界外の契約者(コール)
85話 history@その微笑みは勝利の証
目の前で人が殺された。
それを目の当たりにした神宮寺は怒りと恐怖に震えながら仇を取ろうとする。
しかし、そんな感情に揺さぶられた彼の頭に憑依させたこっくりさんから気の抜けた声が響いた。
『…あ、あれ?3人とも生きてますぅよ?』
動く前に聞こえた声、その内容に理性を取り戻し、こっくりさんに応答するように頭の中で会話を始めた。
『どういう意味だ?』
『いやーそれがですぅね、渡さんと浅倉さんの心音と呼吸音が聞こえるぅんですぅ。さっき食べられた人も心臓ばくばくに動いてますぅ』
『…生きているのか?でもあれは一体どういう…』
と疑問を抱くのと同時に、何故だか持っていた黒い槍の重量が軽くなったのを感じた。
神格者の力で常人以上までに上げた腕力でも、さっきまで重いと感じたそれが今では手首のスナップだけで動かせるほどに軽い。
アリアの叫び声や人質の悲鳴を聞きながら、神宮寺は思考だけでいくつもの会話をこっくりさんと行う。
『こっくり、お前は今アレに恐怖とかは抱くか?』
『ふぇ?……な、何言ってんですか!そ、そりゃ怖いですよ!!あんなの目の前にして勝てる気がしないですぅ!神宮寺さんはどんな神ならアレに勝てると思ってるんですか!?』
『お前でも十分かと』
『ふぇ?』
『いいか、今から俺が言うことをやれよこっくり。少しでも間違えれば間違いなくやられる』
『な、何をするんですぅか?』
『探し物だ。お前の得意な仕事だろ』
神宮寺は手にしていた槍を放っぽり、アリアの気を持たせようとその肩に手を置く。
地面に放られたはずの黒い槍は、さっきまでの禍々しい気が霧散するように床にたどり着く前に消える。
それは端からみると『手を離す直前から消えかかっていた』ように見えた。
そして彼女の前に出る。
神宮寺はその顔に一切の迷いなく、目の前に転がる死体にも動じていない。
それにはアリアも、目の前で惨劇を引き起こした少年も眉をひそめる。
「…おかしいな、俺がやった行為に怒りを覚えていないのかお前は」
「まぁな、こう見えて俺も死体は何体も見ている方だ」
「役にも立たなかった弱い仲間には一切同情しないとか、俺はお前に恐怖を覚えるぞ」
そう言って、何故か後ずさる少年。
「仲間を道具とか言ってる人間が言うセリフじゃないな今の。恐怖?なんで俺なんかにそんなもん思えるんだ?」
反対に神宮寺は床をわざと鳴らしながら少年に近づいて行く。
少年は表情を変えないものの、神宮寺が歩くのと同じ歩幅で後退し始めた。
「な、何やってるの孝作!あんたが死んだら私は!!」
引き留めようとするアリアの声。
それには神宮寺も足を止めて振り返る。
「安心しろアリア、この勝負は俺が勝つ」
一方的な勝利宣言。
何の捻りもない言葉だ。
なのにアリアは、その言葉を耳にしただけで何故だか思ってしまう。
一瞬だが、本当に孝作が勝つ、と。
顔の緊張が解けたアリアの顔を見て少しだけ微笑むと、神宮寺は再び歩き出す。
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