予備席のマイリトルデイドリーミング
おひさま山と渡り鳥
おひさま山と渡り鳥
ある所に、人里から離れて住む、1人の木こりが居ました。
薪を作っては街まで売りに歩いて生活していましたが、友達と呼べる者はおらず、1人で静かに暮らしていました。
木こりの家の近くには、小さな山があり、木こりはそれを「おひさま山」と呼んでいました。
その山は、朝になるとおひさまが登ってそこから出てくるのでおひさま山と呼んでいます。そしてこの山の方からは、毎朝大きな青い渡り鳥が木こりの家の庭にやって来ます。
コーン、コーン、コーン…
バターンッ
毎日木を切る木こりはお昼になると街へ出て薪を売ります。街には色々な人が住んでいますが、木こりはあまりその人達が好きではありませんでした。薪を売る時に、やれ「薪の形が揃ってない」とか、「腐った木も入っているからよく燃えない」なんていつも文句を言われるからです。
家に帰ってくると木こりは、街で言われた嫌な事を誰かに話したくて仕方ありませんでした。ですが、木こりの家の近くには誰も住んでいません。
ある日、木こりはおひさま山から飛んで来る渡り鳥を見て思いつきました。
「そうだ!この鳥に手紙を括りつけよう。そうしたら、誰かから返事が来るかもしれない」
木こりは毎日、その日に起きた嫌な事を手紙に書いて、次の日の朝に来る渡り鳥の足に結び付けました。
手紙の返事は来ませんでした。それでも次の日来る渡り鳥には手紙がついてなかったので、どこかの誰かは手紙を読んで居る、と、木こりは思いました。
ですが渡り鳥はおひさま山に飛んで行くので、おひさま山に住んでいる人が手紙の返事をくれないのだと木こりは思う様になり、次第にそのおひさま山に住む人の事も嫌いになりました。
コーン、コーン、コーン…
バターンッ
ある朝、木こりが薪を作っていると、庭先にいつも通り青い渡り鳥がやって来ました。ですが何と、濡れてしわくちゃになった手紙を咥えているではありませんか。
木こりは慌ててその手紙を広げて読みました。すると…
『お金の無い奴は、心が狭い』
手紙に書いていたのは、たったそれだけでした。
木こりは激怒しました。自分が貧乏だとバカにされたからです。こっちは散々手紙を書いてあげたのに、やっと返事を書いて来たおひさま山に居る人は、木こりの事をけなしてきました。
その日は街に行っても木こりは怒ったままで、怒った木こりから薪を買う人は誰も居ませんでした。
家に帰ってから、木こりは渡り鳥に括り付ける手紙を書きました。もちろん、おひさま山に住んでいる人に宛てて。
「この最悪な1日は、全部お前のせいだ!」
そう書いた手紙を括りつけた青い渡り鳥は、おひさま山にそれを運んで飛んで行きました。
それから、たまにおひさま山の人から手紙の返事は届きますが、その内容はどれも木こりを怒らせる内容ばかり。
次第に木こりは、おひさま山に住んでいる人が憎くて憎くて仕方なくなってきました。
「あのやろう。いつか見つけたら、思いっきりひっぱたいてやろう。でも、アイツは臆病だから、山から降りて直接俺に文句を言う事は出来ないだろうな。だって、アイツは1回も降りてきた事が無い」
腹が立ちながらも、木こりは弱虫なおひさま山の住人をバカにしていました。
コーン、コーン、コーン…
バターンッ
秋頃になると、薪は良く売れました。冬が来るまでに街の人達も準備をするからです。それまでも木こりとおひさま山の住人とのやり取りは続いて居ましたが、ここ最近は渡り鳥があまり飛んで来なくなってしまいました。
「ふふふ、鳥が来なければ、俺に文句も言えないだろう。どうだ?悔しいか?」
木こりがおひさま山に向かって笑っていると、木こりの家に人が来ました。それは旅の猟師でした。
猟師がお肉と薪を交換してくれと言うので、木こりは薪を選びながら猟師と話をしました。
「最近は鳥肉が安いぞ」
「とり?」
「向こうの山にいる鳥だよ。珍しい鳥でね。変な巣を作るからすぐ見つかるんだ」
猟師はおひさま山を指さしました。
「ははぁ、なるほどな。アンタが鳥を捕まえたから、渡り鳥が飛んでくるのが少なくなったのか。こりゃ面白い。おひさま山の奴もさぞ悔しがっていただろう?」
「おひさま山の奴?そりゃ誰だ?」
「え?あの山に住んでる奴だよ。アンタもそっちから来たんだろう?どうだ?弱虫のアイツはどんな顔してるんだい?」
猟師はキョトンとしていました。
「山で鳥を捕まえていたが、あの山に住んでる人など居なかったぞ?」
首を傾げた猟師はそういうと荷物をまとめてさっさと街の方に向かって行きました。
「何を言ってるんだ?おひさま山に誰も居ないって?」
その時、久しぶりに渡り鳥が飛んできました。しっかりと、濡れてぐしゃぐしゃの手紙を咥えています。
「ほらな、手紙が来てるだろ!おひさま山のあいつだよ!」
木こりがそう言っても、もう猟師はここに居ません。
木こりは確かめる為に手紙を開きました。
そして、手紙を見た木こりは血相を変えて、おひさま山に向かって走り出しました。
おひさま山には初めて行きましたが、それ程登らないうちにある物を見つけました。
木の上にある、渡り鳥の巣です。
木こりは慌てて斧を使ってその木を切り倒します。
コーン、コーン、コーン…
バターン!!
鳥の巣には、なんだかわからないけれども、汚れた紙の様な物が沢山付いていました。
それを見た木こりは、涙を流しながらさっき渡り鳥が運んで来た手紙を落とします。
その手紙にはこう書いてあったのです。
『この最悪な1日は、全部お前のせいだ!』
おしまい
あとがき
誰が受け取るか分からない手紙。その手紙に、木こりは嫌な事ばかりを書いていました。何故なら、木こりにはコミニュケーションを取る相手が居なかったからです。手紙を飛ばすしか、自分の胸の内を開く事が出来ませんでした。
嫌な事を手紙に書いたので、木こりはスッキリし、書いた内容を忘れてしまいます。ただ、たまに返ってくる返事を見て、木こりは怒ります。
しかし、おひさま山に住んでいる誰かに毎日自分の愚痴を聞かせてスッキリしていた木こりは、ふとしたきっかけで、とんでもない事に気付きます。
渡り鳥は、巣を作る為に材料を探していました。木こりはその鳥に手紙を括り付け、鳥はその手紙をなんと巣作りに使います。
巣に適さない物を選んで、鳥は何処かに捨てようとしていました。つまり、鳥が運んでいたのは全て自分が過去に書いた他人への悪口の手紙だったのです。それを木こりは『誰かからの返事』だと勘違いしてしまいました。
嫌な言葉は、誰が見ても嫌な言葉のままです。それを誰かにぶつけて自分はスッキリしても、ぶつけられた人は嫌な気分になります。それがこの物語で言いたかった事になります。
この木こりの様に、自らが発言した言葉に、自分で怒っていませんか?誰にもコミニュケーションが取れない環境を、誰かのせいにしていませんか?木こりはもっと、街の人の意見を聞くべきではありませんでしたか?街に行く度に嫌な思いをしていたのは、誰が原因だと思いますか?
…そして、あなたも運ばせていませんか?
『青い渡り鳥』に、『嫌な言葉』を『世界中』に向かって。
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