界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

75話 past@やるべき事がある

放課後になり、下田アリアと神宮寺は違うクラスの圍を迎えてから校舎裏に連れてきていた。
昼休みの時に具体的な首謀者の話を聞かされたが、そもそもどうしてアリアと神宮寺が界外術師と知っていたのか。また、なぜ助けてほしいのかといった要点が聞けていなかった。

待ち合わせている霧島達と合流する前に、そこだけ聞きたく、ここまで連れてきたわけだった。


「で、あんたに私たちの情報を流したのはその朱雀って女に間違いはないわよね」

「あぁ、そうだ」

「……どうしてそうなったか、説明して」

アリアの強気な口調の前に、さすがの番長も、タジタジともごりながらも素直に答える。

「……実は、金とその界外術をボスや幹部達が手に入れてから、思想がどんどん過激になっていったんだ…」

「思想が?」

「あぁ、最初のうちは信じられない力を手に入れて俺も一緒に歓喜してたんだが、次第に仲間内で喧嘩もするようになったんだ……金の取り分がどーとかで、その喧嘩が殴り合いだったら良かったんだが……」

「界外術で喧嘩したってわけ!?」

「……あぁ、そのせいで喧嘩に負けた幹部は病院行っちまって……そっからなんだ、【フラッグ】がヤバくなったのは」

神宮寺は気づいていた。圍の肩が震えていたことに。

「あの人たち、テツロウさんもまるで人が変わっちまって……子どものイジメが過激になるように祈祷しだしたり、意味もなく大声で叫ぶ幹部も出てきたりで……もう、無理なんだ。みんなおかしくなっちまったんだ」

その内容に、改めてことの重大さを知ると同時に、アリアと神宮寺は同時に疑問に思う。

「なんで貴方はまともなの? 同じように界外術を教えてもらったって……」

「そんなわけの分かんねーもんやるわけねぇだろ! その場で濁して帰ったよ。だから俺はそれ以降、ずっとガキにイジメるように示唆してたんだ」

なるほどとアリアが思う半面、ぶん殴りたくなる衝動を抑える神宮寺に心配そうな目線を掛けつつ前を向く。

「で、問題はその次で、あなたに私たちのことを教えたこと。どうしてなの?」

「あの女は、鬼ごっこがしたいって言ってた」

「あぁ?鬼ごっこだぁ?」

神宮寺が今にも怒りそうなくらいの低い声で答えたので、さすがに昼休みの殴打を思い出したのかかこは萎縮し、一歩後ずさった。

「い、いや……あの女にもう止めてくれって頼んだら、お前らの情報と自分の写真を渡してきて『こいつらが私を捕まえることができたら彼らを元に戻して止める』って言ってきたんだ。だから、俺はお前らに頼んだってわけで……」

「……でも、それって私たちを陽動させる作戦なんじゃないの?元に戻すってのも嘘でしょ、だって狂気に染めたのも意図的だし…」

圍の説明に対してアリアが的確にツッコむと、圍もようやくこの事に気づいた。

「じゃあ俺は騙されたのか…」

さらに打ちひしがれる圍のその姿に、『因果応報』という言葉がふさわしいと思っていた神宮寺だったが、それでは解決にはならないと思い、動く。
小さいアリアを退けて、校舎の壁にのたれかかって絶望しきっていた圍の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

「孝作!」

「少し静かにしててくれ!!」

とっさに止めようとしたアリアを黙れと言った意味で制止させ。神宮寺は圍の顔を睨みつける。


「テメェ、勝手に絶望すんなよ……、昨日までに何十人もの小学生を助けてきたが、全員理不尽な理由だけでイジメられて相手を恨んで呪ってたんだぞ!! 元々おとなしかった子が泣きながら笑って同級生を苦しめる様を見たことあるか?クラスで本を読む子が大切な本をバラバラにされただけで同級生を謎の病で危篤にさせたのを知ってるか?  本当だったら、喧嘩して、泣いて、仲直りして、仲良くして平和に過ぎる日常を歪めたんだぞ!! その原因をテメェらが作ったって自覚がねーのか!!! 絶望するんならイジメられて心が傷ついて、今後の交友関係に一歩踏み出す勇気すら躊躇してしまった子供たちに土下座して謝れ!!」


顔を真っ赤に言い切り、息をつかせながら神宮寺は目の前の圍をさらに睨みつける。
ビリビリと、その迫真の怒りに声も出ず、ただただ、何も声が出ない圍は、もう小さい子供のようだった。

神宮寺がッチ、と舌打ちすると掴んでいた胸ぐらを離し、圍の身体を地面に投げるように放る。
放心状態の圍は、受身も取らずにうつ伏せのまま顔から地面に着地する。
アリアも同じく、神宮寺の見たこともないような怒りに驚いて声も出ず、体もまともに動きそうもしなかった。


「何やってんだよアリア、行くぞ」

「……え、あ、うん」

先に校舎裏から出て行こうとする神宮寺を、意識を戻したアリアが急いで追いかける。


やがて校舎裏はいつも通りの静けさが戻っていた。
地面にうつ伏せて倒れた圍は、頭を動かして去っていく2人の影をただじっと見つめるのみだった。




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