世界最強の男の娘

光井ヒロト

9話  謁見と会談




 今日は王城で謁見である。手紙で挨拶は済ませてあるが、直接会ったことがないので顔を知らない。というか、領にいる貴族以外の顔を知らないので、常に気を張ろう。相手が実は貴族当主だったなんてことがあれば、シャレにならない。

 そういえばあの日のことだが、まともに観光できなかったので、直ぐに屋敷に帰った。帰ると、玄関には心配そうな顔をしているミリースがいる。

「ミリースどうしたんだ?」

「レイ様!心配しました。何処の馬の骨とも分からぬ輩とずっと一緒にいらっしゃったので、落ち着かず。申し訳ございません」

「あはははは、色々あってね。ロイドもすまないね」

「いえ、私は信じておりましたので」

 そんなことを言っていたが、不安でいつ飛び出そうか迷っていたことを知っている。余り心配掛けないように次の日からはローブを着て観光しに行くことにした。


 そんなこんなで今日は、王城で陛下と謁見だ。貴族当主らしく派手に着飾り、腰まである白髪を首の後ろ辺りで纏めておく。短髪にしてみたら男に見えるだろうか。これからは威厳がある様にいて行かなくてはならない。

 ちなみに、俺は不老不死何で歳をとらないが、外見は二十歳になる前に止まるだろう。

「レイ様、そろそろ王城に着きます」

 御者をしているロイドが声を掛けてくる。王都にあるブラック伯爵家の屋敷は王城から馬車で四分くらいかかる。また、学院までは五分くらいかかるので、間に位置している。

「ブラック伯爵様でございますか?」

「あぁ」

「こちらにどうぞ」

 馬車を見ているロイドをおいて、王城の中に入る。王城内の装飾を見て、リストン領の屋敷にも反映してみたい。リストンの屋敷は外見が和風だが、中はこの世界の城の様相だ。俺は絵画や調度品の目利きは出来ないので、貴族向けに商売をする商人のオラデルに見繕ってもらった。

「ここでお待ち下さい」

 城の執事が応接室に案内してから、一礼して出ていく。入れ替わりでメイドが入ってきて、紅茶を入れてくれる。匂いで分かるのだが、高級な茶葉を使っているのが窺える。

「待たせたな」

 俺は立ち上がって、臣下の礼を執る。入ってきたのは、立派な白髭を生やした厳格な雰囲気を醸し出す陛下らしき人物。それに俺と同じ白髪で、資料を沢山手に持ち、人の良い笑顔を浮かべている人。金髪で爽やかイケメン風の若く見える人がいる。どこかで見たことがある人の面影がある。誰だろうか。最後には、身長は百六十くらいで、小太りを少し超え始めて、いやらしい目線を向けてくる茶髪の男の全員で四人入ってきた。

「よい、堅苦しくなくて良いぞ。儂がルーンレリア王国国王、エルドラ・フォン・シル・ルーンレリアだ。儂の後ろに立っているのが宰相のワークス。こやつが、クール・フォン・ブーストン公爵で、こやつが、ラードリアル・フォン・べーボース公爵だ」

 後ろに立っているの白髪の男改め、宰相のワークスが陛下に名前を呼ばれて一礼する。そして、金髪の男改め、ブーストン公爵。見たことがあると思えば、ガイズの父親か。そしてこの茶髪の男改め、べーボース公爵。ブラック伯爵領の隣、アバリック辺境伯領のさらにとなりの領主だ。

 こいつは二年前からきな臭いと思っていたため、十戒に調べさせると、思った通りで帝国とやり取りしていることが分かった。さらにガイズから王女殿下を剥がして、息子のドールに無理矢理くっつけようとしている。

「初めましてだな、ブラック伯爵。お主のことはかねがね聞いておる。お主の領から様々な文化が発展してきて、特にこのチェスは楽しませてもらっておるぞ」

「それは、有り難き幸せににございます」

「うむ、今日呼んだのは他でもない。お主の性別だが、女なのだな?」

「いえ、これでも男にございます」

「おっ、男だったのか…噂では女だと聞いておったのでな。そうか、婚約者は居るのか?」

「いえ、そのようなものはごさいませんが、実は込み入った話がこざいまして、控えるようにしております」

「それを聞いても?」

 ここは、包み隠さず話すことにした。

「はい、実は不老不死になってしまったのです」

「なってしまった、とは?」

「私は生まれてより神の使徒でございます。二年前、先代が亡くなり覚醒したらしく、不老不死になってしまったのでございます」

「不老不死?」

「左様にございます、陛下。外見は二十歳前に止まります。流石に妻や子どもが死にゆく様を見ているのは辛いものですので。この話は領民にも伏せております。いつ話せば良いか、躊躇しております」

「そうか…」

 全員が黙ってしまった。空気が重すぎる。覚悟したはずだったが、やはりこの雰囲気には耐え難いものがある。だが、これで婚約話が上がってくることがなくなるだろう。

「そうだったのか、良ければ我が娘を婚約者にどうかと思ったのだがな」

「申し訳ございません」

 やはり来ると思ったのだ。俺ってブーストン家から婚約話来すぎじゃないか。

「ならば陛下、彼ならば後世に言葉を伝えてくれるのでは?」

「おぉ!ワークス、良いことを言った。我が遺言や王の言葉を後世に伝えてくれるのならば争いも起こらないだろうしな」

「し、しかしながら陛下、この者が言葉を変えたり、賄賂で変えたりしたらどうするのですか」

「ラードリアル、確かに一理あるな。どうすれば良いか…」

「陛下、ならば良い方法がございます。王が崩御なさるまで契約魔法で縛れば宜しいのでは?」

「ブラック伯爵、それは良いな。お主は契約魔法を使えるのか?」

「もちろんにございます。そして、陛下に契約の主導権を持たせれば、私には変更出来ませんし」

「良いぞ!良し、お主を見届け人に任じよう。任せたぞ」

「ははっ、陛下。この身、陛下のために粉骨砕身でこの任、勤めあげましょうぞ」

「うむ、これはお主の書類だ。渡しておくぞ」

 宰相の持っていた書類は俺のだったのかい。結構多いな。さっきからべーボース公爵が視線を向けてくる。出世されるのが嫌なのだろうな。まぁそう思えるのも、あ・と・少・し・だろうが。

「これで話は終わったな。レイよ、チェスをしようじゃないか」

 接待チェスか…上手く負けることは出来るのだろうか。









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