世界最強の男の娘

光井ヒロト

16話  視察〜中編〜




 視察二日目。今日は午前中に街を一回りして、昼食をとり、午後からは競馬場で競馬の観戦をする。リストンが活気のある街だと主張して、昼食では選りすぐりの高級イタリアンレストランである。そして午後の競馬では、何度も優勝しているような誰が勝つか分からないレースになっていて、激しいレースが見れることだろう。

「ブラック伯爵、今日の案内宜しく頼むぞ」

「お任せ下さい、陛下。本日は、街を一回りしてから昼食をとり、競馬の観戦をして頂こうと思っております」

「伯爵よ、競馬とは?」

「ブーストン公爵閣下、競馬とは馬に乗って誰が一番速いか競うレースにございます。観客は誰が勝つかを予想し、お金を賭けて儲けるか、負けるかの緊張感を楽しめます。既に資産家になって商会を始めたものや、負け続けて小金持ちから転落した者もいます」

「なるほど、娯楽か。確かに勝てば何度も来そうになるかもな」

「では、参りましょうか」

 一行は街を回り始める。先ずは大通りを通り、主要な建物が見える通りを通っていく。陛下たちと文官が目を見張って街中を観察している。それ以外の人は目を輝かせて街を見ている。特に殿下たちに関しては、碌に外も出歩けないような箱入りだったのだろうから、こういう風に街を見て回るということが初めての体験だったのだろう。

 文官の人たちは書類に常に何か書いている。非常に気になるが、まぁ、書かれていることは大体分かる。悪いことは書かれてないはずだし。

「やはり改めて見て回ると壮観だな。王都よりも良いかもしれないな」

「いえ宰相閣下、まだまだ改良の余地はあるかと」

「まだまだ…か…」

「ここのレストランも料理は美味い。うちに料理人として来て欲しいくらいだ」

「はは、良い腕の者が集まってもらえたと思いますよ、公爵閣下」

「次の競馬も楽しみであるな」

「ですな陛下」

 今のところ楽しんでもらえている。このまま最高の視察を続けていきたいな。色々お世話になる可能性があるし。

「我々は競馬で誰が強いか分からんのだが」

「いえ、陛下。この領内の選りすぐりを集めましたので、良く競馬に来る人でも悩むと思います。運も楽しんでもらえるかと」

「運試しも一興…か。それも楽しみだな」

「レイ様、これは美味しいですね。とても気に入りましたわ」

「お気に召していただき恐悦至極でございます、王女殿下」

「そんなに畏まらなくてもいいですわ。アイリス、で構いませんわ」

「そうです、私のこともアメリスで構いません」

「わ、私もローズで構いませんわよ」

「そういう訳には…申し訳ございません、お嬢様方」

「うぅ、アメリス、このままではいけませんわね」

「そうですね、ローズ」

「私も混ざりたいなぁ」

「「アイリスは婚約者がいるでしょ!!」」

 三人は固まってコソコソ話をしている。将来的に王子殿下の婚約者になる人もこの中にはいるだろうし。結婚は俺にとってはダメだ。

「では、次に参りましょうか」

「そうだな」

 レストランのシェフに料金プラスチップを払って店を出る。さっきから王子殿下とガイズが全く話さない。偶に話題を降っているのだが、パッとしない返事しか返ってこない。陛下たちはそれに目立った反応はなしで、声をかけることもしない。大人たちだけで話している。

「ワークス、クールよ。誰が一番儲けるか勝負だな」

「陛下、私は負けませんぞ」

「陛下、ワークス殿にも悪いが私が勝たせてもらいますぞ」

「殿下もガイズ殿も賭けてもらって構いませんよ」

「あぁ、そうしようかな」

「僕もしようかな」

 やはり冴えない返答だ。何か不具合かと心配してしまう。だが、陛下たちが心配していないということは大丈夫なのだろうが。

 結果は宰相閣下が大勝ちしていた。次に公爵閣下で最後に陛下。少し落ち込んでいたが大丈夫だろう。王都にも競馬場をつくろうと言っていた。王妃たちが諌めていたのだが。そうして一日目が終わった。

 三日目。

 今日は衛兵と自警団の詰所を見に行く予定だ。二つに役割を分けているのはこの領独自の制度なのでしっかり説明していく。午前中に衛兵詰所、午後に自警団詰所を見に行く。昼食は庶民的な料理店に行く。

「この領では衛兵を二つに分けているのだな」

「はい、陛下。この領では、衛兵と自警団という呼び方をしております。今向かっているのは衛兵の方です。」

「何故分けているのだ?」

「それはですね宰相閣下、領都内に入る者を見分けながら領都内を見て回るというのは酷だということが分かったので。衛兵は門番だけを集中してもらうことで領都内に入る犯罪者や素行の悪い者を減らすことに貢献してもらっております」

「なるほど。人の出入りが多いと衛兵が多くないときついからな」

「左様です、公爵閣下」

 衛兵が忙しなく働いてるところが見えてくる。衛兵隊長のガートが絶え間なく指示出して、走り回っている。途中で手を止めて、こちらを向き馬車を見つけると、服装を整えてこちらに向かってくる。

「陛下、皆様、良くおいで下さいました。私は衛兵隊長をしておりますガートと申します」

「お主が責任者か。遠目から見たら仕事ぶりからお主がどれ程献身しているかが分かる」

「陛下、お褒めいただい恐悦至極にございます。これよりいっそう貢献しましょうぞ」

「期待しよう。では、しごとを見せてもらおう」

「はっ!」

 ガートは元の場所に戻っていく。この領では絶対に賄賂は受け取らないということをガートは掲げている。そんなガートを衛兵たちは尊敬していて従っている。騎士たちも仕事をしている衛兵たちをみて称賛している。

 昼食で特製のカレーをご馳走になり、こういうのもアリだと言ってもらえた。口に合わなかったらどうしようかと思ったが、心配なかったようだ。店主や店員たちも安心していた。

「次に向かうのは自警団の詰所です。こちらは主に領都内の警備をしてもらっております。おかげで夜も出歩くことが出来るようになりました。ですが、少々脳筋ですので無礼があるかもしれませんので、そこは御容赦下さいませ」

「うむ、楽しみだな。衛兵と自警団で仲違いをおこさないのか?」

「そこは衛兵隊長と自警団団長は兄弟ですので、文句があれば直接腹を割って話すようです。互いを尊重し、職務を全うしているので違いは起こりません」

「兄弟でこの領都を守っているのか。それは凄いな。そういう風に選んだのか?」

「いえ、偶然でございますよ」

 これは本当に偶然なのだ。俺も選んでから知ったのだ。まぁ、そのおかげもあって喧嘩は起こらない。

「これは陛下。俺はバートといいます。自警団詰所にようこそですぞ!見ていってください」

 今見ているのは自警団の面々が組手や木剣で模擬戦をしている。騎士団長がうずうずしだした。バートが戦っているのを見て戦いたくなったのだろう。

「バート、グルスト騎士団長と戦って差し上げろ」

「レイ様、御前試合ということですな」

「よろしいのですかな、ブラック伯爵?」

「もちろんですよ、グルスト騎士団長」

 二人は剣での模擬戦で、他の人は訓練を止めて声援を送っている。二人は向かい合い、睨み合う。暫く動かないまま十数秒とまってから動く。剣と剣が交差し、何度も打ち合う。勝敗をつける気は無いようだが、それなりには本気みたいだ。

「ふぅ、素晴らしい方だな。うちの騎士団に欲しいくらいだ」

「申し訳ないが、俺はレイ様に忠誠を誓っているのでな」

「それでこそ男だな」

 俺まで恥ずかしくなってくる。二人は心の友的な雰囲気を醸し出している。ここにいる間は二人で訓練をしていそうだ。男の友情を久しぶりに見たかもしれない。こうして三日目が終わった。






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