ジャスティン・ウォーカー〜予言の書〜

けんじぃ

目覚め

 紀元前三千年頃― ヴュール文明、ヴァーテル文明、ヴィント文明、アールデ文明の四つの大文明が起こる。これらの文明は歴史上、人類の世界最古の文明とされてきた。
 しかし、それよりはるか昔。紀元前六千年頃―
 のちにアルカナ文明と判明するその文明を築いたのは特殊な能力を使う種族であった。彼らは、生まれつき自然界エネルギーや動物の身体エネルギーについて理解することに秀でていた。自然界の能力を己の力として使用したり、己の身体能力を高めることを可能とした。
自然を理解し、自らのエネルギーを自然と調和させることのできる彼らは平和を愛する種族であった。自然界における最も重要な火、水、土、風の使い手である四人の長達が収めるアルカナ種族は、協力し合いながら高度な文明を築いた。しかし時が経ち、能力者の中から闇に落ちる者が現れ始めた。そして、彼らは力を求めて争うようになった。
闇に堕ちた者達を止めるために奔走し争いを沈めた長達であったが、闘いの末、四人の長達は袂を分かつ事となった。
 時が立ち、それぞれ四人の長が治めるヴュール、ヴァーテル、ヴィント、アールデ種族は文明を築いた。しかし再び闇に堕ちるものとの闘いが始まると、争いは絶えず暗黒期と呼ばれる長い戦いが始まる。長く千年近い戦いの末、彼らは表舞台から姿を消し、闘いは終わった。
彼らの能力も長い時を超え、やがてなくなってしまったかのように思われた。


 そして西暦二〇一二年十二月二十一日。フラム王国。
    この王国には古くからつたわるヴュール遺跡がある。しかし、もはや誰も近づくことのない遺跡であった。遺跡の入口と思われる入口には街灯もなく、真夜中近くになり、ますます暗くぼんやりと遺跡の影が月明かりに照らされるばかりである。
音一つない静かな夜。いつもなら森の奥にある遺跡に訪れるものはいるはずもないが、今日は違ったようだ。森のさらに奥、暗闇の中にわずかに人影が見える。すると人影は少しずつはっきりとし、森の中から1人の男が現れた。男は月明かりに照らされた。ヒョロリと背が高く、丸い眼鏡をかけている。眼鏡の奥には月明かりでもよく分かる緑色の目が光っている。本当はもう少し若いのだろうが、疲れた顔のせいなのか、黒く短い髪に混じった白髪のせいなのか、歳をとったようにみえる。男は右手に松明を持ち、遺跡の奥へと姿を消した。
   松明の火に灯され、石畳の暗い通路に男の顔が映し出されている。通路の壁には生き物ような絵や現代とは違う字が描かれているが、意に介さずに男は進んでいく。しばらく進んでいると、広い部屋に出た。部屋の奥には石版が見える。
石版には不思議な模様の溝が彫られ、その真ん中には、小さく丸いくぼみがある。


「博士。石版の前に着きました。博士本当にやるんですね。」一人の男の子の声がどこからともなく聞こえてくる。しかし男性の姿以外周りに人影は見えない。
「今更何を言っているんだアダム。」中年の男ではなく、別の男の子の声が聞こえてくる。
「エヴァンスいいんだ。君たちとの議論は散々してきたはずだ。これから起こることがどういう結果をもたらすにせよ必要なのだ。」博士と呼ばれるその男性は力強く答えた。
「私も準備できたわ。」もう1人女の子の声がしてきた。
「ここまで私に力を貸してくれてありがとう。本来であれば私は君達が許してはいけない存在なのに。みんな私を信じてくれるね」
 姿は見えないが子ども達は、沈黙し不安ながらも頷いてみせたかのようだった。
「でも博士。本当にうまくいくのかしら」
「大丈夫だ。君達なら大人が成し遂げられないような多くの事を成し遂げることができる。私はそう確信しているよ。」
「俺達ならやり遂げられるさ」エヴァンスが力強くみんなに語りかけた。
「ありがとう。では、最後の任務だ。みんな自分の役割は分かっているね?頼んだよ。……みんな幸運を祈っている」
   男がそういうと遺跡の中は再び沈黙に包まれた。そして首にかけたネックレスを服の中から取り出した。中央には真っ赤に光る小さい石がある。するとその石を取り出して、石版のくぼみに石をはめこんだ。しばらくすると石版のくぼみから溝を通って赤い光が広がっていった。石版から広がった光は地面につながり、三角を描いた光の真ん中に石版と男が立っていた。
  男はズボンの後ろポケットから写真を取り出し眺めた。しばらくすると顔をあげ、見えることのないはるか先を眺めているかのようだった。
  「もうすぐだ。」


 男が眺めるはるか向こう。夜があけ朝を迎えようとしていた。
 空は分厚い雲に覆われ、雷が響きわたり、大雨が降り続いている。しかしこんな天気だろうとも、いつも通り日常を送る人々で街中があふれかえっている。
 会社に早々と出勤する人。学校にいく準備をする子ども達。寝坊してしまった人。家で朝食の準備をしながらニュースを見ている人。
 この日も何事も無く一日がすぎるはずだった……
「おはようございます。アトモス国の天気です。今日のの最低気温はマイナス二度で、日中も肌寒い一日になるでしょう」
 一人の女性がキッチンで朝食の準備をしながらテレビを見ていた。
「やだわ、まだ続くのかしらこの寒さ。先週からずっとこの寒さだわ。早く暖かくならないかしら。洗濯物も乾かないし。本当にあの子達の服はいつも泥だらけなんだからまったく」女性はフライパンに卵を落とし入れながらぼやいていた。
「わしは、この時期に暖炉にあたっている時が一番幸せだがね」
 一人の老人がリビングに現れた。
「あら、おはようございますお父様。朝食もうすぐ出来ますわ」
「おはようソフィア。ありがとう」
 そう言うと老人はテーブルの前に置かれた椅子に座り、新聞を読み始めた。
「この寒さは今後も続くと思われっ」「ピッ」
 女性はテレビのリモコンを向けテレビを消した。
「本当に嫌ですわこの天気。寒さだけじゃなくて空も気味が悪くて」
「確かに。こんな雲の様子はわしも今まで見たことがないのう。まあしかし心配はなかろう。ジムはもう出たのかね?」
「はいついさっき」
「まったく、朝ぐらいゆっくりしていけばいいものを」
「この頃かなり忙しいみたいですよ」
「わしのように仕事ばかりにならんといいが」
「心配いりませんわ。それにお父様だってちゃんと家庭を大切にしていたって聞いていますわ」
「いやいやそんな事はないんじゃが」老人は照れくさそうに新聞で顔を隠した。「子ども達は?」
「さっき呼んだんですけど。まったく、あの子達はいつになったら、自分達で起きる事を覚えるのかしら」
 そう言うと、母親は一旦コンロの火を止め二階へ上がっていった。
 ドンドン。
「早く起きなさい。もう八時よ。早くしないと入って叩きおこすわよ」
 ドアがゆっくりと開いて、二人の男の子が出てきた。二人とも眠たそうに目をこすっている。顔がそっくりの双子だ。二人は母親について降りていった。
「まったくこの子達ったら」
 母親の後ろから二人がちょこんと顔を出した。
「おはよう」老人は新聞をたたみ、子ども達に向かって挨拶した。
「おはよう。おじいちゃん」二人の声が揃っている。
 子ども達が席に着こうとしたその時、テーブルが少し揺れ始めた。
「お母さんなんかテーブルが…」
その瞬間。とてつもなく大きな揺れが家全体を襲った。
「大変。地震だわ。みんな急いでテーブルの下へ」母親が叫んだ。
 しかし、次の瞬間。部屋中の電気が消え、部屋全体が暗闇に覆われたかのように思えた。しかし奇妙なことにそこは家の中とは思えないほどの暗闇だった。
 そしてしばらくすると電気の明かりと共に家族全員の姿が照らされた。しかし奇妙なことにまるで時間が止まったかのように全員が電気が消える直前の態勢のままだった。
「いっ。何が起きたのかしら?みんな大丈夫なの?ノア?リアム?お父様?」母親は頭を右手で押さえていた。
「わしは大丈夫じゃ。少し頭は痛いが」
「あなた達は大丈夫なの?」
「何ともないってば。ママ」
 母親は二人に近寄って、体中を触りながら安心したように抱き寄せた。
「本当に大丈夫なのね?よかったわ」
「何だったのかの。変な夢を見たような気がする。」
「私もそんな気が。でも思い出せません。一体何が起きたのか。」
「外の様子を見に行こう。お前達はここにいなさい」
 外の様子を確認しに二人は外に様子を見に行った。隣人も外に出て確認しているようだが、いつもと変化がない。ただあの雲を除いては。不気味な雲は跡形もなく消え、雨はすっかり降り止んでいた。日差しが差しついさっきまでの天気が嘘のような天気だった。空の上に4色の光がうっすらと見える。
「本当に気味が悪いわ。この空なんなの。雲一つ無くなっているわ。それにあれだけ大きな揺れを感じたのに何一つ変わったところがないなんて」
「そうじゃのう。だが、周りも地震の影響も受けていないようじゃ。……さぁ中に入ろう」
 そう言うと二人は家に入っていった。周りの隣人達も不思議そうな顔をして家に戻っていった。
「ねぇねぇ何だったの?地震?家たおれてたの?」双子が揃って母親に近づいてきた。
「何にも変わってなかったわよ」
「なんだなんだ。つまんないの。何だったの?」
「本当に分からないわ」
「のうソフィアさん。それより、わしは少しお腹がすいたんだが」
「僕もママ」
「はいはい。じゃあ急いで今から作りますね」
 母親は再びエプロンを着てキッチンへ入っていった。
「でも、やっぱり気になるわ。こんな不気味な事初めてだし。あの人も無事だといいんだけど」
 そういうと母親はもう一度フライパンに火をつけた。ボッ。
「あらやだ。火を強くつけすぎたかしら。おかしいわね。」
 
西暦二〇一二年十二月二十一日。午前八時~八時一分六秒六。

 この日人類は滅びた。いや、新たな進化の段階を迎えたのかもしれない。人類の目覚めの瞬間である。

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