ジャスティン・ウォーカー〜予言の書〜

けんじぃ

遺跡へ

5月も終わりに近づき、僕達はほっと一息ついていた。この間の犯人が誰であれ、もうすぐ夏休みに入る。きっとこのまま遺跡にも近づけないだろう。


僕達は残りの学校生活を犯人のことや、遺跡にある予言について話しながらも、のんびりと過ごして過ごしていた。最高学年の7年生は、就職訓練に追われてとても忙しそうだった。そんな中、パーシルだけはみんなとは違ったようだ。
「僕は知り合いのつてで運良く就職先が決まったんだ。みんなほどは忙しくないけど、どんな仕事なのか考えるだけで頭がいっぱいさ。」
だかはパーシルも僕たちと一緒に話をしたり、ときどき空いた時間には訓練をつけてくれたりした。


そしてしばらく経って、週末の休みの日。就職する人にとって大切な能力査定の日になった。たくさんの人達が見にくる中で各々の能力を評価され、スカウトされるシステムらしい。


この日は校長先生も能力査定で出かけるとハワード先生から連絡があった。
気のせいかいつもの固い感じがハワード先生にないように見えた。


夕方になって夕食をとったあと、僕達は談話室でチェスをして過ごすことにした。
「チェックメイト。」
「また負けちゃった。どうしてイーサンそんなに強いの?」
「俺にはゴールを目指すまでの道筋が見えるんだよ。」
「ただのゲームでしょ。どんなゲームでも確率と戦略分析である程度説明つくのよ。」
「違うなイザベラ。戦略と感覚も大事なんだ。やってみるか?」
「いいわ。」
うだるような暑さの中、2人の試合を見ながら僕はうとうとしていた。


その時―
何かが頭の中に飛び込んでくる感覚が僕を襲った。目の前は談話室の温かい明かりがぼんやりして、見えていた景色が急に暗闇に変わった。そして目の前には見覚えのある景色が広がっていた。あの人が見える。まるで僕が考えているみたいに頭の中に声が聞こえてきた
―いよいよだ。今日こそあの予言を俺の者にできる。邪魔者はいない。頼んだぞ―
そういうと男は砂でできたようなあの遺跡の模型を眺めていた。


「ジャスティン!」イザベラの声が聞こえて、僕はまた大広間に戻った。
「どうしたの?少しぼうっとしてたみたいだけど。もう休んだら?」
「遺跡……遺跡が見えたんだ」
「夢でも見てたのか?」イーサンが笑った。
「違う!あれは夢じゃなかった!」
 僕は立ち上がった。三人ともあっけに取られて僕を見上げている。
「あの人があの遺跡に忍び込んで予言を手に入れようとしている!やっぱりあの人が手に入れようとしているのは」急に僕は思いついた。「今夜だ。今日は校長先生もいない。監督生の7年生も全員いない。早く他の先生達に知らせないと!」
 僕は急いで広間を出ていこうとした。途端に三人に止められた。
「落ち着けって!どうしたんだ急に」
「今日はもう寮から出てはいけないって言われたじゃない。」
僕は三人を振りほどいて、今見た事と僕の考えを落ち着いて話した。
「ジャスティン。単なる夢だって。なあ?」
「待って。でもジャスティンのその体験は不思議すぎるし、話に筋が通っているわ。それにジャスティンにはたくさんの能力があるんだから。ジャスティン、こんなことは前にもあったのね?」
「うん。」そう言われると今までも何度もこんな夢を見てきた。
イザベラはしばらくして静かに言った。「私は信じるわ」
「私も信じるわ」リリーも笑顔で賛同した。
「ありがとう」僕は二人に感謝した。
「まじかよ。分かったよ俺も信じるよ。でもどうやって知らせるんだ?」
「パーシルに相談したらどうかしら?けど、予言とか予知はまだ未知数の能力だし、パーシルや先生には夢のことは伏せた方がいいと思うわ。問題はどうやって説得するかだけれど。」
僕はイライラしていた。今にも予言があの人のものになろうとしているのに。
「大事なことよ。ジャスティン。私達だけじゃ犯人は捕まえられないわ。…今月はみそか月だわ。月の光がないと能力によるエネルギーは弱まるって聞いたことがあるわ。今日は遺跡を守る人もいないし、それを理由にせめて監視するように先生を説得しましょう。」
僕達はパーシルを探した。男子寮のパーシルの部屋にいた。
「パーシル。話があるんだ。」
「どうしたんだいこんな時間に」
僕達は、イザベラが言ったように夢のことは伏せてパーシルに遺跡が狙われるなら今夜だということを話した。
「うん。確かに遺跡を狙う犯人がいるなら今日は絶好の機会と言えるかもしれない。けれど先生達に伝えるからには覚悟がいるぞ。遺跡や予言についてそもそも生徒が知るはずがないんだ。それほどに確信がもてるのかい?」
僕はパーシルをまっすぐ見てうなずいた。
パーシルは疑わしい顔をちらっと見せたが、すぐに覚悟を決めた顔で言った。
「よし。先生に話にいこう。」
僕達はパーシルについて、モーリス先生のところへ行った。
モーリス先生の部屋の前に僕達はついた。パーシルが扉をノックした。
「モーリス先生。夜遅くにすみません。監督生のパーシルです。」
「パーシル?なんですかこんな時間に。入りなさい。」
部屋に入ると、モーリス先生とハワード先生がいた。
僕達4人はパーシルの後ろで目を見合わせた。
「先生。あの学校の中にある遺跡についてお話があります。」
「パーシル。そのことは後ろにいる一年生は知ってはいけないことになっているが。」ハワード先生が静かに言った。
「それは…彼らは偶然にもあの遺跡に迷い込んで知ってしまったのです。僕が見つけたのですが黙っていました。すみません…ですが彼らがどうしても先生に伝えたいことがあるそうなんです。」
「先生。間違っていたらすみません。遺跡にあるもののことで、それを狙っている人がいるのではないですか。」イザベラは先生の顔を見ながらおそるおそる話した。
明らかに驚いたようにモーリス先生の眉があがった。
「予言に関わることなんです!」僕はせきをきったように言った。
この答えは予想外だったようで今度はハワード先生もうろたえている。
「どうしてそのことを知っているのですか。」モーリス先生は少し怒っているように言った。
「お願いです。先生。犯人が予言を狙うなら今日なんです。見張りも校長先生もいない。遺跡の守りも弱まる今日は犯人にとって絶好のチャンスのはずです。」イーサンが言った。
「先生。信じてください。」リリーも言った。
僕達の訴えを遮るようにモーリス先生が手をかざして言った。
「あなた達がどのような経緯でそのことを知ったのかは分かりませんが、あの遺跡はわたくしたち教師が手を加えて守りは万全です。ここにいるハワード先生はもちろん校長も守りを固めてくれています。むしろ見張りは生徒を守るためでもあったのです。だから寮から出ないようにと伝えていたのに」そう言うとパーシルを少し責めるような目をして、続けて言った。
「ですからあの遺跡は安全です。」
「でも…」イザベラが言おうとしたがモーリス先生の答えは明白だった。
「月が欠けていようと遺跡の中ではまったく関係のないことなのですよイザベラ。この話はここまでです。パーシルについて寮に戻りなさい。」
僕達はしぶしぶ寮へと戻っていった。


「ジャスティン。すまない。でも先生のいうように遺跡は大丈夫かもしれない。」
「でも絶対に今日、あの遺跡に忍びこむ人がいるんだ。予言が盗まれたら大変なことになりそうな気がするんだ。」
「でも私達にはもう何もできないわ」イザベラが消え入るように言った。
「あら。そうでもないわ。遺跡に行って犯人から予言を守ればいいのよ。」意外にも提案したのはリリーだった。
「おいおい。それは無理だろ。俺たちまだ子どもだぜ?」イーサンは賛成するかと思いきや冷静だった。
「でも、パーシルがいるわ。それに犯人と戦うわけじゃないわ。先に手に入れて邪魔をするだけよ。それに私達は人数も多い。犯人は1人の可能性が高いから有利だわ」
「でもやっぱり危険だわ。犯人と出くわす可能性も高いのよ。」
「逃げて先生に伝えることもできる。」僕は言った。
「でも…パーシルはどう思うの?」イザベラはパーシルに助けを求めた。
「そうだな。リリーの言うように数で有利な可能性が高いからうまくいくかもしれない。それにリリーとイザベラの力を使えば、高レベルの能力者から逃げることもたやすい。」
しばらく沈黙が続いた後イーサンが言った。
「よし。行こう。俺らは全員シルフの代表だ。協力すれば怖いものなしだ。でも先生達にバレたし、どうやってバレずに遺跡まで行くかだ。」
「あら。私の能力を役に立てる時が来たみたいね」リリーが自慢げに言った。
「でも人は透明にできないんじゃ。」
そう言うとリリーはイザベラと手をつないだ。リリーとイザベラは消え、さっきまでそこにいたとはとても思えなかった。
少しするとまた2人がその場に現れた。
「これってすごく不思議な感覚だわ。」
「どう?私だって訓練してるのよ。」笑顔でリリーが言った。
「やっぱりリリーは将来スパイだな。」イーサンがひやかすように言った。
「あらどうせならもう少しまともな仕事に就きたいわ」リリーは軽く答えた。
「よし。そうと決まれば早く出発しよう。」
僕達は暗闇の中遺跡に向けて出発した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品