界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

70話rent@むだではない(震え声)

とあるビルの貸し会議室。

ここでは色々な団体が僅かなお金で活動場所にするのに最も効率的に良い所だった。
それこそ熱心に取り組む姿勢すら見えるほどに。

しかし、この日この会議室を借りたのは、全くもって正反対の者達だった。


広い会議室。

だが、その中央に長テーブル一つと人が2人。椅子は4つと冷めきっている奇妙な場となっていた。

「あー、暇だな」

男、首から髑髏やら奇妙なモノをぶらさげながらスーツ姿のボサボサとした無精髭を生やしている。歳は見た目で30代といったいわゆるおっさんが、頬杖つきながらボーッとしていた。

その向かい側には白いワンピースに銀髪の色白の異国の少女が中ぐらいのパイプ椅子にチョコンと座っている。
しかしこちらは反対に何の感情も持っていないのか、ジッと目の前の気怠げな男の顔を見つめていた。


つまらなそうにしている男をただジッと見ている。
このような奇妙…………いや、ホラーが2時間も継続していた。


だが変化はあった。

突如会議室のドアがノックされたのだ。

「入れや」

男がようやく暇以外の言葉を口にして促すと、ドアが開きそこから少年が入ってきた。

「……まったく、君はいつもそうだね天海てんかい。俺が現れても顔色変えない界外術師は君達くらいだよ」

少年は呆れたように言ってすぐにパイプ椅子に座る。

「ハッ、お前が邪神チーム最強の男だと知っている界外術師もここいらのメンバーぐらいだろうが。つーか、有名人だって自覚はあるんだな」

「なんだい、君はもしかして俺に嫉妬しているのかな?有名人でカッコいいから」

「……カッコいいは言ってないぞ。どんだけ自分が好きなんだお前は」

「自覚はある」

少年が余裕な顔で答えると、天海(てんかいと呼ばれた男がゴホンっと咳をして話しの流れを変える。

「よっしゃ、これで全員集まったみたいだし、これから『約束された盤上』幹部チーム『邪神』の臨時作戦会議を行う」

「待て天海てんかい南條なんじょうがいないけれども……」

「あの女は下準備で外回り中だ。もっとも、会議中にいたらうっさくて論議が進まねぇ。いない方がかえって好都合だ」

少年は天海の考えに「なるほど」と納得すると、空白の席に座るはずだった人物の性格などを思い出してそれが最善だとなおさら思う。

「知っての通り、一ヶ月ほど前にニア様が実験的な界外術にわざと失敗し、大きな穴が空いたのを知っているだろう」

「あぁ、確か『闇そのもの』だったか? 邪神系列でも語られそうな神の名らしいが、質が根本から違うんだっけか」

少年の質問に、何故か天海は冷汗をみせる。
何だろうかと思っていたが、その前に天海が答える。

「ニア様が言うには邪神でも主神でもないようだ。そもそもアレは神話というベースすら外れた異世界の神だとか……はぁ……」

「……なんだよ、さっきから覇気があんま感じねーぞ。俺がいない間になんかあったのか」

訝しげに見られた天海は、机に両手をついて深くため息をしたと思うと今度は項垂れていた頭を上げて少年の顔を直視する。
その顔には、彼の覚悟のようなものが宿っていた。

ゴクリ、とつい喉を鳴らして少年はその次の言葉を待った。

天海は重々しくも、そして細く小さい声で少年に言う。

「…………今日なんも食ってない」

「…………あ?」

何言ってんだこいつ?
そう思ったのも束の間、目の前で真面目な顔で意味不明な事を呟いたおっさん、正確にはその腹からグーーーッと大きい音が響いた。
腹の虫がなった。

少年は発言もそうだが、腹の音に呆れながら天海に尋ねた。

「……また競馬でもしてスッたのか?」

「二日前にここ借りてよぉ、借りて支払った分だけ取り戻そうとして全額つぎ込んじまって…………」

天海はそう言って力尽きたのか机に突っ伏した。

そんな姿に少年は呆れて頭を掻く。

この男がこのような事態に陥っているのはこれが最初ではなかった。
少年はこの場にいない南條なんじょうなる人物から度々同じようなことを聞かされていたからだ。
彼女曰く、パチンコで20万を使い切り。とある組が主催する賭博会場で全財産を損失し、危うくマグロ漁船に乗らされそうになり逃げていたり。黒服とグラサンの男達にに殺されかけたり。
この間はニアの実験的計画の界外の成功か失敗で成功に賭けた5000円で彼女と物議を交わしたらしい。どちらも成功に賭けていたので賭けが成立せずに中止したそうだが。


とにかく、賭博がとにかく好きなどうしようも無い男だ。

それを再確認しつつ、ここは日本だなと嫌な認識をしてしまった自分にビンタを浴びせたいなと思う少年。

(これでも、このチームのリーダーだから)

少年はそう思うのと同時に天海てんかいの界外術師としての姿を数ヶ月ぶりに思い出す。


(まさかニア様と同等以上の実力を持っているとは思え無いよな……)

腕を組んで考えている間にも、目の前にいるどうしようもない大人代表と言っても失礼のない37歳のオッさんの腹が鳴る。

このままでは会議どころではないなと思い少年は一つため息をつくと言った。

「…………だったらファミレスで会議すればよかったんじゃねーの。奢ってやっからよ」

そう提案した少年に天海はとても良い笑顔で賛同すると無言で立ち上がってヨロヨロと会議室を出た。

後姿を眺めていた少年は半ば呆れつつも立ち上がって後に続く。終始無言の白い少女も立ち上がると同じく従って着いて行く。


この日、会議室で会議で話し合った時間は僅か1分足らずであった。
もちろん、借りる為に払った5万円は、絶対に価値の合わないものだったのは言うまでもなかった。



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