The hater

とある学園の教師

第3話

ある時から、人は終わりを迎えようとしている。
ニガヨモギが落ちた時。
つまり、恐竜時代の終期。氷河時代の始まり。
最古の人たる神が死に絶え、猿人類が生まれた時代に近い。
詰まるところ、人類という種族の流転の起点でもある。
クローヴェル、もといタカシは人類に火を授けた。
せめてもの罪滅ぼしだ。
地球という原始生命体を生み出してしまったことへの責任を感じていたが故の行動だ。
限りある生命に、せめてもの謳歌を。
彼なりに考えて。
数々の宇宙を渡り歩いて、辿り着いた不憫な世界。
彼にとって、憐憫の対象であった。
猿のような姿であったとしても、彼は気にしなかった。
どの世界でも始まりはそうだったから。
進化していくことを知っている。
だから、彼は地球という星で人類と共に歩むことに決めた。
不老不死の運命であるのだろう。
偶然生まれた世界の行く末を見てしまったから。興味に溢れていたから。
初めてのことだらけだった。


しかし、知ってしまった。
この星も、搾取される側であることを。
憎まれる側であることを。
つまり、自分と同じであること。







「太平洋上空!未確認生命体を検出!迎撃を開始します!」
「空御門タカシ!出撃命令を出す!」
「やれ!早く!」
地球には敵がいた。
異界の化生ではあったが、それは原始の地球から存在した。
アバドーンとも呼ばれた蝗たち。
「駄目です!焼夷弾幕、効きません!」
「なんだよ、あれ………!」
管制室が騒めく。
人面の虫が飛来する。十、廿、丗、無数。
不気味なもの。
恐怖を啜る害虫。
「止めとけ、税金が勿体ない。俺の分がなくなっちまうだろ」
タカシの軽口に管制室の空気が冷える。
冗談を言ってる場合か、とか。
場の空気を読め、とか。
そんなことばかり言っている大人達を一笑する。
快活に。
笑い飛ばした。
「血税で飯食ってんだ。仕事はするさ。カタパルト!射出準備!」
虚空からナイフを取り出す。
「心象風景、同調開始。憎悪ボルボロスよ、力を貸せ」
胸に、心臓に突き立てる。
血が溢れるが気にしない。
「あぐぅっ………」
苦しい。
痛みは感じないが、これには慣れない。
肉が盛り上がって、異形を成していく。
イカつい竜人ドラゴニュートのような化け物になっていく。
七本の角、五対の肩峰。
クローヴェルだった頃に宿った悪魔の姿。
憎悪の獣、ボルボロス。
全てを泥にする、形ある恐怖。
「ウォォォォォォ!」
獣が叫ぶ。
カタパルトが展開される。
泥団子のように捏ね上げられて、翼が形作られる。
射出。
翼を広げ、空を翔る。


「やはり、君は何者だ?」
オペレーターの1人が呟く。
「彼は、神だ。私達人類に火を授け、知識を齎した最も人間に遠い悪魔」
司令官が続ける。
「私よりも長く生きる不老不死の化け物だ。あの姿は、憎悪あってこその肉体。彼が教えてくれたが、何処までが嘘なのかはわからんがね」
そんな話をしている間に、無数の蝗達を屠っていく。
「だが、彼は真の神ではない。だからこそ、私達人類に服従している。
人でありたいという願望が、彼を拘束した。彼は貪欲だよ。それ故に人でなくなったらしいが」
「不老不死………」
「あれが、俺達の味方……?」
騒めき続ける。
何せ、初めての事だ。
この防衛省外来生命対策部の発足もタカシによる提案だった。
もしもを恐れた、彼なりの予防線。
そして、実際に利用することになった。
自衛隊から来たもの、他の省から呼ばれたもの。
様々な人間が集まっていた。
殆どの人間が、眉唾ものだと思っていたが。
こんな事態になって、恐怖に駆り立てられる。
これが終わったら辞めてやると思っている者も居た。
「でも、これならいけるぞ………」
「あぁ、彼が居れば………」
「馬鹿者!」
一喝。司令官の一言で、騒めきが止む。
「確かに本来ならば!彼一人で充分だろう!だがな、我々が存在する意味は!ここで彼を全力でサポートすることだ!そして、この戦いは反撃の嚆矢だ!まだ始まりに過ぎない。油断するな!」
冷静だった男だが、その言葉は感情的だった。
「空御門タカシよ、お前の力はその程度なのか?」
期待を含んだ声音。
その声が聞こえたのか、次の瞬間。
タカシは自爆した。
泥が飛散し、再び形造っていく。
飛び散った泥は蝗達を溶かしていく。
再生する度に肥大化していく。
泥を取り込んでいく。
そう、吸収しているのだ。
憎悪を取り込み、憎悪を生み出していく。
「憎悪は、一種の恐怖だという」
司令官がまた呟く。
「人を憎むことは、やがて伝播する。そして、憎むことで堕落して逃げ道を作り出す。確かに、恐怖という感情と似ている」
独り言だが、管制室の全員がその言葉を聴く。
「彼はその憎悪を支配しきっている。まるで、本物の悪魔のように」


本来、悪魔は人の悪意が作り上げた無の存在だった。
我儘によって生み出され、好き勝手に蹂躙されていく。
やがて、人に服従している彼らはバグを膿んだ。
人の心を巣食う、悪性化生になった。
悪が、無辜の存在を悪に落とした。
伝播した。


「タカシ。お前は…………」


どれだけの苦痛を味わってきたんだ。

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