界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

Compensation@その力失うとも

「ってことは……なんだ、お前達は最初からニアが出そうとしてたもの以下、ヨグよりも弱いヤツをここに出そうとしてたのか?」

「出そうとしてたんじゃなくて最初から現界していたし」

「どゆこと?」

屋上からまだ体がボンヤリとしていた朱雀に肩を貸していた霧島はその言葉に疑問を返す。
朱雀は霧島の方に顔を向けず、だた地面に線を描いていく。

「あいつ…ウチの本命で核だった奴がいるんだけど、そいつは口は悪い癖にトンデモないお人好しで、殺した人間も全員悪人ばっかりだったし」

朱雀が説明すると今度はそれにヨグが反応する。

「変な話ね、邪神を出して崇めてるのがあんた達『邪神チーム』でしょ。それなのにどうして善人のような真似をする。あんたですら一般人を傷つけるような人間の集まりのくせに」

「得手不得手って言うでしょ?私ら…天海も含めて出来ない事があいつにはできる。でもあいつは口だけだから、あいつ自身は界外術も素質も最近手に入れた新入りみたいな存在だし、それでも出来るのがあいつしかいないからこんな茶番で盤上を変えようとしているし」

「余計話がわかんなくなったわね。そんな技術も無い奴が核で盤上をひっくり返すとか、お前ら馬鹿か?」

「馬鹿で結構、それでも私たちはあいつを助けたかっただけだし」

そう言って少し微笑む朱雀。
表情には何の邪気もない、本心から思っている。
不意に向けた朱雀のその顔にヨグはニアという人物像が少しだけ変わる。
ヨグ=ソトースという神の思考がニアという人物に至る前に朱雀は書き終わり、チョークを置いて準備を終える。

「さて……これで工程が全て整ったわ。これで私の役目が終わったらあとはあんたらに任せるから好きにしてちょうだい」

「本当に大丈夫なんだろうな」

「こうもやられてまた騙すようなら巫女失格だし。それに…もう良いかなって思うし」

チョークで書いたモノ、東西南北と漢字を四方に書きそのうちをいくつもの円や図形で構成した魔法陣。
これはアリアなどの玄人が見ればわかるが、界外術では使うものではない違う系統の召喚陣だ。

その中央に朱雀は手を置き、霧島たちに離れるように言ってからそれを確認し、静かに詠唱を唱え始める。

「多くの人の悪意、害悪、妬み…それら全てを汲み取り浄化させる四聖。今一度、この哀れな巫女の願いを聞きたまえ」

詠唱が一節終わると同時に、南の方角に描いてあった紋章が淡く光る。
それを見て朱雀はもう一度詠唱を唱える。

「…英傑の魂を弄び、それを縛りつけた。天に返す任を放棄した罪は受けます。それでも、救いをーーー、今一度、魂を救う力をお与えください」

詠唱を唱えながら、中央に置いていた手を離して両手を合わせて祈り始めた。
その姿は、ぶっきらぼうで荒々しい朱雀の姿ではなく、ただ一心に祈りを捧げる巫女そのものだ。
神に願いを、その顔には一切の邪なものはない。端から見ていた霧島でさえその姿には神聖なものを感じてしまう。
そのような形で祈りを込め続けていた朱雀だったが、淡く光っていた南方の紋章に変化があった。
バチバチ、音を立てて紋章が発光しだすと何かがこの世界に現れようとしていた。
発光が収まり見るとそこにあったのは赤い石だった。
小粒の赤い石、しかし霧島はその石を見ていると何故か安心する、心地の良い気分になる。
霧島の感想はまさにその通りだった。
ふと、休ませていた体に違和感を感じた霧島は足や腕を順に目で追う。
力がみなぎる。
さっきまで疲労していた体から力が戻る。
驚いていた霧島だったが、それはヨグも同じだった。

「…他神の力で出力が少しだけ上がるとか不愉快極まりないわね…」

嫌そうな顔で手を開けたり握ったりして動作を確認する仕草をしながら感触を確かめていた。

「ヨグ、他の神ってまさかあの女が?」

霧島の質問にヨグは答えずに、未だに祈りを込める朱雀に目を向ける。
彼女はただ一心に祈った後に手を放し、今度は根付の模型、『リンフォン』を持つと赤い石のある方に向けて再度詠唱を始める。

「多くの救われない魂に再起の力をお与えください。生者、異端の神に今一度奇跡を起こす力を、この身にある『力』を代償として返す代わりにどうか!」

言い放った直後、彼女の手から淡い光が灯り、それが一方向へと伸びた。光が伸びる先にある赤い石はそれに当たり、同じように光りだす。

『救世の巫女よーー堕ちて尚も改心する汝の願い、必ずや叶えよう』

この場にいない誰かの声がヨグや霧島の耳に届いた。大きくて細い、それでいて綺麗で太い声。表現すれば誰もが違う感想を言う声が確かに聞こえた。
その声が朱雀が呼んだ神のものだと霧島が分かるのと同時に赤く光る石から光が細い線となってビルの外、至る方向に飛び交っていく。
それは赤い閃光を伴い、朱雀が呼んだ者が選んだ誰かに伸びる。

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