惚けているが、もちろん知っている。十戒はもちろんのこと七福神もだ。奴らは元々はただの盗賊で義賊よりの盗賊だったので、鍛えて手駒にしたのだ。
「気をつけておれよ、いつ現れるか分からんからな。特に十戒だ。七福神に狙われるようなことをお主ならしてないだろうが、十戒には狙われる可能性がある」
「肝に銘じておきましょう」
「うむ、お主にはこちらも世話になるだろうからな。頼んだぞ」
「そうだな、ついでにローズも頼まれてくれると有り難いが」
「うちのアメリスもな」
「いえ、オードス王子殿下には婚約者は?」
「オードスには伯爵家から婚約者がおる。遠慮しなくていいのだぞ」
「いえ、遠慮しておきます」
「色々、期待しておこう」
こうして視察の日程が無事に全て終わり、陛下たちは王都に帰っていったのである。
そして、三年が経った。
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