界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

64話 休息

全てが終わりぺたりと床に腰をつく神宮寺。



「あーー、マジ疲れた」

『それにしても、私を宿した状態で戦っていて良かったんですか? 怪人アンサーは非戦闘系の都市伝説なのに……』

「そんなもん関係ねーよ、それにあんな血塗れの怪我人相手に本気で殺しあうわけにもいかないだろう。だから、お前が丁度良かったんだ」

『そうでしたか……」


神宮寺は己の身に宿した怪人アンサーと会話しながら今度は寝転がり、疲労で動けない体を休ませる。


「だーーー!! それにしたって攻撃が分かっているってのも良い意味ではないんだな! 避けるのにどんだけ体動かしたんだよ俺。もう動きたくなーい、働きたくなーい、家帰って寝たーい!」

『さっきまでカッコ良かったのにこの人…………』


怪人アンサーが呆れたように言ったのと同じく、他のメンバー達が神宮寺の周りに集まりだす。


「大丈夫ですか孝作くん!」

心配そうに神宮寺の体を労わる東條絵里。

「良くやったわね、さっすが孝作」


腕を組み見下ろすガラパゴbぐゆるぅ!?


「いま失礼なこと思ったでしょ?」

「…………お、おぼってもいばぜん」

「ならいい、次からはそうならないように気を付けなさいよ」


神宮寺の顔をヒールで踏みつけた下田アリア。
体力回復どころか消費であるのだが……。


次に駆け寄ったのは霧島だった。

「良くやったな神宮寺!」

「おぉ、霧島か…」

「ほんじゃさっそく、お前ら全員用意」

霧島はそう言ってヨグと知らない男女を呼ぶと、倒れている神宮寺の周りに位置付く。

「…………え?何この囲い」

「神宮寺ィ、さっきはよくも乱雑に投げてくれたよなぁ……」

「おかげであたしたち、ちょっと怪我しちゃったんだけど……」

「あたいら怪我しまくって痛いのに」

「傷口に塩塗るとか最悪っすね。受身も取れなかったし」

彼らは思い思いの言葉を口にし、怒りを込めた瞳で神宮寺を見下ろす。

「………………イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイおかしいおかしいおかしすぎる!! なんで命を助けた人に向かってそんなセリフが出てくるの!? 普通は『ありがとうございます神宮寺サマ』とか言うもんでしょ、なんで恨まれているわけ!?」

「このあたしに怪我をさせたっていうのは罪深いって意味なの」

「知らねぇよ!? つーかヨグは神なんだからすぐに怪我治るだろ、ちょっと絵里さん、アリア!  どうにかしてこいつらを止め……ってもう遠くに行ってるし!?」


そんな必死な弁論が通用する事も無く、神宮寺は霧島達一同にボコボコにされた。

だが彼らも優しい。

本気の五分の三で神宮寺を痛めつける程度に加減をしてあげたのだ。もっとも、神宮寺は満身創痍になるのだが。




そんな理不尽系主人公の悲劇などに、全くの興味を示さなかった少女がいた。

ティアレ。


彼女は倒れている自分の師の手を握りながら、これからどうするかを考えていた。

『魔法』は確かに強力だ。
それこそ概念を打ち破るほどに。

しかし、『魔法師』という最高位の肩書きを持ったデルモンドが己の無力さを知り、ここまでの計画を立てた。

だが、その計画も頓挫してしまった。
ティアレは目を騒がしい方にちらりと向ける。

なぜか助けた奴らに蹴られてボコボコにされている彼。

彼は、界外術師では最強の『メビウスの輪』ですら倒せない最強の魔法使いデルモンド・キルギスを、『神格者』という体質と怪人アンサーという聞いた事もない神の効力だけで倒したのだ。


それによってデルモンド自身を打ち倒して、東條絵里の身を守ったのだが。
これで終わりというわけではない。


この後、自分の師が目を覚ました時にどういった行動を取るのか予測がつかなかった。

計画を続行するのか。
先に神宮寺を殺すのか。
それとも敵を全員殺すのか。



弟子であるティアレを殺すのか。


それだけでも汗と緊張感が高まる。
動悸も早くなってきた。おそらく怖いのだろう。師に殺される事が。

でも、ティアレはそんな絶望的な未来に彼が求めていたモノが存在していれば、喜んでその運命を受け入れようと思った。


(師匠…………、あなたが救われる未来を信じます)

彼の過去に出てきたイイジャリィと言う名の少女の最期を見た彼女だからこそ、その意思は固かった。

震える手はしっかりと彼の手を握り、彼の温もりを感じる。

もう迷いはない。

ティアレは信じながら彼が起きるのを待つ。


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