ジャスティン・ウォーカー〜予言の書〜

けんじぃ

十一歳の誕生日

    その日の夜。ジャスティン・ウォーカーは眠りについていた。
 僕は、信じられないくらい青くて広い空を飛んでいる。下の街がほとんど点に見えるぐらい高く飛んでいる。僕の左前方には見た事のない鳥の群れがいる。速いな、よし。僕は風に念じ、スピードを上げ、あっという間に鳥の群れを追い越した。


すると周りが暗くなり場面が変わった。どこだここは?僕はいつの間にか地面に立っていた。すると後ろから声が聞こえてきた。
「実験が成功しました」
 周りが暗い。地下の廊下みたいなところだ。二人の男性が話している。一人は、黒髪の短髪で背は高く、白衣を着ている。眼鏡の奥には僕と同じ緑色の目が見える。歳は三十代後半。顔が疲れてみえるせいか、実際より歳をとっているように見えるのかもしれない。しかし、顔は喜びに満ちている。もう一人は、同じくらいの身長で黒髪。顔を見ると歳は五十代に見える。しかし、白髪もなく背筋がまっすぐしていてスーツをきているせいか、しっかりしていて若く見える。いかにも政府の人間みたいな雰囲気だ。
 白衣を着た男が続けて言った。
「ある特定の音波を使うことによって、成人後でも能力の覚醒が可能です」
「そうか、ごくろうだった」
 落ち着いた低い声が響きわたった。
「しかし通常、能力は成人前に目覚め、能力値が決まってしまうのです。能力を無理矢理覚醒させる事はできても、あの子達のように複数の能力を使う事も、能力値を上げる事も不可能です。能力の使い方を鍛える事はできますが」
「そうか、それは残念だ。しかし、成人後、誰であっても能力は目覚めるのだな」
「そうです」
「素晴らしい。よくやってくれた博士。人類が今まで決して得る事ができなかった力を誰もが得る事ができるとは。早速軍人を対象にその方法を試してみてくれたまえ」
「分かりました。一般人への公開はどうしますか」
「一般人への公開?そんな事はしない」
 白衣の男の顔色が変わった。
「そんな。なぜなんですか」
「博士。君ほどの天才が分からない訳がないだろう。そんな能力を一般人が手にした世界を想像したまえ。世の中が犯罪者だらけになる事は目に見えている。しかも、一般人に公開し、その技術が他国に渡れば、我が国の研究が自らを苦しめることになる。我が軍だけに使用し、世界一の軍事国家としての位置を不動のものとすることが最善なのだ」
「しかし、この技術は人類の大きな進化の一歩なのです。あの子達も普通の生活を送れるようになる。この技術を留めておく事は科学への冒涜であり、不可能な事です」
「いや、可能なのだ。我々がそう考えればな。この話はもう終わりだ」
 スーツの男は、博士に背を向けて行ってしまった。博士はしばらく落胆していたが、何かを決意したかのような顔をして、スーツの男とは反対の方へ去って行った。


 ジャスティン・ウォーカーは、目を覚ました。
 さっきの夢はなんだったんだ?リアルな夢なら何回か見たけど、それでも自分が見た事のない人の夢まで見るなんて初めてのことだった。
    起き上がると足元にはプレゼントが2つ置いてあった。今日は僕の十一歳の誕生日である。ついさっき変な夢を見たことなど忘れて、無我夢中でプレゼントを開け始めた。
 大きい箱の中にはサッカー・ボールが手紙と一緒に入っていた。手紙には「もっとうまくなれよ。誕生日おめでとう」と書かれている。
「イーサンって本当にサッカーバカだよな」
 もう一つの小さめの箱には手紙が挟んである。スミス夫妻からだ。手紙には「これはあなたのお母さんが持っていたものよ。大事に使って下さい。それと私達からは、時の砂時計を。上手に使って下さい。お誕生日おめでとう。ジョン・スミス、エレン・スミス」と書かれてある。
 箱を開けると一本の万年筆とボトルインク、砂時計が入っていた。黒くて細長い万年筆には、金色の文字でエレナ・ウォーカーと書いてある。少し古くて色あせていたけど書いてみるとしっかりと書けた。軽くて使いやすい。こんな立派な万年筆を使っていたなんて、小説家か何かだったのかな。母さんは、僕が三歳の頃に交通事故で死んだ。小さい頃「何で僕のお母さんは死んだの?」と聞くと叔母さんはとても悲しそうな顔をして僕に教えてくれた。それ以来、叔母さん達に母の事は聞けないでいる。父は、母が僕を生んだ時には既にいなくて叔母さん達もよく知らないようだ。
 砂時計を立ててみると金色の砂が流れ始めた。なんだろうこれ。ただの砂時計と何が違うんだろう。取扱説明書のようなものが入っていた。


『時の砂時計』
 この商品は、使用者のスピリットを込める際に、条件を念じることによって、その時間を狂うことなくぴったりに知らせる砂時計です。・・・


 なんだか難しそう。多分これ念具だよね。確か、使用者のスピリットをある念動力に変換してくれる道具。でもまだ僕はスピリットもよく分かってないし。まぁいつか使えるようになるまではとっておこう。
「ジャスティン。朝食よ。降りてらっしゃい」
 一階からおばさんの声が聞こえてきた。プレゼントを急いでしまってリビングに降りていった。今日はいつにもまして豪華な朝食だ。僕の大好きなカリカリのベーコンにウィンナー。スクランブルエッグにトーストにワッフルに色々ある。
「おはようジャスティン。お誕生日おめでとう」
「おはようございます。プレゼントありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「叔父さんはどこに?」
「あぁ・・・あの人はちょっと仕事でね早めに出かけたの。あなたによろしくって言ってたわよ。さぁ座って。今日は午後からお友達を呼んでお誕生日パーティーですからね」
「本当にありがとうございます」
「何言っているの。気を遣わないでちょうだい」
 イーサンの隣に座ると、イーサンが小声で話しかけてきた。
「俺からのプレゼントはどうだった?お前にぴったりだろう?」
「そうだね。まぁ君程度なら、すぐに追い越すけどね」
「まぁいいさ。今日は誕生日だからな。特別に許してやるよ」
 そう言うとイーサンは黙って朝食を食べ始めた。僕も食べ始めた。好物がいっぱいだ。まずはベーコンだな。本当に叔母さんの料理は美味しい。僕の母さんはどうだったのかな・・・


「ジャスティン。お誕生日おめでとう」
 午後からは友達を招いての誕生日パーティー。お菓子にカードゲームにおもちゃ。後でゆっくり見るのが楽しみだ。叔母さんの手作りチョコレートケーキに豪華な食事。本当に美味しい。もう動けないくらいおなか一杯に食べてしまった。パーティーももうすぐ終わりそうな頃家のベルがなった。
「あら誰かしら。パーティーはもうすぐ終わりなのに」
 叔母さんはそういうと玄関へ向かっていった。
 戻ってきた叔母さんは少し複雑そうな顔に見えた。腕には包装された小包を抱えている。
「ジャスティン。あなたによ。けれども送り主が分からないの。検査を受けているから怪しいものではないとは思うんだけど」
 小包には手紙が挟んであった。見慣れない細長い文字で「お誕生日おめでとうジャスティン」とだけ書かれてあった。裏を見ても何も書かれていない。箱を開けると、そこには今まで見たこともない針が二つついた黄金色のコンパスがあった。

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