界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

7話 Kidnapping@黒いサングラス

さて、今のいままで自身が界外かいげしたヨグなる名の神と思念で会話していた男。

正確には幸丘高校在学中の三年生、霧島きりしまだんは、東京のビジネスホテルの一室で冷や汗をかきながら退室準備を進めていた。

「あーもう、なんか分かんねーけどとりあえず逃げろってことだよな!チクショウ、あとは【フラッグ】のボスをぶちのめしてもらうってのに!!」

そう独り言を言いながら、霧島は持っていたスポーツバッグにシャツやら下着などの着替えを次々と詰め込んでいく。

霧島は、ヨグから自分の居場所がバレたと言われて焦っていた。
彼はヨグとある契約をしている。その内容は『東京にいる不良どもを全員殺さない程度にぶちのめせ。逆らう奴も例外なく』と。

神頼みと言う恥ずかしいことをしている自覚は彼にもある。しかし、彼は自分のためならなんでもする妥協する人間だ。
簡単に言えば、自分の行うことに間違いはない。たとえそれが何百人もの人間を巻き込んでいてもだ。

さて、そんな最高に最悪な悪の組織っぽい結論を霧島は心で出して心で頷く。正直、小悪党ぐらいの風格と器の小さな男である。

そんな焦りと自己陶酔の奇妙な心の移り変わりをやっていた霧島は、スポーツバッグに自分の日用品や貴重品を詰め終えて、すぐさま一階に降りてここ五日間の部屋代のお会計を済ませようとドアノブに手を掛ける。

そのドアノブが回った。

「?」

霧島はまだドアノブを回していない。霧島はとっさに『作りが粗末なのか?』とそんな疑問を抱いていたがそれは掠りもしていなかった。
直後にドアが勝手に開き隙間からタオルを掴んだ手が伸びる。
タオルは霧島の口元をガッチリと鷲掴み、そのまま壁に押し付ける。
押し付けていることにより、ドアの隙間から黒いサングラスの男の顔が現れる。
霧島はまだ何が起きたかわからなかった。しかし、この状況はマズイと思い。ドアの隙間からこちらを見ている黒サングラスの男の顔にスポーツバッグを投げ当てた。

見事に男の顔に当たる。

男が怯み、霧島の口元に当てられていたタオルと男の手が外れ、その反動で男が着けていた黒いサングラスが床に落ちる。
霧島は床に尻をつき、サングラスの外れた男の顔を見て絶句する。

「なんだよ……その……目ぇ………」

疑問を言葉にしようと必死に口を動かそうとした霧島だったが、強烈な眠気が彼を襲う。
そして、『ポトリ』と頭を床に落として眠ってしまう。

寝静まった霧島を確認した男は、すぐに落ちたサングラスを拾って掛け直す。
そして右手に持っていたタオルで霧島の口元を塞ぐように縛る。
最後に霧島の身体を抱え、部屋のドアを閉めてから廊下の突き当たりにある非常階段に向かう。



非常階段の手前には数名の男女が待機している。まだ10代前半の少年だ。
男はその待機していたメンバーの中から1人を手招きして呼び出す。

「お呼びですか?」
「あぁ、お前さんを呼んだのは他でもあらへん。これ慎重に運んでおいてや」

サングラスの男はそう言って呼びつけた少年に抱えていた霧島を投げ渡す。

少年は霧島より体が小さいため受け取る際に自分より重い霧島に潰されて「ぐぇ」と悲鳴をあげたが、それだけだ。

少年はすぐさま霧島の下から出ると他のメンバーを呼び出し、最大4人で霧島を抱え非常階段を使って降りていく。

階段を降りていくのを確認しつつ、サングラスの男は黒のコートのポケットからスマホを取り出し、耳に当ててどこかに電話する。

「どうも、贔屓になっとります銀城です。ちょうど今さっき例の『唯一神』を召喚した高校生をとっ捕まえておきました。……はい、では例の場所に連れてきますんで後ほど連絡とります。そん時はよろしゅうたのんます」

男は軽快にそう言って携帯を切る。そして少年たちが降りた非常階段から自分も降りる。
ニタニタと、嫌な笑みを浮かべながら。

部屋には残されたのは、スポーツバッグと部屋の鍵のみだった。

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