界外の契約者(コール)
63話 決着 Ⅱ
9階で行われている乱戦。
『魔法使い』。
『約束された盤上』の幹部。
『メビウスの輪』。
それぞれが肩書を持つ者同士が一人が二人を、二人が一人を倒そうと戦っていた。
壁はボトボロになり、床は抉れ、粉塵が舞うフロア一帯で。お互いに一歩も譲らない攻防戦を繰り広げていた。
「死ね」
ゴスロリとんがり帽子の少女が放つ氷の弾丸を、『約束された盤上』の陸奥が使役する子供のような神の持つ大きな手でなぎ払って撃ち落とす。
「ふん!!」
陸奥はそんな大きな手に守られながら手に持つ拳銃を横一線に何度も撃ち放つ。
「おっとっと」
『メビウスの輪』と呼ばれる男はそんな銃弾を背を低めて回避し、少女は全て氷の粒で相殺させる。
一歩間違えれば死。
そんな異常な空間の中、彼らは当たり前のように戦闘を続ける。
だが、そんな戦闘音も続かなかった。
ピロロロ
突如としてフロア全体に響くように携帯の着信音が鳴り、彼らの動きはピタリと止まった。
「……?」
「何なんですか?」
少女と陸奥は不思議そうに辺りを見渡す。
すると、今まで余裕だった『メビウスの輪』が携帯を開いて液晶画面を凝視していた。
「…………なるほど、クイーンが」
彼はそう呟くと、今まさに一瞬の間を取り返そうとすべく魔法を使おうとしていたゴスロリ少女に向かって言った。
「君の師匠が堕ちた。これ以上は争っても意味はない」
そう言ったのも束の間、彼女は氷の粒の魔法を『メビウスの輪』に向かって飛ばす。
それを横に飛ぶことで回避した『メビウスの輪』はそれでも言った。
「君が戦う理由はどこにもない。安心しろ!デルモンドは生きている」
「だからなんだって……」
「ティアレ君が彼を助けるために命を張って彼の過去を知り、お姫様に協力して彼の計画を止めた。その後は弟子の君たちの番だ、君たちなら彼を救えるはず」
「………………」
少女、"ひより"は敵である彼の言葉を一切信用していなかった。
師匠が負ける?
私たちみたいな人たちの価値を高めようとしたあの人が?
こんな。
こんな『界外術師』なんかに?
しかし、そんな彼が口にした自分の一歳上の姉弟子であるティアレの名前に、彼女の単調とした思考に歪な歯車が噛み合ったかのように理解できず、納得がいかなかった。
そもそも、この計画に従うはずの弟子であるティアレが、敵である者たちに師匠を救ってくれと協力を求めた。
そこからしておかしい。
ティアレは、自分よりも師匠に対して忠誠を誓っているし、密かに恋愛感情なるモノも抱いている。
そんなティアレが、裏切るような行動をとった?
「…………嘘つくな。嘘つきは殺す」
ひよりは周りに幾つもの氷の粒を作り出す。
数百。
いや数千の細かい粒を『メビウスの輪』に向けて。
だが『メビウスの輪』は避ける動作もしなかった。
そもそも氷の粒が飛ぶこともなかった。
「デルモンドの弟子なら、彼の事を考えているなら、さっさと行くんだ」
彼が言った一言に、彼女はピクリと止まる。
何気無い一言。
だがそこに含まれる語気には大きな殺意が含まれているのを感じた。
従わなければ死ぬ。
そう言っているかのようだった。
ビリビリとする空気。
初めてみる目の前の男の本気。
そう考えつつ、ひよりは数歩後ずさる。
「…………わかった、今はあなたの言う事を聞く」
ひよりはそう言って下に行く階段がある方を向いて走り出す。
敵に背中を見せている事すら忘れて、必死に。
ひよりの姿を見送った『メビウスの輪』と、2人のやりとりを静観していた陸奥は再び向かい合う。
「よろしいので?彼女が階下にいる身内を全員始末してしまうとは考えないのですか」
「ふふ、クイーンがそんなヘマを許すとは思えないけどね。では、こちらも決着をつけよう」
「…………では」
陸奥は再度銃口を『メビウスの輪』に向けて、彼の神も大きな手に付いた鋭い常を光らせる。
が。
「ほい、こいつを君にプレゼントだ」
そう言って彼はポケットからUSBメモリーを取り出すと、戦闘体勢を取っていた陸奥に向けてキャッチボールをするかのように気軽に投げつける。
対して陸奥は、思いもよらぬ出来事に拍子抜けし、銃を急いで片手に持ち替え慌ててそのUSBメモリーを受け止めた。
「何ですかこのUSBは」
妙な醜態をさらしたと思い、彼は睨みながら質問した。
対してUSBを投げた男は、低い声で言う。
「そのUSBには、爆破事件の全容と黒幕について入っている」
「……なんでそんなモノを持っている」
「趣味だよ、最も僕は世界中の裏組織にいたから自然とそんな情報が入ってくるのさ。今回は大鷲さんの過去から察してそれを持ち合わせていただけさ」
『メビウスの輪』は陸奥にそう言ってヒラリと身を翻す。
「どこに行く?」
「別に、ただ君の目的は『恋人の死んだ理由』と『大鷲誠治に対する恨み』なんだろ。なら、もうそれはなくなった」
「だったらまだ」
「大鷲さんはあの時必死に君たちの乗っているバスを守ろうと尽力を尽くしていた。通話記録を聞いたけど、何度も何度も懇願と譲渡のお願いしていた。さっき僕が『ヤツ』の名前を口にしたら泣きながら語ってくれたよ、全てを」
「…………」
そう聞いて陸奥は黙り込むと銃を懐にしまい。ゆっくりと歩いて行く『メビウスの輪』の背中に最後の質問をする。
「……大鷲誠治はもうどうでも良い、最後に一つだけ、誰があの爆破事件を起こしたんだ」
「…………」
『メビウスの輪』は立ち止まると、振り返ってとある人物の名を語った。
その名は、ある神の名だった。
陸奥はその名をきっちりと覚え。
貰ったUSBメモリを胸ポケットにしまうと、『メビウスの輪』と同じように翻しそのまま歩き出す。
子供の容姿の神もそれに従って彼の後ろを歩く。
背中合わせの二人。
彼らはそれぞれ向かう場所に足を運ぶ。
9階での死闘は、こうしてあっさりと終わったのだった。
『魔法使い』。
『約束された盤上』の幹部。
『メビウスの輪』。
それぞれが肩書を持つ者同士が一人が二人を、二人が一人を倒そうと戦っていた。
壁はボトボロになり、床は抉れ、粉塵が舞うフロア一帯で。お互いに一歩も譲らない攻防戦を繰り広げていた。
「死ね」
ゴスロリとんがり帽子の少女が放つ氷の弾丸を、『約束された盤上』の陸奥が使役する子供のような神の持つ大きな手でなぎ払って撃ち落とす。
「ふん!!」
陸奥はそんな大きな手に守られながら手に持つ拳銃を横一線に何度も撃ち放つ。
「おっとっと」
『メビウスの輪』と呼ばれる男はそんな銃弾を背を低めて回避し、少女は全て氷の粒で相殺させる。
一歩間違えれば死。
そんな異常な空間の中、彼らは当たり前のように戦闘を続ける。
だが、そんな戦闘音も続かなかった。
ピロロロ
突如としてフロア全体に響くように携帯の着信音が鳴り、彼らの動きはピタリと止まった。
「……?」
「何なんですか?」
少女と陸奥は不思議そうに辺りを見渡す。
すると、今まで余裕だった『メビウスの輪』が携帯を開いて液晶画面を凝視していた。
「…………なるほど、クイーンが」
彼はそう呟くと、今まさに一瞬の間を取り返そうとすべく魔法を使おうとしていたゴスロリ少女に向かって言った。
「君の師匠が堕ちた。これ以上は争っても意味はない」
そう言ったのも束の間、彼女は氷の粒の魔法を『メビウスの輪』に向かって飛ばす。
それを横に飛ぶことで回避した『メビウスの輪』はそれでも言った。
「君が戦う理由はどこにもない。安心しろ!デルモンドは生きている」
「だからなんだって……」
「ティアレ君が彼を助けるために命を張って彼の過去を知り、お姫様に協力して彼の計画を止めた。その後は弟子の君たちの番だ、君たちなら彼を救えるはず」
「………………」
少女、"ひより"は敵である彼の言葉を一切信用していなかった。
師匠が負ける?
私たちみたいな人たちの価値を高めようとしたあの人が?
こんな。
こんな『界外術師』なんかに?
しかし、そんな彼が口にした自分の一歳上の姉弟子であるティアレの名前に、彼女の単調とした思考に歪な歯車が噛み合ったかのように理解できず、納得がいかなかった。
そもそも、この計画に従うはずの弟子であるティアレが、敵である者たちに師匠を救ってくれと協力を求めた。
そこからしておかしい。
ティアレは、自分よりも師匠に対して忠誠を誓っているし、密かに恋愛感情なるモノも抱いている。
そんなティアレが、裏切るような行動をとった?
「…………嘘つくな。嘘つきは殺す」
ひよりは周りに幾つもの氷の粒を作り出す。
数百。
いや数千の細かい粒を『メビウスの輪』に向けて。
だが『メビウスの輪』は避ける動作もしなかった。
そもそも氷の粒が飛ぶこともなかった。
「デルモンドの弟子なら、彼の事を考えているなら、さっさと行くんだ」
彼が言った一言に、彼女はピクリと止まる。
何気無い一言。
だがそこに含まれる語気には大きな殺意が含まれているのを感じた。
従わなければ死ぬ。
そう言っているかのようだった。
ビリビリとする空気。
初めてみる目の前の男の本気。
そう考えつつ、ひよりは数歩後ずさる。
「…………わかった、今はあなたの言う事を聞く」
ひよりはそう言って下に行く階段がある方を向いて走り出す。
敵に背中を見せている事すら忘れて、必死に。
ひよりの姿を見送った『メビウスの輪』と、2人のやりとりを静観していた陸奥は再び向かい合う。
「よろしいので?彼女が階下にいる身内を全員始末してしまうとは考えないのですか」
「ふふ、クイーンがそんなヘマを許すとは思えないけどね。では、こちらも決着をつけよう」
「…………では」
陸奥は再度銃口を『メビウスの輪』に向けて、彼の神も大きな手に付いた鋭い常を光らせる。
が。
「ほい、こいつを君にプレゼントだ」
そう言って彼はポケットからUSBメモリーを取り出すと、戦闘体勢を取っていた陸奥に向けてキャッチボールをするかのように気軽に投げつける。
対して陸奥は、思いもよらぬ出来事に拍子抜けし、銃を急いで片手に持ち替え慌ててそのUSBメモリーを受け止めた。
「何ですかこのUSBは」
妙な醜態をさらしたと思い、彼は睨みながら質問した。
対してUSBを投げた男は、低い声で言う。
「そのUSBには、爆破事件の全容と黒幕について入っている」
「……なんでそんなモノを持っている」
「趣味だよ、最も僕は世界中の裏組織にいたから自然とそんな情報が入ってくるのさ。今回は大鷲さんの過去から察してそれを持ち合わせていただけさ」
『メビウスの輪』は陸奥にそう言ってヒラリと身を翻す。
「どこに行く?」
「別に、ただ君の目的は『恋人の死んだ理由』と『大鷲誠治に対する恨み』なんだろ。なら、もうそれはなくなった」
「だったらまだ」
「大鷲さんはあの時必死に君たちの乗っているバスを守ろうと尽力を尽くしていた。通話記録を聞いたけど、何度も何度も懇願と譲渡のお願いしていた。さっき僕が『ヤツ』の名前を口にしたら泣きながら語ってくれたよ、全てを」
「…………」
そう聞いて陸奥は黙り込むと銃を懐にしまい。ゆっくりと歩いて行く『メビウスの輪』の背中に最後の質問をする。
「……大鷲誠治はもうどうでも良い、最後に一つだけ、誰があの爆破事件を起こしたんだ」
「…………」
『メビウスの輪』は立ち止まると、振り返ってとある人物の名を語った。
その名は、ある神の名だった。
陸奥はその名をきっちりと覚え。
貰ったUSBメモリを胸ポケットにしまうと、『メビウスの輪』と同じように翻しそのまま歩き出す。
子供の容姿の神もそれに従って彼の後ろを歩く。
背中合わせの二人。
彼らはそれぞれ向かう場所に足を運ぶ。
9階での死闘は、こうしてあっさりと終わったのだった。
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